最終話 『黎明』
眼下。
木々がざわめく深い森を見下ろす。
マナの流れとロゥリエの気配を求めて辿り着いた先に在ったのは、広大な敷地を有する教会だった。
教団が管理しているというその教会を中心にマナは渦巻き、ロゥリエの気配はその渦の中心から強く感じられた。
念話を試みようと念じてみるが、声が届いた感覚はない。
辺りに満ち満ちる濃密度のマナの影響だろうか。
思考していると、竜の背中を遅れて降りてきた堂島が言った。
「これだけのマナが不規則に動けば八代も何か勘付くだろう。ここに向かってくるかもしれん。遠慮はするな。生きて戻ってこい」
堂島の含みのある言葉に真哉は怪訝な視線を返した。
すると、堂島は降り立った深い森の一角を見やって背負っていた長剣に徐に手を掛けた。
「随分と早い到着だったな。元老院の犬ども」
堂島が声を放つと、森が不気味にざわめいた。
続けて、ざっざっ、と土を踏みしめる音が森の静寂に響き渡った。
「まさか
そう言いながら森の闇の中から現れたのは一人の少女。続けて、更に人影が現れる。皆、外套は一様に黒い。
集団の正体を真哉が知る由はなく、堂島は集団を率いる少女に向かって嘲笑を返した。
「
「……ッ! 先祖を愚弄するか!」
少女が激昂し、一斉に背後の人影が堂島に飛び掛かった。
堂島はそれを見やって肩を竦めて愚痴を零す。
「先に仕掛けてきたのは貴様だろうに―—」
堂島が、背中の剣を抜き放つ。
「
詠唱と同時に。
堂島に襲い掛かっていた集団が、一斉に地に伏した。
立ち上がる者はない。声を発する者もない。
堂島の眼前に居る全てが、彼にひれ伏し地に這った。
「くっ……!堂島聡哉ぁぁぁっ!」
「この程度で精鋭とは言わせんぞ。元老院の犬なんだ、もう少し足掻けよ。七光りども」
唾のような台詞を吐いて、堂島が真哉を見やった。
意図を理解するのに時間は要さない。
向けられた視線に頷き返し、森の奥を目指して駆けだした。
――
差し込む月明かりを、赤く染まったステンドグラスが彩って受け入れていた。
礼拝堂。
そのすべてが、赤く染まっている。
女を殺した。男を殺した。老婆を殺した。子供を殺した。
だが皆、死して然るべき悪だった。
皆、竜への崇拝に狂っていた。
私は正しい。私は間違っていない。
間違っているのは世界だ。間違っているのは彼らだ。
「これが正しい世界の在り方よ。害ある者は死に絶え、それに手を貸す者も皆等しく死ぬべきなの。……そうでしょう、貴方だって」
声は、教会の扉を開け放った青年に向け放ったものだ。
礼拝堂の光景を目の当たりにして、青年は絶句している。
「何をしに来たの」
血に染まった礼拝堂を見回し、生存者の姿を探す真哉の鼓膜を、鬼神の声が打つ。
冷酷で空虚で、温度を失くした声音。
しかし悲愴を感じさせる声に真哉は、いつか胸中の劣等感を叫んで立ち去った彼女の背中を追い掛けられなかったことを後悔した。
「ロゥリエを助けに来た」
「……」
答えると、八代は怒気を隠す素振りもなしに口を噤んだ。
やがて静かに硝子の剣を構える。
対話する余地など微塵もなく——。
修羅へと身を墜とした鬼神が、真哉に襲い掛かった。
「——ッ」
だが、八代は目撃する。
飛び掛かった真哉の肉体が、あろうことか竜として変貌する様を。
刃と竜鱗の衝突で紅蓮の火花が弾けて、同時に八代は決意する。
この場に訪れた真哉を否定することで、自分が正しいのだと証明したかった。
もう、それも捨てよう。
今はただ、眼前に立ちはだかる竜を屠ろう。
それが竜殺しとしての本懐なのだから。
「
それは造る全てが模倣品だった彼女の魔具に搭載された
伽藍堂で贋作でしかなかった魔具の形を固定し、たった一振りの本物の魔具に昇華させるもの。
記録されていた魔具の内から、たったひとつだけ。
レヴァテインはその魔具に変質し、オリジナルへ昇華する。
八代が手にしたのは、竜殺しの魔剣のひとつだ。
硝子の魔剣の外装が砕け散って、爆ぜた硝子の中からは剣身から柄までを赤黒く染めた剣が姿を見せた。
魔剣を握りしめる八代の右手は魔剣に侵され黒く染まって、人間の肌の色を無くしていく。
「殺してやる」
突きつけられた殺意と、握られる竜殺しの魔剣の放つ気配に真哉は悪寒する。
脳裏に感じ取る強烈な『竜殺し』の気配。
