第7話 狼と猫

「は!? な、なにこれ!?」


配信の枠を立てた俺は

仰天した。

開始5分前にして同接1000人に

なっていたのだ。


昨日の切り抜きがバズったせいなのか!?

にしても、多すぎないか!?


『枠たった!』

『オオカミン見に来たよー!』

『切り抜きから』

『初見だお』


自分のコメント欄とは思えないほど、

多くのコメントが流れていく。


登録者も12570人になっていた。


やっぱ人気Vtuberの影響力って

凄いんだなと、改めて星野さんに

感服していると、配信開始の時間となった。


「こ、こんばんは!」


『お、きちゃ』

『きちゃねぇ』

『こんばんはー!』


自分の配信なのに途轍もなく緊張する。

これが認知されるということなのだ。

怖じ気付いちゃいけない。


落ち着いて自分の配信をしよう。


「えっと、たぶんここにいるほとんどの人

が初めてこの配信に来てくれたんだと

思うし、だからゲーム実況を始める前に、

ちょっとだけ挨拶するね」


俺は一つ咳払いを挟んだ。


「牧場ストーリーみたいなのんびり系の

ゲームを配信してるオオカミ系のVtuberの

オオカミンです。皆、今日は来てくれて

ありがと! 俺今までこんなたくさんの

人に見られたことないからマジで嬉しいわ」


『なんか涙声で草』

『感謝しろよ~』

『昨日の配信めっちゃ面白かったよ!

ファンになっちゃった笑』


暖かいコメントで溢れていく。


あ~諦めずに続けててよかった。


『てか、あの挨拶しないの?』


「あの挨拶?」


『ワンワンってやつ』


「だああああああああ!!!!!

知らない知らない知らない!

俺はそんなことやった覚えはないです~」


『ビックリした笑』

『すげぇテンパってて草』


「テンパってない!

それにちょっとここで弁解させて

ほしいんだけど、実はあれ、

俺が考えたんじゃないんだ。

あれ星宮さんが考えた挨拶で、

デスコ越しに銃口

突き付けられてたんだよね......

だから......お、俺......仕方なく......」


俺が何も用意していないはずがない。

しっかりと言い訳は考えていた。


『嘘つけ笑』

『饒舌だねwww』

『デスコ越しに銃口突きつけられてたは草』

『星宮にチクるぞ』


「え、ごめん。チクらないで。

今のは嘘だから」


Vtuberは配信を始める前に

自分のキャラを決める。

俺であれば狼。

星宮さんであればアイドルだ。


だが、そんなもの視聴者にとっては

どうでもよく、結局好かれるのは

その人の中身。

その人の生まれ持った性格だ。

そこから視聴者によって、そのVtuberの

キャラが決められていく。


俺はこの日からいじられキャラとなった。




ちなみに、その後星野さんに直ぐにバレて

トイッターであの黒歴史が晒されました。


────────────────────


石城茜にとって、Vtuberは違う自分になれる

手段だった。


現実では違うキャラを演じようとしても、

まるでもう一人の冷静な自分が

俯瞰してきて、それを許さない。


けど、この現実の自分とは全く違う

黒猫クロネになると、簡単に生まれ

変われることができてしまうのだ。


だが、


『こんー』

『黒猫ちゃんやほー』


石城の配信は過疎っていた。


チャンネル登録者 12680人


同接 111人


石城の登録者がこんなにも多いのは

彼女が企業Vtuberに所属しているからだ。


しかし、その企業の名は

アニマルファンタジー、

略してアニファンと呼ばれおり、

所属Vtuberは8人と少ない。


Vtuber事務所も様々だが、大手の

シャイニングと比べるとアニファンは

まだまだ発展途上である。

未だに石城がバイトをし続けている理由は

この企業ではあまり稼げていないからだ。


そんなアニファンに合格した石城は

最初は喜んだものの、登録者は

爆伸びしたが自分にファンが定着することは

あまりなく。

むしろ、この多い登録者数が

プレッシャーで石城の足枷になっていた。


特にアニファンで一番人気の

紺々キツナが配信中のときは

視聴者が全部あっちに持ってかれる。


「ねぇみんな聞いてにゃん!」


けれど、ここが違う自分になれる

場所であることは変わりない。


「今日ねとっても

嬉しいことがあったにゃん!」


『なになに?』

『どうしたの?』


「私ね、人間界で修行のためにアルバイトを

してるんだけど、そこのバイト先の後輩が

私の捨てられたカードを

拾ってくれたにゃん!」


石城は今日起きたことを心底嬉しそうに

話したのだった。


配信が終わり、いつもの冷徹な自分に帰る。


「全然伸びてない......」


自分の同接を少しでも増やそうと、

自作で切り抜き動画も投稿しているが、

全く伸びてない。


最初の頃は楽しかったのだが、巨大な

登録者数がプレッシャーである。


もう企業Vtuberを辞めて

個人Vtuberになろうか。

しかし、それではバイトをもっと

増やさないと食っていけない。


そんなことを考えながら、

ネットを眺めていたときだった。


「......無名Vtuberオオカミン。

一日で登録者1万人を突破する」


そんな記事を見つけた。


直ぐに彼の名前を検索する。


「あった!」


登録者は12000を突破していた。

所謂、彼は今が旬のVtuberだ。


このとき、石城は思った。


このまま人気が出ないのを

不安に思いながらVtuberを

続けていくより、いっそのこと

誰かとコラボしてみようかと。


もちろん、同じ事務所の

Vtuberだけではなくて。


自分と同じくらい。

いや、それ以上の相手と。


今の段階では自分は彼と

同じくらいの登録者。


この機会を逃せば彼はあっという間に

登録者を増やして雲の上の存在に

なってしまう。


石城は彼のトイッターのDM画面を開いた。


(いきなりコラボの誘いをして

引き受けて貰えるだろうか......

それもこんな実力のない私が......

それに......こんなやり方......汚なすぎる)


自分が人気者になるために、

誰かを利用する。

それが嫌で外部のコラボをしてこなかった。


(いや! だから今私はこんなに固定ファンが少ないのではないか!?

それに同期もみんな外部のVtuberと

コラボしている!

少しは私も汚なくなるべきなんだ!)


石城は意を決した。


『初めましてだにゃん♥️

突然のDM許して欲しいのにゃん。

私はアニマルファンタジーに

所属している黒猫クロネっていうにゃん!

率直に言うと、私、黒猫クロネは

あなたとコラボがしたいにゃん!

お返事待ってますなのにゃ~』


石城は真面目すぎて、裏でも、

特に外部の人と話すときは自分の

事務所の信用を損ねないように

キャラは守らないといけないと

思っていた。




────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

面白いと思ってくれた方は、

是非とも【レビュー】【スター】【いいね】

の方をよろしくお願いします。

























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