第4話 恥さらし

ああああああ!!

なんで俺はあんな約束をしてしまったんだぁぁあああ!!!


刻一刻とコラボの時間は近づいていた。


DMに通知が入る。


『おいっす! オオカミン!

あと三十分で始まるよ!

軽く配信の打ち合わせしたいから

デスコで話そ?

@1111hoshimiya

これあたしのIDね~』


吐きそう。


俺は星野さんとデスコを交換して

通話に入った。


「も、もしもし?」


「オオカミンだ!」


びっくりした。

音量が大きかったのもあるが、

ヘッドホンのせいで星野さんの声を

より身近に感じてしまった。


「音量調節問題ない?」


「あ、うん。大丈夫だよ」


ヘッドホンだとまるで

囁かれるみたいでムズムズしちゃう!


「もしかして緊張してるぅ?」


「そりゃするよ」


「もう心配しなくてもいいのに。

あたしのリスナーさん皆優しいから

大丈夫だって」


それは星野さんにだけであって、

絶対俺みたいな無名のVtuberには

優しくない。

特に俺は男だし。


「本当に大丈夫なのかな。

女性Vtuberが男性と絡むのって

ちょっとまずいんじゃないの?」


「あたしの事務所は男性Vtuberもいるし、

あたしもよく男性Vtuberとコラボもするから。心配しなくていいよ~。

もう直ぐ悲観的になるんだから。

楽しんでこ!」


「まぁ.......そうだよね」


「作った喋り方禁止~」


「......まぁそうだよな」


「正解! オオカミン検定、一級合格です!

おめでとう!」


「なんじゃそりゃ」


不思議だ。声は星野さんなのに、

次郎と話してる感じがする。

話していると彼女に対する

緊張感が遠退いていくようだ。


そうだよな。せっかくなんだし、

楽しまないと。


「そういえば、コラボ配信って

何するんだ?」


「実は何も決まってない!

雑談でもしようかなって思ってた」


おお......流石は90万人のVtuber......


これくらい人気の配信者は自分に魅力があるから人がたくさん来るんだろうなぁ。

なるべく世間の受けがいいゲームを選んで

リスナーを集めようとしてる俺とは大違いだ。

勉強させてもらおう。


そんなことを思いながら、

星野さんが既に立てた枠の様子を

確認しに行った。


おお......まだ配信前なのに同接3000人。


吐き気がするぜ!


えーっとタイトルは


『緊急コラボ配信!

ついに、星宮リナ!

推しとコラボします!』


大丈夫かよこのタイトル。


荒れてないかと不安になってチャット欄を覗いて見る。


『ついに星宮も結婚か。

おめでとう』

『長かった.......一生独身かと

パパ心配してた』

『星宮の推しとかめっちゃ

気になるんだが笑』

『結婚したのか......? 俺以外の奴と』


意外にもネタに走ったコメントや

暖かいコメントで溢れていた。


だが、


『は? 誰こいつ』

『なにこの無名』

『彼氏?』


いくつか冷たいコメントもあった。


それを見てしまうたびに不安に

なってしまう。


そんな不安の中、ついに配信は始まり、

凄まじい速度でチャットが流れ出した。


『おおお! きちゃああ!』

『こんリナ!!』


冷たいコメントが一瞬で流されて、

暖かいコメントで埋め尽くされていく。


「こんリナアアアア!!!」


星野さん、いや星宮さんが

初めの挨拶をする頃には同接が

8000人をこえていた。


「輝く惑星からやってきた

超人アイドル!

アイドル系Vtuberの星宮リナでーーす!

星リスのみんな!

お待たせ!」


どうやら星宮さんの

リスナーは星リスと呼ぶらしい。


「なんとなんと! 今日はね!

あたしが待ちに待ったあのVtuberと

コラボするの!」


『このオオカミンってVtuber?』

『前から言ってたよね。

推しのVtuberがいるって』


「そう!

あたしが昔から推してて、もう大好きな

Vtuberなの」


こんなに持ち上げられると

この後出ずらくなる。

けれど、こんなにも推してくれていることが

純粋に嬉しかった。

しかも、その相手が星野さんなのだから。

未だに信じられない。


「では、早速登場してもらいます!

