第12話 - あの日の呼び声

「わかんねえよ。おじさんの言ってること、難しいよ」


 ひどく、懐かしい記憶だ。

 何故今、この景色を見ているのだろう。

 彼が見ている世界は、砂嵐が巻き起こっているかのように、かすれ、鮮明さを失っている。

 どこかに隠された、秘密基地のような、建物群の中で。

 幼いころのレウが、頬をむくれさせて、そう非難していた。

 それは、目の前で笑っている、一人の男に向けられており、その男は、気持ちよさそうに笑っていた。


「ああ。そうだ。とりあえずは、それでいい。わからない、と素直に認めることも大事だからな。全部、水平だ」

「その水平ってのがわからないんだよ! もっかい分かるまで、説明してよ!」


 レウが怒るさまを、嬉しそうに見やる男。彼は、しょうがないなぁ、なんて言いつつ、少年のオーダーに答えた。


「この世のものはな、全部、同じ価値を持つんだ、全部、水平だ。石ころも、大木も、砂も、水も、虫けらも、俺も、お前も。全部同じ価値であり、水平線上に並んでいる。それが俺ら、《水平線ホライゾン》の考え方なんだ」

「それがわからないんだよ。僕と虫が、一緒なわけないじゃんか」

「まぁ、そうだな。それが普通の感覚だ。だけどそれは、真理ではないんだな。お前みたいな坊主が悟れるほど、この思想は浅くねえんだ」

「そうやってすぐ、はぐらかす。人に教えられないようじゃ、まだまだだぞ、おじさん」


 少年は口をとがらせながら、また非難する。

 その様子を見て、男は気持ちよく笑った、


「口で言っても、わからないってことさ。じゃ、今日もやろうか。お前さん、見込みがあるんだ。毎日ちゃんと鍛錬すれば、それなりの剣士になるぞ」

「……ほんとかなぁ」


 そういって男は、傍らの棒のようなものを、少年に投げ渡した。

 それは、剣の形に削った、木刀であった。

 二人は立ち上がり、遠くへ赴く。

 男が語る真理が、剣を振った先に待っているだなんて、思ってもいないが。

 この時間はきっと、かけがえのないものであることは、わかっていた。

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