浮気

蓮司

浮気

私の愛しの彼。待宵 諒太(まつよい りょうた)は浮気をしている。

絶対に浮気をしている。

認めたくはないけど、証拠だってあるんだから。


まずは匂い。

絶対に違う女の匂いがするの。

だって朝はこんな匂いじゃなかった!

いつも一緒に寝ているしテレビだってくっついて見ているのよ?

私の大好きな匂いじゃない事くらいすぐに分かるわ。彼の香水は苦手だけど、シャンプーの匂いは大好きなの。

間違えるはずがないのよ!


次に時間。

昨日だってそう。何であんなに帰ってくるのが遅かったの?どこに寄って帰って来たの?

粗方、予想はつくけど。朝だって5分早いわよね?

あんなに遅刻ギリギリで走って行くあなたが5分前に出るなんて怪しいのよ。

私は誰よりあなたを知っているの。

それくらい気づいて当然なのよ?


そして、スーツについたこの黒い毛。

こんなのが付くくらいに密着してるの?

これは職場の人間じゃないわ。もっと許せない。

こんな傷んだ毛の何処がいいのよ。

私は彼に毎日お手入れしてもらっているの。

この艶と触り心地は絶対に負けてなんかない。

頭を撫でて可愛いと褒めてくれる諒太くんはもういなくなっちゃうの!?

そんなのダメ。絶対に!



こんな事してる場合じゃないわ。

これだけ証拠が揃ってるんだもの、浮気を現行犯で捕まえてやる!!



私は窓から飛び出した。久しぶりの外。

雨上がりで葉っぱが光ってる。

虹だってこの町のどこかでかかっているはず。

水溜まりはあちらこちらにまだ残っている。

踏んで脚に泥が着くと諒太くんに怒られるわ。気をつけないと。


飛行機雲と共に諒太くんの通勤する道を走る。すると家の近くの公園に――



いた!!この、浮気者!!


「…!!モモ、なんでここに!?」


やっぱり。私の思った通り、彼は浮気をしていた。しかも、私より可愛い



――アメリカンショートヘアと。



「どうしたんだ?寂しくなったのか?よしよし。」


触らないで。浮気者。


「拗ねてるのか?可愛いなぁ〜?それよりなんでここが分かったんだ?」


あなたのことなら何でも分かるのよ。馬鹿。


「あー、この子はここでたまたま見つけた野良猫。可哀想でつい餌をあげちゃうんだ。ほら、おいで〜」


だからなによ。


「…心配させちゃったみたいだね」


そうよ。お昼寝もできないくらいに心配だったわ。


「大丈夫。僕の1番はモモだけだよ。」


………………。



なによ。



なんなのよ。



……私だって、あなたが1番よ。






そう伝えようと思ったけど、私の喉からは「ニャン」しか出てこなかった。

きっと伝わってないのよね。この人間には。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

浮気 蓮司 @lactic_acid_bacteria

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