さっちゃん
ピーコ
さっちゃん
怖い噂のある童謡が、日本には、いくつかあります。その中でも、もっとも有名な童謡があります。その童謡とは、誰もが知っている「さっちゃん」です。今回は、「さっちゃん」の怖い噂を元にお話を作ってみました。
私は、渡辺弓子。52歳。最近、長年、連れ添った夫と離婚して、実家に戻ってきた。
私は長年、夫からDVとモラハラを受けていた。私は我慢の限界を超えていた。私は、泣きながら夫に訴えた。離婚してほしいと。
夫は、やっと私を解放してくれた。子供は、成人し独立しているので、晴れて自由の身になった。
私の母はシングルマザーだった。母も私が幼い頃に離婚した。父はアルコール依存性で、ろくに仕事もせず、母に暴力を振るっていた。幼い私にも危害を加えるようになったので危険を感じた母は、私を連れて家を飛び出した。
母は幼い私を育てるのに必死だった。仕事を掛け持ちし、朝から晩まで働いた母。疲れているはずなのに、学校の行事ごとなどは、毎回かかさず来てくれた。
それから、時が過ぎて、私が、「この人と結婚するの」って、主人を連れて実家に帰った時も母は、すごく喜んでくれた。妊娠した時も喜んでくれた。
私が離婚を決めた時、母は、「頑張ったね。もう、無理しなくていいよ。帰っといで。」と電話口で、一緒に泣いてくれた。
私が実家で一緒に暮らしたいって言った時、母は、「やっと2人でゆっくり暮らせるね」って喜んでくれた。
そんな矢先、母の病気が見つかった。末期の癌だ。癌が全身に転移しているらしく、助かる見込みは低いと医師に伝えられたばかり。私は、ショックを隠せなかった。
しかし、母に、そのことを伝える勇気は、なく、モヤモヤしていた。
私は、最近、眠れない。離婚してスッキリしたはずなのに、モヤモヤが晴れない。母の心配もあるかもしれない。
でも、それ以上に寂しくて、寂しくて仕方ないのだ。壁の時計を見ると深夜2時を回っている。そろそろ寝ないと。朝になったら、母の着替えを持っていかないと。
そろそろ寝ようとした時、トゥルルル、トゥルルル、家の電話が、なった。
もしかして母に何かあったのでは。私は急いで電話に出た。
すると電話の向こうから声が聞こえた。
「ゆみこちゃん❓」声の主は、小さい女の子。
こんな時間に、なんなの❓私は心の中で呟いた。
私は、諭すように優しく言った。「私は、ゆみこって名前だけど、あなたの知ってるゆみこちゃんとは違うと思うな。だって、私、おばさんだから」
すると女の子は、こう言った
「あなた、渡辺弓子ちゃんよね❓」
「そうだけど、あなたは誰❓」私は、聞き返した。
すると声の主は、私の話を聞いていないのか、自分の話ばかりする。
「あー、やっと、ゆみこちゃんが見つかった。よかった。知ってるお友達に電話しても誰にもつながらなくて、諦めてたの。そしたらゆみこちゃんが出てくれた。よかった。」
私は、この声を知っている。聞き覚えのある舌ったらずな話し方。
この声は、もしかして。「あなた、さっちゃんなの❓」私は思い切って、聞いた。
すると声の主は言った。「そうだよ。さっちゃんだよ。」
ちょっと待って。さっちゃんは、小学一年生の時に亡くなったはず。そのさっちゃんから、電話なんてありえない。
私は、思わず、怖くなり切った。私は、朝まで一睡も出来なかった。
朝になり、このことを聞いてもらおうと思い母の病室に行って、すぐに、母に話した。
すると母は、言った。「そう言えばいたねー。松村幸子ちゃん。幼稚園も一緒で仲よかったもんねー。さっちゃんのお母さんもうちと同じシングルマザーでね、うちにも、よく遊びに来てたわー。さっちゃん、体が弱くてね、幼稚園も小学校もよく休んでたねー。でも、一年生の時、かわいそうな亡くなり方したんだよねー」
「どんな亡くなり方したの❓」私は聞いた。
母が答えようとした時、看護師さんが入ってきて面会時間は、終わりだと告げに来た。
どんな亡くなり方をしたのか、私は、気になった。
その日の夜も私は、なかなか寝付けなかった。
トゥルルルトゥルルル、また、電話がなった。今日も深夜2時過ぎ。
