第26話 突然の誘い

「お願い……あたしマジで言ってる」


その目に嘘偽りはなかった。


だから、それに対して、冗談を返すのは

あまりにも失礼過ぎる。


「い、いいよ」


「……は!? マジ!?」


椅子をガタンと倒して急に

立ち上がるものだから、

俺も驚いてしまった。


「やった! マジ嬉しい! どうしよ!

推しと文化祭回れるとか……やば……

涙出てきた」


ほんとに泣いてる。


「ちょっとその顔止めてよ。

引いてる?」


「い、いや……正直、何でそこまで

驚いてるのか分からないというか」


「え? 

そりゃ推しと文化祭回れるんだよ!?

嬉しくないわけないじゃん!」


「なるほど」


ぶっちゃけると、星野さんより、

たぶん俺の方が喜んでる。

だって、星野さんと文化祭を

一緒に回れるのだから。

それと一緒なのだろうか。


「じゃあ約束だよ! 絶対回ろうね!

じゃないと、あたし今日のこと

許さないから」


「は、はい」


星野さんはご機嫌な様子で、


「早く来週にならないかな~」


と鼻歌を歌い始める。


「そういえば、オオカミン何してるの?」


「動画編集」


「動画編集? ああ、もしかして、

Vtuberのやつ?

最近、配信もしてなかったから

何してるのかなって思ったら」


そう言いながら、星野さんは

椅子を近づけてパソコンの

画面を覗き込んだ。


「……これって今日の動画じゃん。

な、何で? オオカミンって

撮影係じゃなかったっけ?」


「だよ。けど、編集係の

シオリさんだけじゃ間に合いそうに

なかったから手伝ってる」


「う、嘘……ごめん……あたしそんなこと

知らなかった」


「いや、別に星野さんが誤ることじゃ…

え!?」


隣に顔を向けると、星野さんが再び

泣いていた。


「な、ど、どうしたの!?」


「最悪……あたし……

オオカミンが頑張ってるのに……

そんなの知らずに……

この前友達と遊びに行ってた……」


「いやいやいや! 

だから、星野さんが責任を

感じることじゃないって!

星野さんも自分の仕事してくれたじゃん」


「でも……そんなのオオカミンの

仕事量に比べたら……

大したことないじゃん。

最近、オオカミンの顔疲れてたし……

絶対夜遅くまで動画編集してたんでしょ。

それなのに、

あたしは普通に配信もしちゃってたし……

あたしガチで最低……」


星野さんがここまで落ち込むの

初めて見たな。


それからしばらく宥めるも

自分を責め続けるばかりだった。


ヘラってるな……


あ、そうだ。


「じゃあ、星野さんも動画編集やる?

あと一本残ってるからさ」


「いいの!? あ、でもあたし……

動画編集できない……」


「この際だし、俺が教えるよ。

配信業やってくなら

絶対身に付けておいた方がいいし」


「う~やざじずぎ……ありがど……」


「あーでも今このノートパソコン

しかないな。

どうしようか。一回俺が家に帰ってデスコで

画面共有しながら教えようかな。

でも、初めての動画編集で、

画面共有しながらは難易度高いか……」


ちょんちょんと星野さんが俺の肩に触れる。


「ん?」


「家……来る?」


「……え?」


「う、家配信用のパソコンあるし、

それにあたし一人暮らしだから、

誰もいないし、緊張しないよ!

のんびりできると思う!」


いやいやいやそっちの方が

緊張するだろ!


「え、えっと……流石にそれは」


「嫌だよね」


そんな悲しそうな表情をされては

断りづらい。


「嫌ってわけじゃないけど……」


「オオカミンもこの前お姉さんたちと

オフコラボしてたじゃん」


「……してました。

でも、あれは仕事というか」


「これも仕事でしょ?」


……まあ、そうだな?

逆に俺は何を想像して

断ろうとしてるんだ?


俺だけだぞ。そんな起こりもしない事を

妄想しているのは。

なんか急に断るのが恥ずかしくなった。


「確かに。そうかも。

じゃあ、お邪魔しようかな」


────────────────────


「……お邪魔します」


そう思い立って、二人で星野さんの

自宅に向かったのだが、外の空気を吸って

冷静になった今、これって結構

やばいのではと焦っていた。


だって、いくら文化祭の

仕事のためとはいえ、

もう夕方の6時になりそうなのに、

クラスの女子と一つ屋根の下だなんて。

しかも、相手は星野さん。

緊張どころではない。

失神しそうだ。


「はーい! どうぞどうぞ!

上がって上がって!」


対して、彼女は楽し気に答える。


誰かが急に訪問したというのに、

全く焦っていない。

てっきり、ちょっと掃除するから待ってて!

と言われるかと思っていた。


あまり、よろしくはないことだが、

ちらっとキッチンに目を移す。


おお、めっちゃ綺麗。

こりゃちゃんと掃除してるんだな。


「星野さんって一人暮らしだよね?」


「そうだよ~あれ言ったっけ?」


「次郎って人が言ってた」


「あ、そうだった。

ちゃんと覚えててくれてたんだ」


「そりゃ大切なリスナーさんでしたから」


次郎が不意に俺の配信に現れたあの日から、

俺たちはお互いのことを多く話した。


年齢、趣味、好きな食べ物。


「……これって……」


そして、家庭のことも。


「それあたしのパパとママ」


その写真には、幼き星野さんの

両手を幸せそうに握る彼女の

両親が写っていた。


────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

面白いと思ってくれた方は、

是非とも【レビュー】【スター】【いいね】

の方をよろしくお願いします。


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