第18話 合流する助っ人


 バキは剣を抜き、足元から天井に向けて剣先で空を斬った。

 超高速で繰り出された太刀筋が波動を生み出し、室内に充満していた炎の壁を薙ぎ払う。



 薙ぎ払いきる前に、剣の先から触手のようなオーラが這い出ていた。

 それは彼の意のままに操られていると思われる。



 触手のオーラは炎と熱気を吸引器のようにかき集めた。

 大気を歪めていた獄炎の熱気は渦を巻いて、バキの剣にまとわりついている。

 まるで剣に「お前たちの居場所はここだ」と言わんばかりに吸い寄せたのだ。



 そして、振り上げていた剣を開けっぴろげの大きな窓に向けて折り返すように討ち払ったのだ。

 室内の全ての熱気が吸い取られ、室外に追い出された。



 仇の怪物は魔界の神だという。



 室内でなく、屋外でもその炎の熱気は空まで覆っていたと聞く。

 そうして町は爆発的な火災に見舞われて、ほぼ壊滅だった。

 その化け物が操る特大規模の大火炎を彼の剣技は一発で消し飛ばしたのだ。



 速圧とは自然の流れに逆らう速度で空気圧に変化をもたらす。

 これだけの高温なら室内は空気圧が上昇し続けるため、いつかは膨張に膨張を重ねて大爆発を起こす。



 ここには大きな窓があるから空気は絶えず抜けていくはずだが。

 術者が外へ流さないようにコントロールしていると考えられる。



 それは大きな魔力の持ち主ではある。

 膨張し過ぎないように一定空間だけを高温状態にするのだから。

 「圧縮空気」。


 空気を圧縮すると非常に高温になるため、冷気で高温の圧縮空気を冷却したあと、圧縮空気を剣に蓄え、エネルギーはそのまま剣に保存。邪悪なエネルギーは遠くに排泄する。



 大きな魔力を斬るたびにバキの剣は成長し、波動を繰り出せるようになる。

 魔力は剣で弾き、作用としてのエネルギーは剣に吸収させる。

 魔力とエネルギーとを分解し、切り離したのだ。




 ◇




「どうやら助っ人が現れたようだな。誰かは知らぬが、いまは感謝する」



 バキの方を見て賢者?がそう言った。

 味方であると確信するのはバキの行動で判断できたようだ。

 敵にくみするなら、背後から自分をその剣で貫けば良いだけだ。

 それだけの腕前は持ち合わせているのだからと。その瞳は語っている。



「無事だったようだね。間に合って良かったっス。賢者さん、魔力は残ってますか? 疲れているならうちの魔法使いが変わりますよ」



 バキは賢者?を気遣って、後方に控えていたルクを紹介した。

 賢者?はそこへ目をやり、フッと笑みを漏らした。

 助っ人がもう一人いると知れば、誰だって心強くなる。

 ルクが駆け寄ってきて、挨拶を入れる。



「魔導士のルクです。目の前の者は剣士のバキでございます」


「バキにルクか。よく駆けつけてくれた。私はフレリッドと申す、が挨拶は後回しだ。奴を倒すのが先決だ。町の者からの情報で冷気に弱いと判明している。私も追って来た際に背後から一発、お見舞いしてやったが、怒りを買って今しがた身動きが取れぬ状況に、な」



 我々もその情報は入手していると伝えるとともに、怪物に向かい戦闘態勢にはいる。ルクはフレリッドに対しても素早く炎ガードを施した。

 フレリッドは奴が魔界の神ヴァルファーと名乗ったことを付け加えた。



「アイツは見てのとおり巨躯である。首元まで剣が届けば一刀両断にできるのだが、ここは天井が高いため、飛び回ることに苦戦を強いられ、厄介なのだ」


「え、おっさんって賢者じゃないの?」


 

 バキがなぜか驚きの声をだした。

 フレリッドも腰に剣を差していた。身長は180弱。

 彼は剣を装備していたのだ。剣の修行も経ているのか。

 この期に及んでハッタリは言わないだろう。

 特大のモリビタンSを使いこなして、剣でも立ち回るとなれば。



「いまも言うたが、ゆっくり話し込んでは居られないのだ、手数が増えたからと安心はできない。引き続き援護を頼めるか?」


「オッケー! でも援護ならルクが担当だから、俺も攻撃に加わるよ」


「わしが援護をします。バキは魔力を持っとらんで斬るしかできないんですわ」


「なんと、さきほどの技は魔法剣ではないというのか!?」



 雑談している暇はない。

 フレリッドは驚きの表情でいるが、それ以上は何もいわず魔法の詠唱に入った。

 ルクは2人の後方に下がり、回復の援護を担当する。

 2人が存分に斬り込んで行けるようになった。



「おのれぇー! 何を仕出かしたかは知らぬが、すぐ町の奴らの二の舞にしてやるわ!」



 そう言って、ヴァルファーは特大の火炎を両手から連撃してきた。

 再び火炎地獄の部屋が再現されようとしている。



「いかん、そなたらが来るまでずっとこのループから抜け出せなかった」


「なるほど。わしらのお出ましでその流れが一瞬だが途切れた訳ですな」


「バキよ。君は奴の炎を薙ぎ払ってくれ。私は氷結系アイスの準備をする」


「ちっ、しょうがねぇなぁ。俺が突っ込んでいっちゃ、2人を危険な目に遭わせちまうか。ここは仲良く連携だな」


 へへっとバキが笑う。

 バキは素直にフレリッドの指示に従うと言った。

 これまでを振り返れば、「俺にやらせろ」と言うかと思われて目を見開くルクがいた。



 ルクは安堵したように、一瞬笑みを漏らした。

 バキも理解はしている。わきまえることを覚えている。

 我々はあくまで助っ人なのだ。



 この戦いは、彼らの国の戦い。立ち上がる者がいるならばその意欲を削ってはならない。彼らが戦って勝利を納めなければならない。



 あとはフレリッドと名乗る男がどれだけのダメージを敵に与えられるかだ。

 怪物も含めて、それぞれが何者かを問う暇はない。

 奴にも焦りがあるのか同じ状況を作り出して、火炎で押し切る姿勢が窺えた。





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