第42話 - 地下迷宮 戦利品

 テーブルの上に、黄金の籠手と、神秘的な大剣が並べられてる。

 それぞれが伝説級の妖精武器である。厳選された戦士しか扱うことを許されない、壮絶な武器が二つ、並んでいる。


 テーブルの前には、二つの椅子があり、そこには一人ずつ座っている者がいる。

 全身を包帯でぐるぐる巻きにしている少年と。

 左腕を包帯でぐるぐる巻きにしている白い少女だ。

 その二人と対するようにして、一人の中年が佇んでいる。

 ゆったりとしたローブを身に纏い、豪華な装飾品に身を包んだ彼は手を叩き、大きな音を鳴らしていた。


「素晴らしい。素晴らしい。素晴らしいよ、君たち。本当に、成し遂げてしまうだなんて。ここにある戦利品……妖精武器という成果が絶対だ。君たちは間違いなく、勝者であり、強者だよ。おめでとう。はは、本当に、凄い!」

「なんの得にもならない祝福なんか、よしてくれハーヴィス。僕らは約束を果たしたんだ。いよいよあんたの番だぞ」

「ははははは! レウ、お前のそういうところ、嫌いじゃないぜ! 若い奴は跳ね返ってなんぼだからな。ほら、とりあえずささやかなプレゼントだ。これを飲んどけ」


 そういってハーヴィスは、銀色の液体が入った小瓶を、シャロとレウに投げてよこした。

 レウは、全身の激痛に耐えながらそれをなんとか受け止める。

 銀の液体からは、凄まじい魔力を感じる。おそらく、なにかの霊薬だろう。怪我を瞬く間に治してしまうような、最高級の回復薬であるに違いない。

 小瓶一本で街一つが買えるような値段がするはずだ。そんな貴重な代物を、軽く二つも渡すハーヴィスは、やはり《星崩し》と同じ、ギルドが誇る規格外のS級冒険者なのだと、改めて実感をする。


 とはいえ、遠慮なくそれの栓を開け、中身を飲み干す二人は、もはやそんな威光に震えるようなタマではなくなってしまっていたのだが。

 その様子を見てハーヴィスは、うんうんと頷く。


「一晩寝れば、お前らのダメージはすっかりなかったことになるだろう。逆に言えば、一晩は待たないといけない、ということだ。今日は休め。そして、明日、俺はここに来る。同時にそれがお前らとの最後でもある。シャロの姉さんのところまで飛ばしてやろう」

「また簡単に言ってるけどさぁ。ギルドの本部に突撃するわけだろ? それはどう攻略しろっていうんだよ」

「いや、違う。これはちょっと訳アリでな。明日行くのは本部じゃない。研究院だ」


 ハーヴィスはさらりとそう告げる。レウとシャロは、その言葉に少なからず驚いた。


「研究院? なんでそんなところに」

「さあな。だがまあ、想像はつくだろ。妖精の末裔なんざ、幾らでも研究の価値はある。むしろ本部で幽閉するよりもよっぽど合理的だろうさ」


 そして中年は、ばさりと腕を広げる。


「研究院の地下は、保管庫という名の牢獄になっている。希少な魔物、稀有な魔法を宿す人間、その他危険な物質、生物。それらが押し込められた秘密の場所だが、言わばそれはダンジョンだな。つまり俺の魔法で飛べるということだ。直接地下に飛ぶ。そして、お前の姉さんもそこにいるはずだ。探し出して、確保し、ここにまた戻って来る」

「……」


 いよいよ遂に、助けることができる。

 その事実を前にしても、シャロの表情は複雑であった。それを見て、ハーヴィスは、やれやれなんて顔で、溜息を吐く。


「言っておくが、チャンスは明日しかないと思え。レウ、お前さんの大活躍のお陰で今、ギルドと王国が揉めに揉めている。姉の処遇どころではない今しか好機がない。可能な限り早く、事を為すぞ。その妖精武器を持ってこい。そして、これは餞別だ」


 そう言って彼は、手に嵌めていた蒼い指輪をレウに放り投げた。

 かつて《黄金騎士》との戦いでシャロが身に着けていた妖精武器【妖精王の碧眼】である。

 膨大な魔力を秘める指輪は、覗く者全てを魅入るほど美しい。


「レウ。それを付けておけ。【星剣】を使うには魔力がいるからな。もしも明日、妖精が現れたら躊躇わず、二つの妖精武器に【碧眼】の魔力を回すんだ」

「……なんだ、えらく太っ腹だな」

「最後だからな。オジサンの好意は受け取っとくもんだぜ。――それと、もう一つ言うなら。最後なんだから、仲直りするなら今しかないぞ」


 ハーヴィスは、シャロの顔を見て、にやりと笑い、片手を挙げた。

 そして次の瞬間、彼は忽然と姿を消したのであった。


 この場には、レウとシャロの二人だけが残り。

 少年の隣に座るシャロは、むくーっと、頬を膨らませているのであった。

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