半ば竜に身体を侵されている真哉は、八代が握った魔剣は触れることさえ命の危機に直結しかねない必死の凶器として認識していた。
八代が地面を蹴って、飛び込んでくる。
竜殺しの魔具の本懐は、竜の魂の核を確実に仕留める精度に在る。
真哉は魂を持たぬまま竜の膂力に匹敵する膂力を発揮しているが、触れれば何を欠損することになるか不明瞭だ。
危険を冒す必要はない。
八代の攻撃を捌ききり様子を見て、ロゥリエの気配をより濃く感じる教会の奥に逃げる。
思考を巡らせていた時だった。
魔剣の刃が振り下ろされる。
受け流そうと構えるが、本能が——人としてではなく、芽生えかけていた竜としての本能がそれを拒んだ。
「ッ!」
飛び退って斬撃を躱し、礼拝堂の長椅子を蹴飛ばす。
魔力を纏わせ大岩の硬度を瞬時に実現した長椅子の飛来。
しかし根底に在るのは竜の魔力だ。
魔剣の剣先が微かに触れただけで魔力は引き剥され、椅子は一刀両断された。
「殺さずに逃げ切ろうなんて思わないことね」
八代が礼拝堂を駆け抜ける。
眼前に迫り振り下ろされた魔剣を回避し、再び間合いを取ろうと跳躍の姿勢を取る。
だが、それは適わない。
振り下ろされた魔剣の刃が、既に次の一閃を放っていた。
「ぐッ!」
やむなく手の平に魔力を込めて受け止めるが、竜殺しの権能が魔力も鱗も剝ぎ取って刃が肉に食らいつく。
「これを受け止めるなんて。随分とらしくなってるようね」
剣を抑え込む腕からは力が失われていく一方で、八代の力はみるみる増していく。
——まずい……!
手を切り落とされる。
直感して飛び退るのと同時に、著しい彼女の膂力の向上の正体を悟った。
八代が造り出したのは、魔剣グラムそのものだ。
それは生き血を啜り、持ち主に血を魔力として還元することで真価を発揮する。
あの剣に血を吸われ続ければ、膂力すら八代が上回ってしまう。
ここで倒れるわけにはいかない。
ロゥリエを助けなければならないのだ。
思いは言葉にするよりも早く——身体を侵し、蝕んでいた。
いつかミドゥルと対峙した時と同じく、全身を竜へ変質させていった。
真哉の内側から一斉に解放された魔力の奔流に、八代は眼を剥く。
そして理解する。
またしても手加減されていたのだと。
「どこまで私を下に見てれば気が済むのよ……!藤上真哉ッ!」
怒号を放つと、眼前に真哉の手が迫った。
手の中には高密度の魔力が込められている。
その魔力の放射に触れれば、屠竜師の再生力を以てしても致命傷は免れないだろう。
だが——否。それ故に、回避はしない。
正面から受けて立つ。
魔剣を握る手に全霊の魔力を込めて、迫る竜の決死の猛撃に反応した。
一撃、魔力と斬撃の衝突。
二擊、拳と拳の激突。
三、四と決死の斬撃に空を断つ爪が応えた。
五度の衝突を皮切りに、攻防は加速する。
斬撃、断絶、剣閃。破壊、歪曲、焼却。
小細工など在り得ない、純然たる力の衝突。
皮膚が焼かれ、肉が断たれる。
血が広がって、臓物が撒き散る。
互いに一歩も譲ることのない激突の最中。
互いに命を刈り取る攻撃を捌いては、その隙間に勝機を見出そうと攻撃の手を緩めることはない。
斬撃も、打撃も、気づけば百を超えていた。
それでもどちらも手を緩めないのは、信念を貫く為。
ひいては、己が信念を貫く為の宿敵なのだと互いを認めていたからだ。
加速していく戦いのなか、八代は見逃さなかった。
真哉が繰り出す連撃に僅かな乱れが生じたのを。
一気に全身に魔力を巡らせ、斬撃を加速させる。
ひとつ、またひとつ。
斬撃が猛撃の隙間を縫って、真哉の肩と腹を切り裂く。
「ぐッ……くそッ!」
ついに真哉の攻撃の手が止まる。
踏み込んで、魔剣を振りかざす。
「——」
だが、その確信は束の間の幻想に過ぎなかった。
攻撃を止めた真哉の拳のなか、一握りの魔力が込められていた。
八代が魔剣を振りかざし胴に隙を見せると、拳はがら空きだった八代の腹部に容赦なく突き刺さった。
真哉の渾身の一撃をもろに食らいながらも、八代は振りかざした魔剣を真哉の肩に振り下ろした。
刃が肩に食らいつくが、傷は浅い。
振り払われて、八代は床を転がる。
真哉の魔力を纏った拳に貫かれた身体の穴を見やっていた。
けれどいくら時間が経とうとも。いくら魔力を流そうとも、傷は治らない。
——……どうして!?
「……致命的な魔力の枯渇に陥れば、竜血を浴びた部位も再生が行き届かなくなる。……常識だろ」
「くっ……、私が負けるはずが……ッ!」
傷口を抑えながら告げる真哉を、八代は睨み付ける。立ち上がろうとして、地面に頽れた。体から血が流れでていく。血は、止まらない。
八代の竜殺しの一撃は、真哉には純血の竜へ向けた時と同様に作用をすることはなかった。
床を這って、転がった魔剣を再び手に取ろうとしている。
竜殺しであることに拘り続ける八代を見下ろしながら、真哉が言う。
「君の正義は間違ってる。……それに気づけないから、君は僕に勝てなかったんだ」
言ってから真哉は、礼拝堂の背後の扉に向き直った。
八代から受けた傷を抑えながら、真哉はロゥリエの気配を感じる方へと歩んでいく。
礼拝堂を出て、中庭を抜け、共同墓地に向かう傍らで視界の端に流れていくマナの流れが目に留まった。
マナが収束している中心には、地下へと続いている扉がある。
ロゥリエはきっとこの先に居る。
固唾を飲んで、扉を開く。
延々地下へと続く階段を降りていく。
認められるはずがなかった。認めていいはずがなかった。
私が彼に負けるなんて。私の行いが間違っていたなんて。
だって——。
この行いの全てが間違っていたとしたら、私は何を殺したんだ。
死ねない。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
死んでいった彼らに意味を与えられるのは、私一人だけなんだ。
脇腹に空いた風穴を受け入れ、意識を辛うじて繋ぎ止め、礼拝堂を後にした真哉の後を追跡する。
点々と続く血痕を辿る一方で、それを更に濃い黒い血で重ねていく。
転がりながら礼拝堂を出て、中庭を這いつくばって進み、共同墓地の墓石に身を預けながら血痕を辿る。
やがて辿り着いたのは、重たい鉄扉が開け放たれた地下へと続く階段。
階段の先には、果てのない暗闇が伸びている。
月光ひとつ差し込むことを許さぬ漆黒。
常世すべての闇を集約しても尚足りぬであろう深淵が波打っていて、死に体の本能が死を直感して警報を鳴らす。
だが、その闇の奥に血痕は続いている。
「……行かないと」
正しさを証明する為に。間違いのまま潰えない為に。
私が、私で在り続ける為に。
深淵に足を踏み入れる。
途端、意識は何の前触れもなく消失した。
――
闇の底に身を沈める程に、抱えていたはずの記憶が零れ落ちていくのを感じ取っていた。
憧れていた背中を。自らが犯した過ちを。背負うと決めた罰を。果たそうとした責任を。決めたはずの覚悟を。守ると誓った誰かの姿を。失った誰かの姿を。
その全てが、消えていく。
全ての記憶が、砂塵のように手から零れ落ちていく。
零さぬように、失くさぬようにと幾ら抗っても記憶は形を失くしていく。
たったひとつの記憶も残さず。たったひとつの思いも残さず。
記憶と自我が剥ぎ取られ、肉体は意思をもたない伽藍洞な器へと成り果てる。
奈落の底に落ちていく。深淵の底に沈んでいく。
何もかもが消えていく。何もかもが失われていく。何もかもが虚ろになっていく。
何も救えない。何も守れない。何も得られない。何も成せない。
ならこんな自我は失くしてしまっても構わない。
そう諦めかける。
『だめだよ』
声は穏やかだった。
『君は忘れちゃいけないよ。君は諦めちゃいけないよ』
声の主を、『僕』は知らない。
『僕』が誰なのかを、『僕』は知らない。
『ロゥリエを助けて。今ならまだ間に合うはずだから』
「ロゥ……リエ?」
誰の名前だろう。
でも、とても温かい名前であることだけは理解できた。
『君が来るのを、あの子は待ってるよ』
声の主が、何かを差し出してくる。
『思い出して。あの子との思い出を』
瞬間に、胸の中にとめどない想いが流れ込んでくる。
ある時は、愛おしくて。ある時は、嬉しくて。ある時は、覚悟して。ある時は、穏やかで。ある時は、迷って。ある時は、悲しくて。ある時は、怒って。
ある時から、何もかもが怖くなる。
独りでいるのが、怖くなっていた。
光を感じないことが、怖くなっていた。
言葉を交わせないことが、怖くなっていた。
隣にいられないことが、怖くなっていた。
見つめ合えなかったことが、ひたすら―ひたすらに寂しかった。
もっと彼の傍に居たかった。もっと彼の体温を感じていたかった。もっと彼の声を聞いていたかった。もっと彼の事を知りたかった。
もっと、もっと……。
真哉と、一緒に居たかった。
気が付くと、眼前には一人の少女が立っていた。
「そうか。……君は、ずっとロゥリエの中に居たんだね」
少女はロゥリエと同じ顔立ちをしていた。
言うと小さく頷いて、ロゥリエと同じように柔和に笑った。
『初めまして。藤上真哉くん。あの子のこと、ちゃんと思い出してくれた?』
「うん。もう大丈夫」
頷くと、彼女は親指を立てて溌剌と笑う。その名の通り、太陽の光のような明るい少女だった。
彼女には伝えなければいけない言葉がある。
こうしてもう一度。この心を立ち上がらせてくれたのだから。
「光さん。ありが——」
『だめだよ』
少女の声が遮った。
『それは私の台詞だから。あの日、誰にも気づかれずに死んじゃうはずだった私を、君は助けてくれた。見つけてくれて嬉しかった。お母さんにも会えたしね』
少女が、屈託のない笑みを浮かべる。
『私は君に救われたんだよ。助けてくれてありがとう。ロゥリエのこと、よろしくね。真哉』
言うと、少女の身体は淡い光に包まれて消えていく。
眼前。
一人の少女の亡骸が、闇の中から浮かび上がる。
雪色の肌を包み込む白い羽衣。重力に従って流れる白い髪。
光のない天井を仰いだまま立ち尽くす少女の、その心臓を真っすぐに貫く長槍。
乾いた血溜まりは少女を中心に床に描かれた円陣の溝を巡っていた。
「浄化機構を超えてくるとはな」
闇の底から声が響いた。
視線を向けると、少女の亡骸よりも遥かに奥の祭壇に一角の竜人が腰かけている。
祭壇にはもう一人の竜人の少女の姿があるが、しかし彼女が既に息を引き取っていると悟るまでに時間は要さなかった。
「ロゥリエ……」
彼女の名を口にさせたのは、後悔か安堵か。正体は知れない。
込み上げてきた思いが複雑に絡まり合う。
聞こえるはずはないが、彼女にどんな言葉をかければいいのか。
逡巡する度に、言葉が喉に詰まっていく。
彼女に渡すべき言葉を拾い集めている内に、祭壇から竜人の声が放たれた。
「褒めてやったんだぜ。無視するなよ。凹むだろ」
微塵の感情も含まない言葉。
淡々とした調子で言い放った竜人は、やがて狡猾な笑みと含みのある視線をこちらに寄越しつつ歩み寄って来る。
構えて、竜人と対峙する。
機を伺う睨み合いが続くなかで、その沈黙は突然破られた。
闇のなかに突如転がり込んできた、もう一人の人影によって。
虚ろな瞳はもはや生気を感じさせず、帯びる魔力からは礼拝堂で感じた確固たる大義は影すら見られなくなっていた。
けれど彼女は何かに突き動かされている。
直感出来て、再び立ち上がろうとする少女に視線を注いだ。
「……さないと」
少女の乾いた唇が動く。
零れた金切り声が何を紡ごうとしたのかを、次の瞬間に理解することになる。
「殺さないと」
竜を呪い、自らを呪うように吐き出された宣告。
その言葉を聞いて、彼女の異変の正体を悟った。
ミドゥルが口にした浄化機構という言葉には覚えがあった。それは踏み入った穢れた魂の情報を洗い流し、輪廻の輪へと還元する。いわば世界の根幹を成す大機構だ。
そんなものを何故教団が保持しているのかは不明だ。
だが、それを偽りと言い切ることは出来なかった。
現に、そこに現れた者にはもう魂の存在など微塵も感じられなくなっていたから。
見やる先にいるのは、八代聖華などではなく——、竜殺しの魔剣の呪いに身も魂も侵された殺戮人形。
握り締める魔剣の下僕と化した少女は、闇の只中に姿を現すと、光のない眼球でぐるりと辺りを見回した。
やがて視線は、真哉と対峙しているミドゥルに注がれる。
「竜は……殺さないと」
魔剣の呪いが吐露される。
竜殺しで在り続けることに取り憑かれた少女には、自我と呼べるだけの意識はもはや残っていない。
魔剣の意思に従うまま、呪いの本能に従うまま。
彼女の肉体を躍動させるのは、純然たる竜殺しの呪いただそれだけ。
故に、其の人類の怒りは。
故に、其の呪いの本懐は。
その場で最も純粋に竜として顕現しているミドゥルにこそ向けられた。
「——殺さないと」
「横槍入れるんじゃねぇよ! 死に損ないがッ!」
ミドゥルが跳躍した。
赤雷が闇のなかに鮮烈な光を放ち、空気を震わせ駆け抜ける。
繰り出されるのは一撃必殺。渾身の一撃。
人の肉などいとも容易く焼き切らんとする雷が迸って、竜の鎌首の如き躍動と共に捻じれ、うねり、螺旋する。
轟雷と共にミドゥルが少女に襲い掛かる。
だが、衝撃が起こることは在り得なかった。
ミドゥルは見誤っていたのだ。
少女の肉体に根を下ろした魔剣の呪いの深さを。
少女が竜に抱く、憎悪と怒りの強大さを。
「なっ——」
渾身の一撃を放った右足は、片手で受け止められた。
掴まれた足を払おうにも、流す魔力は立ちどころに吸い上げられていく。
ミドゥルは少女が顔色ひとつ変えずにそれを受け止めたのかを時間の経過と共に理解した。
竜としての力を剥奪することこそが、吸血の魔剣のその異能だった。
——これがグラムの……。
ミドゥルが死相を浮かべる。
見かねてか、竜殺しの少女が握り締める魔剣を逆手に握る。
噴き出してくる脂汗を押し殺す間もなく、最期の怒号を口にする間もなく——、
ミドゥルの心臓に、魔剣の刃が食らいついた。
「あぁぁぁっ!」
竜の心臓を貫いた魔剣が、竜の炉心から血を吸い上げる。
喉を鳴らし、啜って、渇きを満たしてゆく。
心臓から血を悉く吸い上げられる最中、ミドゥルは不敵な笑みを顔面に張り付けて言い放った。
「欲しけりゃくれてやる……、だが、その肉体は俺が貰ってやるよ!」
言い放つのと同時に、ミドゥルが一斉に魔剣に魔力を流し込んだ。
魔剣と少女、そしてミドゥルの間の繋がりを無理やり広げ、ミドゥルは魔力のみならず己の魂を少女の脳に流し込んだのだ。
魂の侵入は、しかし魔剣の抑止力によって阻まれる。
竜としての力も当然、弾き返されてしまう。
だがミドゥルは知っていた。
少女が未だ人である以上、より強い竜の力に当てられ続ければその肉体と魂の在り方を竜の物へと変貌させることが出来ることを。
不意にミドゥルは心臓を貫いた魔剣の刃を握り締め、手のひらに深い傷を作った。
そのままその手を少女の腹に空いた穴に突き刺し、狡猾な笑みと共に立ち尽くしていた真哉に視線を寄越した。
「お前には感謝してるぜ……! こうやって延命できる手段を教えてくれたんだからな!」
ミドゥルの血液が、魔剣の機構で変換されることなく少女の肉体に流し込まれる。
少女の傷口から侵入していくミドゥルの血が、肉体の奥深くに根を張って少女の空白の魂を侵食していく——はずだった。
「これでいい、これで俺はまだ生きられ……」
少女の魂を竜眼で凝視しながらミドゥルは悟った。
伽藍洞なはずの少女の魂が―それを保護する魔剣の加護が、ミドゥルの自我を剥ぎ取りながら魂だけを取り込んでいく様を。
「そうかよ……! 竜になることすら
迫る死のなかで尚、不敵な笑みを続けるミドゥル。
己の全てを引き込もうとする魔剣と少女を睨め付け、ミドゥルは迫る死を感じ取りながら、歪んだ笑みを湛えていた。
「ハハハハハハッ! 無様だな! 滑稽だな! 竜を殺すために屠竜師になったってのに、結局は自分も同じ場所に墜ちないといけなかったとはな!」
言い放ったミドゥルの首に、少女の手が伸びる。
ミドゥルの首を締め上げるように伸ばされた腕だが、しかし真意はまるで違っている。
少女は、突然ミドゥルの首に噛みついた。
それが魔剣の吸血衝動が強く作用した結果なのか、口の減らないミドゥルを黙らせるために取った行動なのかは分からない。
だが、少女はミドゥルの首に噛みつき動脈を噛み千切ると、そのままミドゥルの首の肉を剥ぎ取って、喉を鳴らして竜の血を啜った。
瞬間。
少女を中心に無窮の闇が大きく歪んで、その躯体のなかで魔力が大きく膨れ上がり、気配を変貌させた。
少女の内側から膨れ上がってくる、その気配の正体。
それは正真正銘、竜と同質のものだった。
少女の姿が豹変していく。
胸から肌を侵食していく黒い鱗。五指は、人間の形から歪んで鋭い刃の爪に変わる。
背中の皮膚を突き破って黒い翼が骨を砕いて広がる。
眼球は赤く染まり果てて、金色の竜眼に豹変する。
轟いた声に、もはや人の影はない。
人型の黒竜と呼ぶに相応しい出で立ちに変貌した少女は、吐息から蒼く燃える炎を吐き出していた。
「——た……す、けて」
悲鳴。
咆哮にも似た轟音と同時に、無窮が爆ぜた。
「——ッ」
不意に取り戻された外界の感覚。