きっと、さっちゃんからだ、私には、わかった。
「はい。」私は電話口に出た。
「ゆみこちゃん」さっちゃんが私の名前を呼んだ。
私は、もう怖くなかった。さっちゃんとは幼稚園の時の話、小学校の時の話をした。
「さっちゃんは、お姫様の絵を描くのが上手だったよねー」
「ゆみこちゃんとお姫様ごっこしたのも覚えてるよ」
その次の日も、その次の日も、さっちゃんから深夜2時を過ぎると、電話がかかってきた。
毎日、子供の時の話をした。その頃、見ていたアニメの話、好きだった男の子の話。私は、さっちゃんからの電話が楽しみになっていた。
そんなある日、さっちゃんが、言った。「さっちゃんね、探してるものがあるの。」
「探してるものって❓」私は聞いた。
「お母さんが、さっちゃんの7歳の誕生日プレゼントにくれようとしてた靴なの。どんな靴なのか見れなかったから」
さっちゃんは寂しそうに言った。
私は、言った。「さっちゃん、私が、その靴見せてあげる。約束する。」
さっちゃんは、「ありがとう」って
何度も言った。
朝になって私は母の病室に行きそのことを話した。母は言った。「さっちゃんのお墓、光照寺にあるのよ。お寺の場所わかるでしょ?あそこの住職さんに、さっちゃんのことを話せば、いろいろわかるかもしれないよ」
私は、その日の午後に、光照寺に向かった。お寺につくと、住職さんが、ゆっくりと語り出した。
「あの子は、私の遠い親戚に当たる子で可哀想な亡くなり方をした。7歳の誕生日を迎える1日前に亡くなった。お母さんに頼まれて、おつかいに行っていた。」
「あの子が踏切で電車が通過するのを待っていた時だった。カンカンカンカンカン。ドンッ。誰かに、背中を押されて、あの子は、電車に轢かれて亡くなった。無残な死に方だった。」
「轢かれた時に、両足が切断された。両足は、見つからなかった。あの子のお母さんは、あの子が亡くなったショックで、気がおかしくなって、精神病院に入院した。職員が目を離した隙に、玄関から出て行ってしまい、車に、はねられ死んだ。」
私は、さっちゃんが、なぜ亡くなったのか知らなかった。あまりにも残酷な亡くなり方だったので、きっと、母は私に言わなかったのだ。
「住職さん、さっちゃんが誕生日にもらうはずだった靴のことを知っていますか❓」私は聞いた。
「あー、あの靴ね。あの親子が亡くなった後、親戚が、家の中に入って、テーブルに置いてあった包装紙に包まれた箱を見つけた。箱を開けるとリボンのついたかわいい赤い靴が出てきた。あの子の誕生日に渡そうと思って、お母さんが用意してたものだろう。」
さっちゃんが言ってた靴だ。私は住職に聞いた。「その靴は、今どこに❓さっちゃんがその靴を見たいって」
「その靴は、私が預かっています。」住職は、そういうと奥から箱を出してきた。
箱の蓋を開けると中からエナメルの赤い靴が出てきた。リボンのついた可愛い靴。
「さっちゃんのお墓は、どこですか?」私は、その靴を持って、さっちゃんのお墓に向かった。
さっちゃんと、さっちゃんのお母さんが眠るお墓。
私は、お墓に向かって言った。
「さっちゃん、見て。さっちゃんが見たがってた靴だよ。赤くて、リボンが付いてて、かわいい靴だよ」
すると小さな声が、かすかに聞こえたような気がした。「ありがとう」って。
それから、二度とさっちゃんから電話がかかってくることは、なかった。
その数日後、びっくりするニュースが飛び込んできた。初老の男が踏み切りで電車を待っている時に、誰かに背中を押されたのだとか。
その様子を見た女の人がテレビの画面に映っていて、声を震わせながらこう言っていた。
「私、見たんです。小さなおかっぱの女の子が、男の人の背中を押していました。しかも、その女の子、下半身がなかったんです。」
私は、心の中で、つぶやいた
「もしかして、さっちゃんが探してたものって、靴だけじゃなかったんだ。犯人のことも、探してたんだ。どっちも見つかってよかったね、さっちゃん」
さっちゃん ピーコ @maki0830
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます