第10話 “炎人”の恐怖
『グ、ギギッギギッ』
『オオオオオッッ』
リゲルの取り巻き“だった者”はどちらも血のように真っ赤な色の炎に包まれ、所々から黒い煙が上がっている。身体を覆う炎の鎧のようなものの隙間からは白い骨が見えており、まさにモンスターといった様相であった。
「やはり失敗だったようですネ。自我のない炎人となってしまったようでス」
「クソ、だから駄目だって言ったのに……」
“自我のない炎人”――。
それが今の彼らに与えられた名前なのだろうか? あまりにも禍々しいその姿に言葉を失う。
どうしよう。恨みがあるとはいえ、同郷で育った幼馴染だ。どうにか助けてやりたいが、俺には元に戻す手段がない。ベルフェゴールなら可能なのか……?
「さテ。ワタシの用事は済みましたのデ、そろそろ失礼しまス」
「くっ……このまま帰してたまるかよ!」
「アナタの相手は炎人たちに任せますヨ。彼らに勝てないようでしたラ、どちらにせよワタシの期待外れだったということですシ」
奴がこちらを見据えながら言う。その視線はまるで品定めでもしているかのようだ。
このままではまずいと思い、咄嗟に剣を構えようとした瞬間。俺の目の前にいたはずのベルフェゴールの姿が消えていた。
「……え?」
驚いて辺りを見回すが、どこにもいない。煙のようにかき消えてしまった。
《フェンさん、後ろですっ!!》
ルミナ様の声に反応して振り返ると、二体の炎人が俺に襲いかかってきていた。
「なっ!?」
慌てて躱したものの、体勢を崩してしまう。その隙を見逃さず、奴らは再び襲い掛かってきた。
「あっ……ぶねぇっ!!」
スキル、見切りの極意を発動。打ち下ろされた二つの燃える拳を地面を転がるように避け、どうにか危機を脱する。
炎人たちは体から高温を発しているせいで、避けたつもりでも皮膚が焼けるように熱い。
なんとか距離を取ろうとするも、二人の連携はまさに息がぴったりで、執拗に追い回されてなかなか逃げられない。
その上動きも速く、なかなか反撃に転じることができないでいる。
「くそっ、ちょこまかと……!」
『オォッ!』
『ギャァッ』
もはや顔の原型もなく、どっちがどっちだったかも分からない。そんな二人が俺に向かって容赦なく拳や蹴りを打ち込んでくる。
木剣で攻撃を受けると、まるで金属同士がぶつかり合ったような甲高い音が響き渡る。どうやらコイツらの身体は見た目以上に硬いようだ。
しかも厄介なことに、段々と剣がボロボロになってきている状況だ。
「(このままじゃマズいな……埒が明かない……)」
このままだといずれ押し切られる。どうにかして突破口を見つけようと、ひたすら攻撃を避けながら打開策を考える。
「ステータス!」
――――――――――――
フェン 16歳 Lv.7
攻撃力:10(木剣+10)
防御力:10
筋力:15(+500)
回避速度:10(+400)
魔力:0
魔法防御力:5
称号:初恋を拗らせた童貞/神の観察対象
ジョブ:童貞
スキル:
・見切りの極意
・やせ我慢
アビリティ:
・精神攻撃耐性Lv.qWエrt
・回避速度アップLv.40
・剛力Lv.50
【解説】
・精神攻撃耐性:精神に対するダメージを常に軽減する。
・回避速度アップ:攻撃に対する回避速度を常にアップさせる。(回避速度=アビリティLv.×10)
・剛力:攻撃時に使用する自身の筋力を常にアップさせる。(筋力=アビリティLv.×10)
・見切りの極意:認識できる攻撃に対して、適切な回避行動をとることができる。
・やせ我慢:一時的に防御力を飛躍的にアップさせる。しかしそのあと防御力が大幅ダウン。
――――――――――――
「リゲルを倒して、レベルが二つ上がってる……でも焼け石に水だぞコレ……!!」
多少の能力値が上がっていたけれど、スキルやアビリティは何も増えていない。つまり雑魚のままである。頼りのスキルも永続的に一時的だし、この程度のステータスでは二体の炎人を倒すことは難しいんじゃないのか……?
炎人の連打を剣でいなしながら、二度目の見切りスキルを使用する。だが俺はリゲルを倒したことで慢心していた。俺の戦闘経験なんてほぼ皆無。村の隅で木剣の素振りしかしてこなかったのだから当然なのだが……。
「……っ!? もう一体はどこに行った!?」
慌てて振り向くと、そこにはもう一体の炎人が両手を広げて俺に向かって走り寄っていた。
「(挟まれた……!)」
そう思った時にはすでに遅く、逃げる間もなく奴の腕が俺の身体を掴もうとしていた。
「しまっ――」
『ガァアアアッ!!』
『オォッ!!』
《フェンさん!!》
避けることもできず、そのまま二人分の拳を受けることになった俺は勢いよく吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ……うぅ……」
咄嗟に“やせ我慢”のスキルが発動し、なんとか意識を失うことはなかったが、それでも全身が痺れるような痛みに襲われていた。
『グゥ……』
『ウグッ』
炎人たちは呻きながらもゆっくりとこちらに近づいてくる。
「……くそ、ここまでか」
スキルは連続して使えない。さすがにこれ以上は……。そう思って諦めかけたその時だった。
「――フェンは殺させないよ」
「え……?」
突如聞こえてきた声と共に現れたのは、見覚えのある金髪と大きな赤リボンをつけた、犬耳の少女であった。
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