地の底よりも深かった暗黒は消え失せて。
辺りには、鮮烈な赤が満ち満ちた世界が広がった。
直前までの闇の正体は外界と絶縁された結界の内側の景色だった。
真哉は、放り出された地下空洞の只中。その全貌を目の当たりにして、眼前の景色の正体と教団という組織の実態を悟った。
赤い。ひたすらに赤い世界が広がっている。
地には数多の竜の骸が転がっていて、その血で大地を潤し赤く染め上げていた。首のない巨竜の亡骸。胴の切られた竜の亡骸。無数の竜の亡骸が、大地を埋め尽くし赤く染め上げている。
そして赤い土から生える、これまた赤い果実の数々。根も、幹も、枝も、その葉までもが赤い。
深紅の林檎の樹が密集している小高い丘と、そこまで続く竜の骸が敷かれた墓地。
赫陸化した地下空洞の丘の上には、石造りの祭壇があった。
そこには、いきを引き取った竜人の少女が眠っている。
祭壇を囲むように召喚陣が引かれていて、要石として竜の骸が点々と配置されている。
祭壇の上で眠る竜人の少女と、槍に貫かれて絶命した少女。
交互に視線を向け、黒竜を見やる。
「コロす、殺テやル……、竜ハ、全部——」
己の姿を知らぬまま、残響のように虚ろな言葉を呟く黒竜。
伏せていた黒竜の顔が持ち上げられ、その双眸の竜眼と視線がぶつかる。
認識——敵意、そして殺気。
視線から放たれた底なしの憎悪と憤怒が秘められた殺気は、一瞬真哉の脳裏からすべての思考の進行を中断させた。
「トウガミシンヤあああッ!」
黒竜は、自我を失くせども尚、その脳髄の底に染み付いた名を叫んだ。
同時に黒竜が地面を蹴り抜いて、真哉に襲い掛かった。
魔力の刃を振り抜き、たった一太刀で地下聖堂の天井を断ち切る。
咄嗟の判断でそれを回避していた真哉だが、その脇腹に蹴りが突き刺さる。
「ぐッ——」
全身の細胞が震動する程の鈍重な衝撃。
しかし衝撃に従って体が転がるよりも先に、ぐい、と背中を掴まれる。
魔力の刃によって開かれた天窓に向かって投げ飛ばされた。
森、夜天、破壊された街並み。
視界が猛烈な勢いで切り替わっていく。
投げ出された空中で、勢いを殺す手段はない。
——……ロゥリエ!
伸ばした手は虚空を切るばかりだ。
身体は地上から徐々に遠のいていき、視界に捉えた教会もみるみる小さくなっていく。
己の身体が風を切る音が鼓膜に鳴り響く最中。
教会の地下から、黒い巨影が天空に躍り出た。
巨影は宙を広げた両翼で掴んで、加速と上昇を繰り返し瞬く間に頭上に迫った。
その顎の内には、超密度の魔力が秘められている。
触れた者の魂をごと焼き尽くさんとする、星の化身たる竜にしか成し得ない御業が構築されていた。
身動きは取れない。
故に回避などできるはずもない。
回避は適わず、防御は出来ず、不死も意味を成さぬ必中必殺の一撃。
闇夜の只中。
青の閃光が弾け、空を染めた。
「しまっ——」
破壊の雨が地上に注ぎ——、
刹那。虹の閃光が、空を真っすぐに駆け抜けた。
閃光は破壊の雨の直下にいた真哉に向かって真っすぐに伸びると、真哉をそこから攫って行く。
速度が落ちることはない。
加速を止めない滑空のなかで、目を開いた真哉の視界には見覚えのない虹の鱗を纏った白竜が居る。
その姿は記憶にはない。
けれど、その竜が何者であるのかを真哉は直感で理解できた。
「ロゥリエ! よかっ——」
言い終える間もなく、ロゥリエが身を翻して旋回する。
竜が羽ばたいていた虚空を、青い光線が迸る。
ロゥリエはやがて高度を上げ、背後から追いすがる光線を危なげなく避け切って、最高速度の飛翔を終えると暫時眼下の黒竜を見やった。
やがてロゥリエはその眼に憐憫を湛えるも、悲愴を浮かべることはしない。
その眼で察することができた。
彼女は同じ思いを抱いでくれているのだと。
——ロゥリエ、八代さんを助けよう。
念じて、ロゥリエと視線を交わした。
真哉は気づいていない。
ロゥリエに、己の念じた想いが伝わってはいなかったことに。
もはや彼女との間にあった念話や感覚の共有は全て機能を失っていることに。
だが、それでも。
次ぐ二人の呼吸は、寸分の狂いなく重なった。
地上から無数の青い光線が放たれる。
しかし二人が臆することはない。
光線の渦中に自ら飛び込んだロゥリエの背中で、真哉は天空から注いだ光の柱を握りしめてそこから一振りの光剣を手に取った。
