第4話 契約と能力
「ほんじゃまぁ、とりま要点だけ簡潔に説明するから、しっかり聞いててね★」
「はいっす!」
「うん!」
「『
先程までの喋り方とは打って変わり、奈ノ禍は声のトーンを下げ、真面目な口調で話す。奈ノ禍につられてリツはシリアスな表情を作り、ゴクリと喉を鳴らすが、彼女が放つ雰囲気はほわほわしたままである。そのギャップに思わず緩んだ口元を、奈ノ禍はぎゅっと引き締めて、説明を続ける。
「ヒト族単体では、テンシに太刀打ちできない。ダケド、ヒト族の体内には、契約を交わした他種族の能力を増幅させ、使用できるエネルギーが備わっている。ゆえに、他種族と契約するコトで、ヒト族もテンシと対等に戦えるようになるってワケ。てコトで早速ダケド、あーしと契約しちゃおうっか★」
奈ノ禍は「はい、コレを受け取って★」と言いながら、リツに四葉のクローバーを渡す。リツがそれを元気よく受け取ると、奈ノ禍はフードを脱いでニコッと笑った。
「とりま頭の中で、好きな色や柄の大鎌を思い浮かべてみて★」
奈ノ禍に言われた通り、リツは頭の中で大鎌をイメージにしてみる。すると、クローバーが徐々に伸びていき、最終的には刃の部分は
「イメージ通りの大鎌になったっす!」
「わ~とってもいいデザインだね! これで契約は完了だよ★」
リツは目を輝かせながら大鎌を掲げ、そんな彼女を奈ノ禍は優しい眼差しで見つめている。ずっと静かに説明を聞いていた旋も大鎌の登場には目を輝かせ、感嘆の声を上げた。
リツが勢いよく自分の方を見てきた理由を、奈ノ禍は何となく察しはしたが、それに気づいていないフリをして小首を傾げた。
「ちなみに武器を使わない時はクローバーに戻せるし、マイクや楽器にも変形できるよ★」
奈ノ禍はそう言いながら自分の大鎌をクローバー、マイクの順に変形させていく。リツはまじまじとマイクを眺めながら、「ギターにもできるっすか?」と問いかける。
「
「精神攻撃?」
「……音が届く距離にいる標的を視界に捉えるか、思い浮かべて演奏したり歌ったりすると、その相手の気分を変えるコトができる。例えば足止めしたい時に、“テンシの食欲や闘争心をなくしたい”って想いながら歌うとか。まぁ平たく言えば、サポート向きの、催眠術的な能力だよ。だから個体によっては、あまり効かない場合もある。その一方で、よく効く標的に対しては、特異な力を発揮し易くなる。意図せずして標的の心を操ってしまう、とかね……」
「なるほど……ちなみになんすけど、その能力で誰かを元気にしたりとかはできるっすか?」
「へ……? あ~……うん! リッツーが誰かを元気にしたいって想いながら歌ったり、演奏したりすれば、もちろん可能だよ★」
どこか暗い表情で説明していた奈ノ禍はリツの言葉に一瞬、ポカンとした。しかし、直ぐに言葉を噛み締めるように頷き、うれしそうに笑う。
「最後にテンシの倒し方を教えるね! テンシはどれだけダメージを食らっても、花に似たあの羽が残っている限り、何度でも
「了解っす!」
「よし! ほんじゃまぁ、説明も終わったコトだし……そろそろ
「はいっす! 正直、まだ少し怖いけど……テンシと戦う覚悟はできてるつもりっすよ」
リツは大鎌を両手でぎゅっと握りしめ、真っ直ぐ奈ノ禍を見つめる。強さが宿るその瞳と目が合った奈ノ禍は、真剣な顔でリツの手を取り、「ほんじゃまぁ……行こっか」と言って、歩き出す。
奈ノ禍とリツ、そして旋の三人はホールからロビーに移動し、出入口付近で一旦、足を止める。
「ここを出たら、いつテンシに襲われてもおかしくない状況になる。だから二人は、絶対にあーしの傍を離れないで。まだ誰とも契約していない旋っちは特にね」
「はいっす!」
「うん。分かった!」
外に出た途端、人々の悲鳴やテンシの笑い声、更には爆発音まで聞こえてきた事から、三人の間に緊張が走る。
ライブハウスのすぐ近くでは、見知らぬ兄妹がテンシに壁際へと追いつめられていた。リツと奈ノ禍がその兄妹を視界に捉えた瞬間、ノイズ混じりの音楽が二人の耳に飛び込んでくる。
嫌な予感がした奈ノ禍は、リツに声をかけようと口を開く。けれども、彼女が言葉を発するより先にリツは奈ノ禍の手を離し、テンシの方へと駆け出した。
――あの人達を助けないと!
そう強く思い、走り続けるリツの耳には、奈ノ禍の制止の声は届いていない。
「リツ!」
「旋っちはここで待ってて!」
リツ同様、駆け出そうとした旋を、奈ノ禍はそう言いながらライブハウスの中に押し入れる。尻もちをついた旋は即座に立ち上がり、外に出ようとしたが、自動で扉が閉まる方が早かった。
「リッツー!」
旋が必死に扉を叩く音を背に、奈ノ禍は慌ててリツの後を追う。
テンシに怯えながらも、兄は妹を守ろうと前に出て、両手を広げている。テンシは兄の行動を
ところがリツはノイズや音楽の事など一切、気にせず大鎌を振り上げ、奈ノ禍は眉をひそめながらもふわりと飛び上がった。
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