第2話 従魔契約

 再び目を覚ましたクロエは、鬱蒼とした森の中で立っていた。


「うそ、私、本当に異世界転生したの?」


 あまりにも非現実的な状況だが、目の前に広がる異世界の森が、クロエが異世界に転生した事を物語っていた。


「・・・なんか変ね」


 妙な違和感にクロエは、自分の身体を見た。


「はへっ!?なんで裸なの!?」


 やけにスースーと風を感じると思ったら、クロエは全裸で森の中に立っていた。

 

「それに、何よこれ?」


 全裸なのに、何故か首に重さを感じる。

 よく見て見ると、クロエの首には赤い首輪が嵌められていた。


「と、取れないんだけど」


(これじゃあ、変態みたいじゃない)


 まるで犬の様に裸で首輪を嵌められた状態のクロエは、お尻に感じる違和感に振り向いた。


「・・・尻尾?」


 なんと、クロエのお尻と腰の間からは、長い狐色の尻尾が生えていた。

 フリフリと横に振られる尻尾からは、確かに感覚がある。


「尻尾があるって事は、耳も!?」


 クロエの茶髪の頭には、フワフワの犬耳が生えていた。


(どう言う事!?異世界転生で異形種に転生しちゃったの?)


「そうだ、レオンは?」


「俺様なら、ここに居るぞ?」


 声のした方に振り向くと、見慣れた姿の黒いラブラドールのレオンが何食わぬ顔で座っていた。

 

(ちょっと、大きくなった?)


 サイズは一回りくらい大きくなった気がするが、それ以外には、大きな変化はないので、安心した。


「レオンは特に変わっていないのね」


(元から犬だからかしら?)


「ああ、鬱陶しい首輪が取れたくらいだな」


「確かに、首輪とリードが無くなっているわ・・・ね?」


 そこで、クロエはフリーズした。


(え、今、普通に喋っていたけど、レオンが話してる!?)


「なんで言葉が話せるの!?」


「さあな、普通に話せたぞ?」


(異世界だから、動物とも言葉が通じるのかな?私が異形種になったから?)


「それもあるが、従魔契約のおかげかもな」


「従魔契約?」


(ってか、今、私、声に出していなかったよね?)


「クロエは俺様の従魔だからな、主人である俺様の言葉が分からないと命令を理解できないだろ?」


「・・・はい?」


(何を言ってるのかしら、このバカ犬は?)


「主人は、私でしょ?」


「誰がバカ犬だ?それに、主人は正真正銘俺様だ!」


(また、私の心を読んだの?)


「ああ、支配している従魔の心は全て筒抜けだからな」


「な、何よそれ!?私のプライバシーは?ってか、本当にレオンが従魔契約の主人なの!?」


(レオンが主人って事は、私が従魔って事!?)


「やっと気づいたか、鈍間な従魔だな」


「誰が鈍間よ!それに、レオンの従魔なんて嫌だからね!誰がペットの従魔になるって言うのよ!」


「まだ、自分の立場が分かっていないみたいだな、ペットはお前だよ、クロエ」


「ペ、ペットですって?私は人間・・・よ?」


 自分に尻尾と耳が生えた事を思い出したクロエは、人間だと言い切れなくなり、トーンが下がる。


「なら、しっかりとペットとして自覚できる様に調教してやらないとな、お座り!」


 レオンに命令された瞬間、首輪を通して、全身に電気が走った様に、レオンの命令に逆らえなくなり、クロエは即座に犬の様に座った。


「な、どうなっているの?」


(身体が勝手にレオンの命令に従っちゃう!?)


「これで分かったか?従魔契約により、クロエは俺様の命令には、絶対に逆らえない!」


「そ、そんなぁ!?」


「前世でクロエも言っていただろ?」


「何をよ?」


「飼い主の命令には従いなさいってよ!」


「それは、レオンがペットだったから・・・あっ」


(そっか、今は私がレオンのペットだから・・・マジで?)


「マジだ、これから宜しくな!従魔として」


「・・・そんなぁ」


(せっかく異世界転生して、チートスキルで無双できると思ったのに、ペットのペットに転生とか最悪なんだけど!?)


「前世で世話になった分、しっかり俺様が世話してやるから心配すんなよ」


 変に男らしいレオンがクロエの頬を舐める。

 

「ヒャウッ!?」


 まるで、全身に電撃が走った様な快感が込み上げて、クロエは、全身の毛が逆立つ。


(な、なに今の感覚!?)


「気安く舐めないでよね!」


 クロエは、頬を赤ながら、レオンから離れる。


(凄い気持ち良かった、ヤバッ、レオンに舐められるのは危険ね、私も犬っぽくなったせいかな?)


 クロエは、尻尾をブンブンと振りながら、腕を組んで悩む。

 

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