顕現した『竜殺し』の光剣を目の当たりにして、黒竜は悪寒を覚えて掠りもしない光線の乱射を諦める。
生半可な威力では彼らを死に至らしめることは適わないと直感した竜は思考を切り替え、全霊の魔力を内に秘め、二人から距離を取っていく。
光線を凌ぎ切って、ロゥリエは黒竜と同じ高度にまで降下すると街を北上していく黒竜の後を追う。
追い縋らんと黒竜を遥かに凌ぐ速度で迫るロゥリエだが、その視線の先で黒竜が突然身を翻した。
その内に秘められた高純度の魔力の奔流。
そして黒竜から滲む、覚えのある邪竜の気配。
次の瞬間に打ち出されるものの正体を感じ取ってロゥリエは、背中に居た真哉を腕で抱えて急旋回すると——、
雷霆が森に落ちた。
たった一撃で森は焦土と化し、ロゥリエと真哉の思考には緊張が走った。
そして二人の緊張の糸は緩む暇も与えられず、次から次へ雷霆が降り注いだ。
隙間を縫って、二人は雷霆の豪雨から脱出し、やがて事態の全貌を目の当たりにすることとなる。
雷霆の衝撃で隆起した大地が、黒竜が操る磁気によって天高く持ち上げられていた。
森は赤く燃え、空は青く雷鳴が轟き、大地が宙に浮かび上がる。
それは正しく天変地異。
人には成せぬ、超常の極致が僅か数秒足らずで森に顕現し、森を世界の摂理から乖離した異界へと変貌させていた。
天変地異の渦中には、竜ですら触れれば深く傷を負う雷霆が降り注ぎ続けている。
だが、その程度の障害で二人が退くことはなかった。
自ら雷霆に飛び込むロゥリエ。
真哉が落ちる雷霆を光剣で弾き、ロゥリエが最短で黒竜の下を目指して飛翔する。
言葉も合図もなく、互いのことを信じ背中を預けながら二人は、天変地異の中央に鎮座する黒竜の頭上に躍り出た。
真哉がロゥリエの背から飛び降り、黒竜が鎮座する大地に着地する。
光剣を構え、黒竜となった直後に八代の放った悲鳴を脳裏で反芻しながら、真哉は傍らに竜が降り立つのを感じると、徐に目を伏せた。
天変地異の轟音など信じられない沈黙が、三者の間に流れていく。
荒ぶマナの奔流など気にも留めず、三者の魔力は凪いでいる。
これより天地を揺るがすほどの衝突が起こるとは予知できないほど、その空間はひたすら静かで穏やかだ。
やがて——、
眼を見開いて、三者は同時に地面を蹴った。
食らいつく黒竜の顎を躱し、真哉は黒竜の背後に回り込む。
追って放射させる光線を光剣で撃ち落とし、黒竜の鱗を光剣で切り裂く。
手応えは軽い。
裂かれた鱗の下に一瞬人間の皮膚が見えて、真哉はその一撃で八代を救う猶予が残りわずかで在ることを悟った。
——魂まで竜化する前に決着をつけないと……!
黒竜が振り向き、真哉に襲い掛かる。
だが真哉は動じず、迫る黒竜の眼を真っすぐに見つめ返している。
遥かに深い怒りの奥。微かに黒竜の目に迷いが生じたのを、真哉は見逃さずに黒竜の内に眠る少女の魂に呼び掛けた。
「すぐに助ける」
「— ——」
黒竜は咆哮して真哉に覆い被さるが、その躯体は不意に虚空に吹き飛ぶ。
天変地異の災渦に巻き込まれる大地に突き刺さった黒竜は、真哉の眼前に立つ竜人の少女の姿を見やって、自分が蹴り飛ばされたのだと遅れて理解する。
呻きながら身体を持ち上げ、黒竜は顎の内に魔力を収束していく。
秘めた魔力を一極し、ロゥリエに向けて打ち出した。
けれどそれが竜人を傷つけることはない。
黒竜が取り込んでいた魔剣の力を察知した真哉が間に割って入り、『竜殺し』の力を内包した光線をその手の光剣で相殺したのだ。
その影から、ロゥリエが飛び出し黒竜に迫る。
真哉もその後に追い縋り、黒竜が抗い放つ光線と蒼炎の嵐の中を二人は意に介さず、真っすぐに黒竜の眼前に迫った。
先に黒竜の前に到達したのはロゥリエだ。
竜殺しの力の影響を最小限に抑える為に人態となっていたが、懐に入ればもはやそれも意味はない。
竜態となり繰り出される、光速の突進。
黒竜の居た大地を丸ごと粉砕し、ロゥリエは翼を広げて上空に逃げようとした黒竜の尾に噛みつき、その巨体を振り上げた。
投げられた黒竜が空気を翼で捉えると、不意にその背後に総毛立つ気配が浮かび上がる。
黒竜が振り返るとそこには光剣を握った真哉の姿があって、振り下ろされた光刃が黒竜の翼を切り落とす。
翼を失くした黒竜が落ちていく。
