ルーアン家の姫様
鷹司
第一章
第1話 妹…だと!?
「わかりました。妹をお譲りします。我が国一番の美女であると誓いましょう」
言ってから、ルーアン公国の皇子、ナサ・ルーアンは後悔した。
(…何言ってんの俺?)
自分で言っておきながら、能天気というか後先考えないというかとりあえずいい加減な自分に軽く殺意を覚える。
(いくら相手が大国だからって、ないだろ。流石にないだろ。…ってかそもそも妹とかいないし!)
そう、彼に妹はいない。なぜなら、このルーアン公国の皇族であるルーアン家は、ハイパーミラクル男系一族だからだ。
五百年の歴史で、女性は皆無。ガチのマジの皆無である。
ナサが勢いで嘘八百を言った相手は、エクスピリア帝国。やばいくらい戦争が強く、国内も豊かである。
このエクスピリア帝国は、ほんのすこーしだけ女系で、名門であり、またハイパーミラクル男系一族であるルーアン家の血がほしいらしい。
(いや、たしかに大変だよ女系一族は。男系ならまだ使い道というか王にしやすいからさ。でも、ね?君たち結構男子もいるよね?俺らのところはガチのマジで男子しかいないからね?っていうか実験段階ではあるけれども結婚した先もハイパー男系になるからね?ミラクルとは言わないけどなっちゃうからね?)
自分で言っておきながら、婚約が成立してもナサはまだ不満気である。
「はあ…。マジでどうしよう」
帝国との階段を終えたナサが向かったのは、公国の会議室である。
「あ、やらかしちゃったナサだ」
最初に元気な声を上げたのは、双子の弟のユサだ。
「ホントだね。…どうする?」
ゆったりおっとり話すのは、同じく双子の兄、テサ。
「僕は知らない」
興味なさげなのはノサ。双子の弟だ。彼らは四つ子である。故に、皆一番尊敬しているのは自分たちを産むという苦行に耐えた母である。尚、マザコンではない。
「いや〜、ほんとごめんね。兄さん、なんか意見ない?」
「振るな。私に振るな。無理に決まってるじゃん」
苦悩するのは、皇太子で兄弟で唯一双子ではない兄、イサである。同じく、四つ子を出産した母を尊敬している。
「なんかない?マジでピンチだよ」
「うん…。わかってるよ…」
落ち込むとどこまでも落ちていくイサを引き止めつつ会議を進めるが、無論解決策などない。
尚、会議中にナサを攻める声は一度も出なかった。理由は簡単。みんな同じレベルの失敗を繰り返しているからだ。
一時間ほど話し合い、あきらめムードがあたりに漂う。と、扉が勢いよく開いた。
「ねえ、これってホント?」
珍しく興奮した様子のノサが飛び込んてきたのだ。いつの間にか会議を抜け出していたらしい。手には一枚の手紙がある。
「なになに?えーっと、これは父さんから母さん宛だな」
ユサが手紙を読み上げた。
『ごめんね母さん。浮気したのは謝るよ。殺してくれていい。でもさ、実は朗報なんだよ。生まれたのは女の子だったんだよ。すごくない?俺見る目あるんじゃないかな?ともかくさ、女の子だったんだよ。残念なことにお母さんは難産のせい?かなんかで死んじゃったけどさ。生きてるんだよ。俺の子供の女の子だよ?あいつらに妹ができたんだよ?やばくない?君に預けるから、可愛い女の子を育ててあげてよ』
なかなかにふざけた内容である。
「マジか。本当だったらやばいね!」
「ふむ。やけに手紙がきれいなのは母さんが読むことなく捨てたからか?…しかし俺たちに妹か。正直言ってこの場の誰一人信じてはいないだろうが、いてほしいなあ。政治的にも個人的にもいないと困るなあ。いないかもなあ」
放っておくと落ちまくるイサをなだめつつ、兄弟は考える。そして、ほぼ同時に結論に達した。
「俺東棟ね」
「じゃあ執務室でも調べるよ」
則ち、城中を探し回ったのだ。
「ねぇねぇ、俺見つけちゃったんだけどさ。これじゃね?」
手柄を立てたのはユサだ。脳筋というかお調子者のイメージがあるが、こういうところは抜け目がない。
ユサが見つけたのは、地下へと続く隠し扉だった。
「俺たちでも知らない地下通路。つまり脱出用ではない、か。一応は浮気だし、父さんが隠したのなら可能性は高いな」
「今となっては確かめる方法なんてないけどね〜」
彼らの父である国王は、現在行方をくらましている。どうやら、何かと縛りの多い国王の任務に耐えかねたようだ。
もう年だというのに、王妃とはたまに会っているようだが、皇子たちも捕まえようとは考えない。いないほうが楽だし。
「まあ、駄目元で入ってみるか」
ろうそくを持ち、次々と中に入っていく。思いの外、狭い空間だった。
「見つけたよ」
ノサが見つけたらしい。そこにあったのは牢獄だった。人一人入るのが精一杯の牢獄。
中には、毛玉のようなものがあった。
「なるほど、ずっとここにいたのか。よし、俺が洗ってあげよう」
「ずるいぞナサ。俺も洗う」
「うるさい!イサは落ち込んでろよ!」
わちゃわちゃしながら皇子たちは毛玉を洗った。
「まずは顔だよね。俺たちに似てなかったらただの罪人だもんね」
言いながらわちゃわちゃ洗い、出てきたその顔は…。
「…間違いなく俺たちの妹だな」
「いや、弟かもだろ」
「妹であれよ。じゃないと国が滅ぶよ」
「っていうか、さっきからなんにも話さないな、この子」
「別に良くね?てか可愛い」
生まれてからこれまで伸ばしっぱなしだったのか、とても長い黒髪を丁寧に洗う。
「へー、結構きれいだね」
「うん」
髪が終わったら、いよいよ体である。ここを調査してそうじゃなかったら怖いので、今まで指一本触れなかったのだ。
「顔は中性的でめっちゃ綺麗、髪が黒いのは遺伝。さて、問題はここだな」
すっかり体を洗い終わり、一番年長のイサが言う。
(ここまで三十分、あーだこーだと体を磨いていたチキンな私からもさようならだ)
今取っている間こそがチキンの証なのだが、あいにく彼にそこに気づく余裕はない。
「じゃあ行くぞ。せーの!」
兄弟が視線を下へ向ける。そして下は…。
ツルツルだった。
「「「「「よっしゃーーーー!!」」」」」
ひとしきり狂喜乱舞し、落ち着いた頃、ノサが呟いた。
「なあ…。やっぱりさ、服とか着せてあげるべきじゃないか?」
念願の妹を、可愛く着飾らせる。
兄弟の心が一つになった。
「……………可愛い」
オーソドックスなドレスだけで装飾はいらなかった。
「髪の毛も大事だよな」
またもやノサがつぶやく。
前髪どうするか問題で、兄弟はそれはもう争った。争い尽くして風呂場が壊れた。
駆けつけた執事は激怒している。
「いい加減になさってください。嬉しいのはわかりますが。無駄に美形なその血がなぜ女性に流れないと何度涙したかわからない私にはそのお気持ちが十分に理解できますが。然し、それは駄目でしょう。やってはいけないことでしょう。姫様の髪型は、姫様自身で決めるべきだ!」
……そして、彼らは誰がファーストコンタクトするかで争ったのだった。
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