あたしの推し! オオカミンです!」


あ! そうだ!

この流れで登場するって星宮さん

言ってた!

緊張しすぎて完全に忘れてしまっていた。


慌ててマイクのミュートを解除する。


「え、あ、ど、どうも! 初めまして!

オオカミ系Vtuberのオオカミンです!

いつもは『飛び込め! 魚介類の海』とか

『牧場ストーリー』みたいな

のんびり系のゲームを配信しています!

本日はよろしくお願い致します!」


「アハハハハ!!! めっちゃ敬語!

面接かよ! ......うける」


星野さんの笑いを我慢するような呼吸音が

聞こえてくる。


『驚くほど丁寧な人で草』

『就活生の方ですか?』

『うちのリナが笑ってしまって

申し訳ない』

『イケボだ!』


多種多様なコメントが流れていく。


あーよかった。

嫌われてはないっぽいな。


「わ、笑うなよ......そんなに変だった?」


「うん......だって......毎回そんな感じの

挨拶して初見さん逃してるじゃん......ちょ、めっちゃ腹痛い......爆笑」


笑いを堪えながら星野さんは言う。

次郎みたいでムカつくな。


『草』

『逃げちゃうんだw』


「てかさ、てかさ、あれやらないの?」


「あれ?」


「新しい挨拶!

前考えてたじゃん!

あれめっちゃ面白かったから

やってみてよ」


「......まさか!」


そう、あれは3ヶ月くらい前。

初見さんを逃して落ち込んでいた

俺は、どうしたら初見さんを

定着させられるかと、

配信中にやけくそと

深夜テンションの勢いで

新しい挨拶を考えた。


それを聞いていた次郎は

死ぬほど笑ってた。


それ採用しようよと馬鹿にしながら

言うものだから、俺はこの挨拶を

闇に葬ったのだ。


「そ、そんなことしてたかなぁ? 」


「え? 惚けるの?

あたしクリップでそのシーン

保存してるけど」


「は!?」


「いや~だってさぁ勿体ないじゃん。

せっかくオオカミンが頑張って考えたのに」


『おお? なんか面白そうなことに

なってきたなw』

『オオカミンやっちゃいなよ』

『オオカミン......ごめんね。

悪いけどみんな君の黒歴史が見たいんだ』


コメント欄が異常に盛り上がっていく。


「ならあたしがそのクリップ、

トイッターでトイートしちゃお~」


『待ってました!』

『さっすがリナ!』


「え!? ちょ、ちょっと待って!

マジで!?」


「まじまじ!」


トイートなんかに呟かれたら終わる!

あんな恥ずかしいものが

不特定多数に見られるなんて!


「今する気になった?」


「......なりました。

やらせてください」


俺は覚悟を決めた。


な、何。冷静に考えてみれば

そんなに恥ずかしい挨拶じゃなかったはずだ。

まぁ確かにちょっと自分のキャラとぶれてたが、笑ってたのは次郎だけだし。

案外受けがいいかもしれない!

めっちゃいい挨拶だねって

言ってくれるはず!


「......いくぞ」


俺は気がついてなかった。

同接が三万人になっていることを。


「......ワ、ワンワン!

え? 可愛い子犬だと思った?

残念! 正体は君を食べちゃう怖い

狼でした~

君はもう逃げられない~ぞ?

ガブ!

オオカミ系Vtuberのオオカミンです!

よろしくね!」


「アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!

もうヤバい.........ま、マジであたしギブ......

こんなのヤバすぎる.........お腹壊れそう......」


『ヤバwwwwwwwwwwwwwwww』

『これは伝説wwwwwwww』

『三万人の前でこれを披露できるのは

えぐいwwwwwwww』

『キモすぎて草』

『......俺は好きだよ笑

その変な挨拶』


あ、あれ?


『心臓に毛生えてるだろ笑』

『ガチ草』

『切り抜きよろ』

『最後のガブが鳥肌たったわ笑』


なんか思ってた反応と違う......


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