第7話 鯱が跳ぶっ!
ラファンの
「これは私の大失態だ。ラファンの生き残りが合流する事など、少し頭を回せば予測出来たものを…」
「また敵兵の中にハイエルフがいる模様です」
「
カーヴァリアレは眼鏡を
「どうなさるおつもりで?」
「これ以上外に回せる兵はいない。雨雲も出ている。砦で相手をするのが得策なのです」
彼はそう言いつつも正直頭が痛い。ジェリドの軍勢が
ただそれでは此方に準備する時間を与えてしまうので、恐らく既にそこまで迫っている連中で、先ずは仕掛けて来るだろう。
既にその戦力だけで此方を
「耳長とダガー使い…か」
「パパ」
「お父様」
カーヴァリアレにはその二人にうってつけの
その駒達は既に話を聞いていたらしく、愛らしい笑顔を向けてきた。
確かに飛車角だ。なれど打ち込むのには余りにも彼に取って惜しい存在。
「私は此処を離れる訳にはいかない。行ってくれるか?」
「「はいっ!」」
(済まない……)
二人はそのままの笑顔で声を
恐らくもう二度とあの笑顔を見る事はないだろう。己の欲深さを引き止めたいが、修羅の道だ。
引き返す事は
ベランドナと10騎は馬の
敵は既に察知している。そんな事は此方も承知の上だ。
ベランドナは何故か唇だけを動かした。
「遂に此処まで。我々だけでやるのですか?」
「まさか…敵の本拠地ですよ」
「ですが……」
「
ファグナレンに構う事なく、ベランドナは人差し指の先をナイフで少しだけ切る。
その
(神聖術!? 精霊術じゃない?)
「チアマータ・レマーノ……このベランドナの血を辿り、今此処へ
術式が完成した様だ。地面の血が突然50m程の
◇
「おっ?」
「遂に呼び出しか…。身体が輝いている者はもう少し暴れ続けて貰うぞ」
「おおっ、何か知らんが望む処だっ!」
ようやく石塁での戦いを終えたばかりのジェリドやその周り、約30人程が光に包まれる。
近くにいた大男の足にリタは全身で跳び付いた。
さらにこの現象は、騎馬がなくて置いてきぼりを食らった連中にも同様に起きていた。
◇
(まもなく主力がやって来る……!?)
崖の上からベランドナの唇の動きを
「おぃっ! いよいよ始まるぜっ!
「そ、そう言われてもだな……」
ランチアは
「お兄さん」
「おぅ、なんだボウズ」
「僕を連れて崖を駆け降りるんだ。従ってくれたら保証するよ」
「いけるって……お前降りてからどうすんだ? 遊びじゃねえんだ。ガキを守ってる余裕はねえぞ」
ランチアは腰を下ろし少年の目線に合わせてやるが、
だが少年の目に迷いは皆無だ。
「取引だ。僕はまだ
あろう事か少年は自らの案内に交換条件すら提示した。
「アーッハッハッハッ!
「ビアットだっ!」
「よしビアット、俺と馬に乗れっ! その身体を俺に縛り付けて前に座れっ!」
ビアットは力強く頷くと最初からそのつもりで用意していたらしい。異様に手際が良い。
「ちょ、ちょっと団長っ! どうするつもりだいっ!?」
「言った通りィ! 次はお前だっ! 後は副団長の辿った通りに一騎ずつ降れッ!」
「ま、待てっ!」
プリドールの静止を振り切り、
「行っくぜぇぇぇぇッ!!」
荒ぶる馬のケツに
地面の凹凸が波の様に見えなくもないが、相手は固い岩盤なのだ。
「ばっ、
プリドールが絶壁を
こ、転ぶっ! かと思いきや、次の脚を出して辛うじて支えている。
「な、なんだアイツはっ!」
「へへっ、虎の子の新しいヤツ、頼むから当たってくれよぉぉ!」
砦で
だが腰の辺りから4本の
信じられない事にそれら全てが、4つの物見櫓にいた兵士に全て的中した。
「オラオラオラァァ!!」
ランチアはさらに同じ物を4本、今度は砦の外壁目掛け、寸分
「な、何事だっ!?」
「う、後ろの崖からの攻撃ですっ!」
「ば、馬鹿なっ!?」
騒ぎに気づいたカーヴァリアレ等が信じ難いと目を開いた。
―クソッ! あの野郎はいつもこうだ。大した技量もないくせに度胸だけで何とかしちまうんだ。
―過ちを恐れずに突き進むんだッ! アタシ等はそれにいつも引っ張られるだけだっ!
プリドールは団長の無鉄砲に立腹だ。然しその背中に無条件でついてゆく乙女の様な気持ちが同居している。
「ウラァァァァ!!」
2/3程降りきった所で、ランチアは得意のワイヤー付きの
するとどうだ、ランチアとビアットは、
「うっしゃあぁぁぁぁぁっ!!」
ランチアは左腕を天高く振り上げて勝ち誇った。
「ちょ、ちょっと待てぇぇ!?」
「さあ来いッ!!」
「いやっ、おかしいだろうがぁぁ!!」
「問題ねぇっ! やってみりゃ判るっ! お前達に出来て俺に出来ない道があるっ!」
(て、適当な事を言いやがってっ!)
「神様っ、ご武運を!」
最早それしか浮かばない。団長の馬が脚を置いた場所など覚えてはいない。
けれど同じ
「し、然し最後、ど、どうすればっ!?」
「いけよ赤い鯱。俺みたいな小手先じゃない、本物の
悩むプリドールを見ながらランチアは確信していた。笑みさえ浮かべる。
「はっ!」
次の箇所だけ、馬が脚を全て踏ん張れそうな平地があるではないか。これを見逃す様な事を彼女は決してしない。
「「いっけぇぇぇぇッ!!!」」
青と赤の掛け声が揃う。翼が生えた様に馬と赤い鯱が宙を舞う。目前にはランチアが
「
ランスを突き出して城壁目掛けて赤い鯱が突撃した。崩した箇所を寸分違わずに貫き、砦内部に特攻を見事に成功させた。
「ラオの赤い鯱、プリドール・ラオ・ロッソ。推して参るッ!!」
赤い鯱がその牙を突き立てる様に、ランスの先端をカーヴァリアレ・カルベロッソに向けて宣言した。
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