第2話 モデルの正体

「ど、どしたん? 凛」


「ビックリした......何かあったの?」


動揺している友達を余所に、

星野さんの視線は俺のスマホから

離れなかった。


はっとして、スマホの電源を落とす。


「......オオカミン」


星野さんが小さくそう呟いた。


み、見られてたあああああ!!??

や、やばいどうする!?

最悪だ。まさかよりによって

星野さんに見られるなんて。


いや、大丈夫だ。

星野さんならVtuberとか興味ないだろうし、

今の画面を見ても何なのか

分からないだろ。


「......な、何かあったの? 星野さん」


恐る恐るそう訊ねた。


すると、星野さんははっとした様子で

苦笑いを浮かべながら


「あ! いや! ちょっと思い出したことが

あってさ! ごめんごめん!

びっくりさせちゃったよね!」


うわーはずぅー!

と顔を赤らめながら星野さんは

自分のグループに戻っていった。


な、なんだったんだ?

まぁでも、Vtuberやってるって

バレてなさそうでよかったぁー!


────────────────────


下校時間になり、俺は下駄箱から靴を

取り出して、


「今日は牧場ストーリーワンダフル人生

でも配信しようかなぁ~」


そう意気揚々と口にしていた。


「やっぱり」


背後から声がした。


そんなはずはない。

さっきまで誰もいなかったし、

今はもう6時過ぎだぞ?


俺はゆっくりと振り返った。


「......健児君ってさ、オオカミンなの?」


そこには神妙な面持ちで星野さんが

立っていた。


「......え? な、なんで星野さんが

ここに......」


「健児君が一人になるの待ってたから」


いつも明るく元気な彼女からは

想像できないほどの低い声。


「お、俺が一人になるのをって......

ど、どうし」


「ねぇ、あたしの質問答えてよ」


ぐいっと星野さんは顔を近づけてきた。


「オオカミンなんでしょ?」


や、やっぱ見られてた......


「......ち、ちが」


「次嘘ついたらマジであたしキレるよ?」


こわっ!!

めっちゃ睨んで来るじゃん!

な、なんでこんなに問い詰めて来るんだ?

もしかして俺がVtuberやってるのを

皆に言いふらしていじめるつもりじゃ!?


い、いや冷静になれ。

この人はそんなタイプじゃない。

いつもクラスの中心にいて明るくて

皆の憧れの存在だ。


「......」


星野さんは俺に真っ直ぐな視線を

向け続けていた。


「だ、誰にも言わない?」


「ぜっっっったいに! 言わない!!!」


大丈夫。この人なら言ってもいいはずだ。


「......そ、そうだよ。

オオカミンって名前でVtuberやってる」


変だよね?

俺はそう自嘲しようとした。

馬鹿にされる前に自分で自分を馬鹿にする方が楽だから。


けれど、彼女は俺のことを馬鹿にする

どころか、さっきまでの真剣な面持ちを

一瞬で崩して満面の笑みを浮かべながら、


「うっっっっそ! やばっ!!!!

ほんとに!? うわっ! どうしよ!

嬉しすぎてあたし顔

ニヤけちゃうんだけど!」


口元を両手で隠して顔を真っ赤にさせながら

飛び跳ねた。


俺は呆気に取られていた。


「な、なんでそんなに喜んでるの?」


「え? だってそりゃ推しにリアルで

会えたんだからこうなるでしょ!

ちょっ! はずいからあんま見ないでよ!」


「......推し?」


理解ができていない俺に

星野さんは自分のスマホの画面を開いて、

差し出してきた。


見ろということなのだろうか。


俺は不審がりながらも彼女の

スマホの画面を覗き見た。


【次郎】


それは俺がいつも配信している

「あなたtube」の星野さんの

アカウント名のようだった。


アイコンは野球のバットの写真。


ん?


「どぅええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?」


俺は驚き過ぎて背中を下駄箱に強打した。


だが、全く痛みなど感じなかった。


「え!? は!? え!?

こ、これ!! え!? な、なんで!?

星野さんのアカウント名!?

え!? な、な、な......え!?」


自分で言うのもなんだが、

人間の言葉ではなかった。


「分かる! 驚くよね!

あたしもそうだったもん!

まさかオオカミンがこの学校にいて

しかも同級生で同じクラスとかありえなくね!? しかも隣だよ!? こんなことある!?」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!

いやいやいやいやおかしいでしょ!

これ本物!? 偽物とかじゃないの!?」


「アハハハハ! 次郎の偽物ってなに?

いるわけないじゃん。

つまりさ、いつもオオカミンの配信見に来てた次郎ってあたしなの!

唯一のオオカミンの登録者!

そして! 健児君があたしの唯一つの推しってわけ!」


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