第11話 - ウルダン ギルド支部 爆散
「ダイオン様が……やられた……!」「あ、あり得ない! 嘘だ、嘘だ!」「ヒャハァ……! 魔法そのものを斬らず、ほんの一部の機能を傷付け、倒した。これが、魔崩剣ってか……!」
兵たちに動揺が広がる。
魔法も使えぬただの剣士が、無敵の魔法を纏う、Aランクを、打ち倒したのだ。
その少年をどうするのか、誰も指示を出すことができず、遠巻きに眺めることしかできない。
レウはそんな中を、ふらふらとした足取りで、少女がいる檻の中にまで歩いた。
そして、無造作に振るった剣が、檻の鍵を壊す。
ぎい、と扉がひらき、中から、白い少女が出てきた。
白髪に、白い肌。白兎を思わせる、小柄な少女。
しかし、そんな雪のような肌を、真っ赤に染め上げて、恨めしそうにレウを見上げていた。
そして、細い腕を振りかぶり、ぽかりと、レウの胸元と叩いた。
それ受けて、気まずそうに、少年はぼりぼりと頭を掻く。
「まぁ、その、なんだ。言いたいことは、わかるよ。でも、その件は一旦、後にしてもいいか? 僕ァ、あんたが言った、呪いを解く方法ってのを早く知りたいわけなんだが」
「……シャロ!」
少女は、精一杯の声で、そう主張した。
「私は、シャロ! まずはちゃんと、名前で呼んで!」
「……あぁ、シャロ。そうだな。すまなかった」
「……こっちも、その、ありがと。助けてくれて」
わだかまりが溶け、ほんわかとした空気が、二人の中に漂う。
しかし、支部長を倒したとしても、ここは敵地の真っただ中なのだ。あまり呆けている時間はない。
レウは振り向く。
戦意を喪失し、立ち尽くすばかりの兵を一瞥し、争わないのであればそのまま真っすぐ帰ろうと足を踏み出す。が。
「ぐは……ぐはは……お前ら……本当に……馬鹿だ、な……ぐは、ぐはは」
這いつくばり、首から零れる鮮血を手で抑える、死に体のダイオンが、ごぼごぼと喉を鳴らしながら、そう言い放った。
羽を捥がれた虫を思い来させる、無残な姿である。喋る度に焼けるような激痛が走っているであろう。
だが、不思議なことに、ダイオンは笑っていた。
その様子に、レウは訝しむ。
「間違えたんだよ……! お前たちは……! 我を倒すというのは、最悪の選択肢だ……!」
「お、おい! なんだ、揺れてるぞ?」「地震? 違う、この振動は……」「おい! あちこちに、魔法紋が出てるぞ! この建物中に……紋様が浮き出ている!」
兵たちが騒ぎ始めた。その言の通り、ギルド支部全体が、微かに振動しており、次第にその振動が強くなっていっている。
ダイオンが、呵呵と大笑する。
「ぐはははは……! 覚悟しろ……お前らにこれより、安寧はない! わかるか? お前は、ギルドの要職を殺した……! 世界中の猛者に、お前らを殺す大義と名分が与えられたのだ……! 高ランク冒険者パーティー、七大幹部、六剣聖、王国騎士、暗殺教会……! ぐはははは……! 血みどろの狂宴が、これより始まる! そんな悪夢の祝砲を、我から上げさせてもらおうか……!」
「だめだ! 止まらない!」「逃げろ! ギルド支部が……!」「出口はどこだ!」「ヒャッハー! 自爆装置が起動してやがる! もう手遅れだぁ!」
振動が激しくなる。建物中の紋様が眩しく輝く。兵たちが絶望の混乱の中走り回る。
レウも出口に駆けだそうとするが、人混みで詰まり、抜けられそうにない。そして紋様が限界にまで発光しきった、その時。
「レウ! こっち!」
シャロが、手を差し伸べた。レウは、その白い指を、握る。
そして彼女は、すう、と息を吸い込み、唱えた。
「【
そして何もかもが光に包まれ――巨大な爆発音が轟いた。
ウルダンの町の中央に聳える、ギルド支部。その中腹から頂上までが、一気に弾け、爆発した。
中に残る者の悲鳴も掻き消すほど、大きな大きな爆発であった。
その爆煙は、きらきらと輝きながら、不思議な紋様を形作った。
幾何学的で、神秘的な、特殊な紋様である。
一般人が、それを見ても、意味を見出すことはむずかしいだろう。
世界に認められた超常の強者が見て初めて、理解ができる。
万が一の、強敵による襲撃を受けた際に発動する、各ギルド支部に備わる最後の自爆手段であり、各所への連絡手段。
その紋様には情報が詰められている。今の状況、起きた出来事――敵の詳細。
力及ばず、敵によって陥落したギルド支部は、自爆と共に、その情報を遠方に伝える手段を備えているのだ。
それは、大きな大きな紋様となった。
果てしなく遠くまで見える、巨大な花火のようで。
一定の資格を有する者がそれを目にすると、紋様が魔法式となり、状況が一発で脳内に刻まれる。
ダイオン、敵に敗れたり。
敵は、本部が捜索している、白髪の少女、シャロ。
そして、魔崩剣を使う少年、レウ。
願わくば、どんな手を使ってでも、殺しに囲むべし。
爆煙の紋様は、消えることなく空中に留まる。
これを見た者は、果たしてどんな感情を抱くのか。
どんな強者が、見つめているのか。
どんな試練を与えるモノなのか。
街の人々は、紋様を見上げ、ギルド支部に一大事があったことだけは理解するが、それ以上のことはわからず、怯えるしかない。
ウルダンの街は慌ただしくなる。レウのシャロの命運なぞ、そんな喧騒に溶けてしまうようであった。
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