第37話 延長戦-アクシデント-④
「それで……あのテンシがどうかしたのか?」
「実はあのテンシに捕まってる人がいるんす! 体内で拘束されてて……『たすけて』って声も聞いたっす!」
「え! そうだったのか……」
「だからさっき
「ご、ごめん……」
大鎌を手にリツは立ち上がり、ついさっき見聞きした事を全員に話す。リツの話を聞いて、一番驚いたのは旋だ。兄のその反応にリツは怒り気味に言葉を返すと、旋はしゅんと肩を落とした。
そんな二人のやり取りを黙って見ていた
「声も聞いたってコトは……」
「中の人は絶対、生きてるっす! だから、その人を助けたいと思ってるんすけど……」
奈ノ禍の言葉を受け、リツは力強く“生きてる”と宣言する。しかし、“助けたい”は全員の顔色を
「そんなの“助ける”一択に決まってるだろ?」
旋はリツの不安を跳ね除けるように迷いなくそう言い、彼の返答を予想していたレイも静かに頷く。
「……ま、特に反対する理由もないし? いーよ」
「わたしもリツちゃんへのお礼ってことならいいよ?」
奈ノ禍と
「ありがとうございます! でも、奈ノ禍サンは怪我してるんで無理は――」
「
「それならいいんすけど……絶対、前線には出ないでくださいっすね」
奈ノ禍の言うように、傷口は徐々に塞がってきており、顔色も悪くはない。けれどもリツには、奈ノ禍がまだ少し無理をしているようにも見えたため、“前線には出ないで”を強調して言った。それが分かった奈ノ禍は曖昧な笑みを浮かべ、「うん。心配してくれてありがと」と返す。
「後は助ける方法だけど――」
「眠らせようか?」
案を出そうとした旋の言葉を、乙和が遮る。彼女の言葉に、旋とリツは首を傾げ、レイと奈ノ禍は何かを察したような顔をする。
「眠らせる……?」
「うん。黒いシャボン玉の中に閉じ込めた相手を眠らせる。それが
「へ~新たに能力を習得するなんて、努力家だなぁ」
旋は第一ゲームで、乙和に助けてもらった時の事を思い浮かべながら感心する。旋の言葉に、乙和は僅かに眉間にシワを寄せるが、特に何も言わない。
「あ! だからあの時、テンシが眠そうにしてたんすね」
リツの言う“あの時”とは、つい先程、乙和がテンシの攻撃を防いでくれた際の話だ。黒いシャボン玉に捕らえられたテンシは確かにあの時、船を漕ぐように
「うん。あの時は眠らせなくてもいいと思ったから、うとうとくらいに力を抑えてたけど。しっかり眠らせることもできるよ?」
「……テンシを眠らせた方が、捕まってる人を安全に救出できそうっすよね」
リツの言葉に旋は首を縦に振り、乙和の方を見る。
「
「アタシからもお願いするっす!」
「うん。任せて?」
旋とリツの言葉に、乙和はコクンと頷く。
その後、全員で作戦を立てた。
眠っているとは言え、旋がテンシの
それから各々、武器やマイクなどを準備をして構える。ちなみに、奈ノ禍の吹き飛ばされた大鎌は、クローバーの状態で落ちていたのを見つけたレイが回収していた。同じく吹き飛ばされたバズーカは、乙和が契約相手の名前を呼びさえすれば、いくらでも出現させてもらえるため問題ない。
「よし! それじゃあ、作戦開始ってことで!」
「了解っす!」
旋は全員の戦闘準備が整ったのを確認すると、もう少しで回復を終えそうなテンシを視界に捉え、言葉を発する。それにリツは元気よく返事をし、レイは頷きながらドーム状のバリアを解除した。その次の瞬間、旋達の前後に一つずつ、地面からシャボン玉が出現する――。
テンシを飲み込んだ前方のシャボン玉は薄い黒色で、中の様子がよく見える。逆に後方のシャボン玉は中が全く見えない程、真っ黒だ。
「レイちゃまと奈ノちゃまはこっち」
――間髪を入れずに聞こえてきた可愛らしい無邪気な声が、不気味に響く。その刹那、名前を呼ばれたレイと奈ノ禍は、後方の真っ黒なシャボン玉の中に吸い込まれてしまう。
「レイ……!」
「奈ノ禍サン!?」
旋とリツは何が起きたのか分からず、ただただ相棒の名を呼ぶ。一方、誰の仕業かすぐに分かった乙和は珍しく焦ったように、「ここから離れて!」と叫んだ――
「ふふ……乙ちゃま、リツちゃま、旋ちゃまはこっちにおいで?」
――けれども、先程と同じ声に名前を呼ばれ、三人はテンシが飲み込まれた方のシャボン玉の中に強制転移させられる。
「え……ここって……」
「テンシの体内っすよね……」
三人が転移させられたのは、テンシの
戸惑うばかりの旋とリツの元へ、大蛇が近づいてくる。その事にすぐ気がついた乙和は、バズーカから小さめのシャボン玉を出現させた。それが大蛇に当たると、頭部だけを切り離し、包み込んだ。
少し遅れて旋は自分達の周囲にバリアを張り、乙和の方を見た。
「これって一体……?」
困惑気味に旋は、乙和にそう問いかける。すると、乙和は眉間にシワを寄せ、「スリプちゃんのしわざ」と言った。
「それって、圷サンの相棒サンっすよね?」
「ううん。相棒なんていいものじゃない。わたしとあの子たちの関係は、ただの駒と道具たちだよ」
リツの問いかけに、乙和はどこか冷たい瞳で首を横に振る。乙和の言葉にリツは一瞬だけ悲しげな顔をし、旋は戸惑いながらも口を開く。
「ところで、もう一つのシャボン玉の中に吸い込まれたレイと
「あの真っ黒なシャボン玉の中はどうなってるんすか!?」
旋とリツは心配そうな表情で、そんな質問をする。乙和にとって予想していなかった問いに、彼女は微かに目を見開き、「そっちの方が気になるんだ……」と呟く。
「マオウさんとシニガミさんは眠らされてるだけ。シャボン玉の色が濃いほど、捕まえた相手を眠らせる力が強い。だけどその分、爆縮はできないようになってるから安心して?」
乙和の答えに、旋とリツは心底、ほっとした顔で胸を撫で下ろす。
二人のその反応を目にした乙和は、不思議そうに首を傾げた。
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