第4話 愛玩動物

 長い舌を出して躙り寄る黒いケダモノを前にして、クロエは腰が引けていた。


「逃げるな!」


 レオンに命令された瞬間、従魔契約により、クロエは動けなくなる。


「や、やめて」


「別に取って食ったりするわけじゃ無い、俺様がクロエの汚れを舐め取ってやるから大人しくしていろ」


「いや、大丈夫だから、自分で何とかします!」


(さっきは、レオンに頬を舐められただけでも全身に電気が走ったみたいな快感が込み上げたんだし、全身を舐められたら、どうなっちゃうの?)


「遠慮することは無い、前世ではクロエも俺様の身体を洗ってくれていただろ?」


「それは、レオンが洗わないと臭いからよ!」


「今のクロエも大分臭うぞ?」


「なっ!?」


 カメレオンバジリスクの唾液の悪臭を漂わせているとは言え、臭いと言われたクロエは涙目になった。


(なんてデリカシーの無い犬なの!?女の子に臭いとかサイテー!)


「安心しろ、これからは俺様が毎日クロエの身体を隅々まで綺麗にしてやる!従魔の世話は主人の務めだからな!」


「か、勘弁してよぉ〜」


 次の瞬間、レオンがクロエのお腹を舐め上げた。


「うひぃっ!?」


 その瞬間、クロエの身体を電気が走った様に快感が突き抜ける。

 全身の毛が逆立ち、尻尾がピーンと伸びて硬直した。


(だから、なんでレオンに舐められると、こんなに気持ち良いのよ!?)


 まるで幸福感に満たされた様な感覚に、クロエは戸惑いを隠せない。

 その間も、レオンは丁寧にクロエの全身を舐め、カメレオンバジリスクの唾液を取り除いて行く。


「うひっ、ひゃっ、そこは・・・あっ、ダメ!」


 クロエは、ピクピクと身体を痙攣させながら、レオンに身体を綺麗にしてもらいながら、快楽を我慢していた。


「舐めにくいな、四つん這いになれ」


「はぁ!?」


 レオンに命じられ、クロエは全裸でワンワンポーズをさせられて、顔を真っ赤に染めていた。


(なんで私がこんな恥ずかしいポーズをしなきゃいけないのよ!?)


 それから1時間ほど掛けて、丁寧に全身の隅々までレオンに舐められたクロエは、ピクピクと痙攣しながら、快感に溺れていた。


(も、もう無理・・・死んじゃう)


「うむ、終わったぞ!傷も無いようだし良かったな!」


 レオンは、クロエの身体を舐めながらも、傷や怪我が無いか入念にチェックしていた。

 カメレオンバジリスクは、唾液に猛毒を持っており、小さな傷でも体液が血中に入り込むと血が石のように固まり、死んでしまう可能性があった。

 因みに、レオンは完全毒耐性を持っており、クロエの身体に付いた唾液を舐めても平気だ。

 また、レオンの唾液には治癒の効果があり、傷の治療も出来るので、入念にクロエを舐める事で、クロエの命を守ろうとしていた。

 

 結局、クロエが立てるようになるまで30分近く掛かった。


「それにしても、どうやってこんなデカい化け物を倒したのよ?」


 クロエは、胴体を真っ二つにされて死んでいるカメレオンバジリスクの死体を見て、レオンに質問した。


「おう、暗黒物質のスキルで巨大な剣を作って両断したんだ」


 そう言うと、レオンは何も無い空間から黒い物質を作り出して、自在に形を変えたりして見せた。


「うわぁ、凄いスキルね!」


(ってか、待って・・・何でレオンがスキル使えて、私にはスキルが無いの?)


 クロエは、よくよく考えて、ある仮説を思い付いてしまった。


(もしかして、異世界転生に選ばれたのはレオンで、私は巻き込まれただけだったりして・・・だから、女神様もレオンの希望を聞いた?)


 その可能性に気付いたクロエは、突然怖くなった。


(もしかして、レオンが従魔として私を選ばなかったら、私は転生も出来ずに死んでいた可能性もあるのかな?)


「おい!いつまで呆けているつもりだ!」


 レオンに声を掛けられて、クロエはビクッと肩を震わせた。


「ご、ごめんなさい、ちょっと考え事をしてた」


(取り敢えず、レオンの従魔として転生出来たんだし、怖い想像はやめよう!)


 少しだけ、今の状況を肯定的に考えたクロエは、気を取り直した。


「ってか、その暗黒物質って、何でも再現できるの?」


「ああ、形や感触なら、概ね自由自在だぞ?」


「じゃあ、私の服を作ってよ!」


(そんな便利なスキルがあるなら、もっと早く言いなさいよ!下手したら、このまま全裸で人間の街に行くところだったじゃない!)


「・・・何故だ?」


 何故かレオンは、不思議そうに首を傾げた。


「何故って、服を着るのは当たり前でしょ!?」


「いや、前世でも、俺様は服なんか着させてもらった事は無かったぞ?」


「うっ、それは、レオンが犬だから・・・」


「クロエは従魔だろ?服を着させる必要は無いと思うんだが」


「すみません!お願いします!これからは言う事をしっかり聞きますから、服を着させて下さい!」


 クロエは、全裸でレオンに土下座してお願いした。


(これからずっと、全裸で犬に連れられて歩かされるなんて、私には耐えられない!この際、プライドは捨てても良いから、人間の尊厳だけは守らないと!)


「うむ、別にクロエの同意が無くても、命令すれば良いだけだしなぁ、あんまりメリットを感じないな」


 レオンは、自分が優位に立っている事を理解しているのか、偉そうに焦らして来た。


(こいつ、偉そうに・・・でも、逆らえないし)


「ぼ、防具としてはどう!?服があった方が防御力も上がるし、戦闘の時に従魔として役立つと思うのよね!」

 

 クロエは、必死に服を着る理由を考えて、レオンを説得する。


「ふむ、正直、戦闘は俺様1人で十分だしな、他には?」


「ほ、他に!?」


(きー!ムカつく!確かにさっきも食べられただけで何も出来なかったけど・・・戦闘以外にメリットかぁ)


「ぺ、ペットでも愛玩動物には前世でも服を着させてる人がいたわ!」


「俺様には着せていなかっただろ?」


「れ、レオンはそのままでもかっこいいし、愛玩動物って言うよりは友達みたいなものだし!」


「ほう、クロエは愛玩動物なのか?」


「そ、そうよ!可愛いでしょ?着飾ったらもっと可愛くなると思わない?着飾った私を連れて歩けば、周りに自慢できるわよ?」


 クロエは、必死過ぎて自分で何を言っているか分からなくなっていた。

 それでも、レオンに通じたのか、レオンは少し考える素振りをする。


「良いだろう、俺様の愛玩動物として、服を着させてやる!」

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