琥珀の雨
三毛狐
第1話
神様は空からお菓子を降らせることにしたらしい。
そうとしか思えないほどに、甘い雨だった。
これは上層階のカエデ林から溢れた蜜だ。
この塔では珍しくなく、階層を越えた干渉災害と呼ばれる。
数年前にも見た覚えのあるメープルシロップの雨。
思い出の中では、琥珀色の水溜りが印象的だった。
窓を閉めていても、甘い匂いが香ってくる。
今日が休日でよかった。
ガラス越しに外を見ると、大きな熊さんが2匹、小さな熊さんが3匹うろついていた。
隣人の熊だ。家族総出でバケツリレーをしているのだろう。
あの家は甘いものが大好きだからお風呂場にでも溜めるのかもしれない。
「手伝いましょうか」
「たすかる!」
私は家を出ると、バケツリレーに参加した。
熊熊私熊熊熊。
全身がシロップまみれだった。
溜めていたのはお風呂場ではなく、樽だった。
元々はウィスキーが入っていたらしい。
この地域の事は以前から知っていて準備していたとのこと。
そういえば前回のとき、この家族はいなかったっけ。
樽が満たされると、手を振って家に戻った。
後でお礼に焼いたお菓子を持ってきてくれるらしい。
たのしみだ。
シャワーを浴び、洗濯をする。
甘い雨はまだ降りやまない。
私は紅茶を淹れたが、砂糖などは入れなかった。
喉を潤し、体の芯から温まる。
ノックの音がして、お菓子を受け取った。
クッキー模様の傘をさした大きな熊さんが、お礼を繰り返していた。
甘いクッキーだった。
やはり紅茶にとてもよく合う。
この雨は川となり、滝になって、さらに下の層へ流れていく。
ここから下の層で水は甘いのが当たり前なのだ。
しかし私は真水が飲みたい。
住んでいるこの階層はメープルシロップの雨が降ることもあるが、それよりも湧き水が徒歩圏内にあるのが魅力だった。
クッキーはまだまだ沢山ある。
次は珈琲でも淹れるとしよう。
きっとそれも、クッキーに合う。
琥珀の雨 三毛狐 @mikefox
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