空中でそれを見やる真哉の足下にロゥリエが飛び込んで、真哉が慣性に連れ去られる前に拾いあげ、共に黒竜の後を追う。
「こんな……、コンなはず……!」
黒竜の怒号のなか、微かに少女の声が混じる。
真哉の振るった光剣の刃は、黒竜の呪いを剥ぎ取り、その内に閉じ込められた少女の魂を起こし始めていた。
悲痛の声を聞き逃さなかったロゥリエは、更に加速し急降下していく。
放たれる蒼炎の弾丸を避け、光線を振り切る。
黒竜の懐に飛び込んだかに思えた、その瞬間。
黒竜の竜眼が突然見開かれて、不意の雷霆がロゥリエの鱗を焼き尽くした。
雷霆が直撃し、地に落ちるロゥリエ。
その背中から飛び出し、宙に躍り出る真哉。
ロゥリエは落雷の直前に翼を畳み、全魔力で背中に居る真哉の身を守っていた。
地上に落ちていくロゥリエを見やる。
鱗は融解され、露出した肉は焼け爛れている。
不穏な安堵の微笑を浮かべて、ロゥリエは言った。
「行って。真哉ならきっと助けられるから」
やがてロゥリエの姿は闇夜の底に消えていく。
災禍の中に落ちていった彼女の身を案じながら、地に落ちた黒竜を見やった。
光剣の竜殺しの力に触れた翼が生えることはなく、身を覆う鱗は次第に剥がれ落ち始めている。
竜の巨体を維持していた肉片は溶け、中からは人間の少女の皮膚が露出している。
けれど肉片と鱗は蠢き、少女の身体を手放すまいと必死のその肉体に留まろうと足掻いている。
竜殺しの力を浴びて存在の輪郭を失っていく竜の肉片は、魂を失くした少女の肉体に癒着しようと藻掻いている。
竜の巨体の影だけを肉体で形成し、少女の心臓から魔力を絞り上げながら、雷霆の邪竜を想起させる残響は生に執着していた。
崩壊していく肉体の形を維持する為に肉片は少女の口から体の内に潜り込み、その内側で跳ねまわっていた。
「たすけて」
悲鳴が聞こえてくる。
次いで空を切り裂く鋭音が鼓膜に響いて、頬を魔力の砲弾が掠めていった。
「もう悪いことはしないから……」
魂が失われようとも、器に刻まれた記憶は未だ健在なまま少女に涙を浮かべさせていた。
肉体を蝕まれる苦痛に、魂を置き替えられていく恐怖に、己が犯してきた罪に。
流れた涙が、少女の頬を伝っていく。
「だからっ……、誰か、助け——」
「わかってる」
自覚する。
ロゥリエに出会った、その意味を。
「僕は、君を助ける為にここにいる」
告げると少女の表情は微かに和らいだ。
しかしそれとは裏腹に、爆発的に魔力が膨れ上がって少女の身を犯す肉片の端々から数多の光線が打ち出された。
「!」
顔面目掛けて放たれた光線を回避し、後を追従する光線を振り切る。
器と成り得る少女の肉体を奪われたくはないのだろう。
竜の残響は少女の周りに守りを固め、肉片を練って形成した無数の竜頭から光線と魔砲をとめどなく放っていた。
その全てを撃ち落とし、切り裂き、弾き、砕き——距離を縮めていく。
砲声が響く度、光線も砲弾も、共に威力も速度も失っていった。
「—— —」
天地を揺るがす咆哮が響き、黒竜は肉片を広げて即興の翼を広げると天高く飛翔した。
その顎に秘められた魔力の渦。
焼却の炎が天空に浮かぶ大地を焼き尽くすより先に——、
竜の頭上よりも高く跳躍し、光剣を振り翳した。
星の重力に引き寄せられながら、竜の呪いから解放された少女を抱き寄せる。
地上に叩きつけられても、せめて彼女は傷つかぬように。
強く、強く抱きしめる。
もう二度と、一度救ったものを失いたくないから。
もう二度と、何もできず傍観するだけでいたくはないから。
空から大地が降り注ぐ。竜を討った虹の光が注ぐ。
その只中を、少女と二人落ちていく。
水平線の彼方から朝日が上りはじめ、夜闇を洗い流していく。
ふと、朝日の中に白い影が浮かび上がった。
影は、虹色の光を帯びていた。
朝日の陽光に照らされながら虹色に光り輝く竜は、空を己の極彩色の虹色で染め羽ばたいている。
「—— —」
咆哮は、けれど歓喜の歌声のように澄んでいる。
雲ひとつない晴天の空を漕ぎながら、竜はやがて眼下に到着すると僕と少女を背に乗せて彼方の空へ羽ばたいていく。
竜の背中から仰いだ朝焼けは、息を飲む美しさだった。
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