第12話 さっさと言えよな!

〇5月13日(土)地球



「二人とも夢を見なくなったんだ……」


 週末の土曜日の夜、僕の部屋に竹下と海渡が集まった。いつものようにテラのことを話していたんだけど、二人はこれまで見ていたあちらの夢を見ることが無くなったらしい。


「ああ、だんだんとぼんやりとしてきて、ここ二、三日は普段と変わらない感じだな」


「僕も一緒です。あちらのことは残念ながら見えなくなりました」


 手を繋いで寝たあと、数日は見えていたようなんだけど……


「期限があるということかな?」


「たぶんな」


 期限内に何をしたらいいんだろう………


「そろそろ眠くなってきたけど、今日も手を繋いで寝るの?」


「もちろん。一応繋がりかけたから、可能性にかけてみたい」


「はい、きっと今度はうまくいきますよ」


 僕だけでテラを変えていくのには時間がかかりすぎる。二人が手伝ってくれたらほんと助かるんだよね。


「それじゃ、布団敷くから手伝って」


 テーブルを片付け三つ布団を並べる。

 僕を中心に二人と手を繋ぎ、おやすみと言って竹下が電気を消す。

 先週と一緒なんだけど、何かが違うような気がしながら僕は眠りについていた。





〇(地球の暦では5月14日)テラ



 ちゅん、ちゅん……

 朝だ……木窓の隙間から朝日が漏れている。今日もいい天気みたい。

 うーんと、いつものように布団の上で一伸びする。

 昨日の夜は先週と同じように竹下と海渡と手を繋いで寝たけど、どうなったのかな。あ、そういえば、また合言葉を決め忘れていたよ。でもいらないか、地球のことをこちらで誰にも話していないから、知っているだけで二人のうちのどちらかの可能性が高いもんね。


「ふあぁー」


 おっと、コペルが起きちゃった。さてと、コペルの様子は……


「おはよう。今日もいい天気だよ」


「うん、カインはこの時期もそんなに暑くならないから、いいところ」


 普段と変わらないみたい。ということは竹下でも海渡でもないということかな。


「今日は工房の建設はお休みだけど、コペルはどうするの?」


 コペルがコペルのままなら普段通りにしないとおかしいよね。


「糸が溜まったから、冬服を織る」


 コペルはこちらで使われている膝置き式の織り機を指さした。

 この織り機は昔からこのあたりにあるもので、足の上に置いてフェイスタオルくらいの幅の生地を織ることができるものだ。複雑な柄は無理なんだけど、手で編むよりは早いからこのあたりのほとんどの家にはあるんじゃないかな。

 本当はテレビとかで出てくるような機織はたおを作りたいんだけど、構造を覚えきれなくて断念している。これを作れたら幅が広い生地だって、複雑な柄だって織れるはずなんだよね。現物は竹下のお店にあるんだけどなぁ。


「誰の分?」


「テムス」


「テムス?」


 これはもしや……


「冬までにそんなに成長しそうにない」


 なんだ、テムスのことが気になっているのかなって思ったらそういう理由か。確かに私もコペルもユーリルも成長期だから、急に大きくなったりするかもしれないもんね。


「ソルは?」


「うーん、薬草畑に行こうと思っているけど、どうしよう……少し考えるよ。それじゃ、朝の準備に行こうか」







「ソル! ソル!」


 井戸でコペルと顔を洗っていたら、中庭に続く通路からユーリルが現れた。


「おはよう……テムスは?」


 いつもはテムスと一緒なのに、今日はどうしたんだろう。


「あ、急いでて置いてきた」


 まあ、テムスも大きくなってきているから、一人でも大丈夫か。


「そんなに慌ててどうしたの?」


「ソルに話があるんだけど……」


 ユーリルはコペルをちらちらと見ている。コペルに聞かせたくない話なのかな。


「二人っきりはダメ。ここで話す」


 そうそう、カインでは厳しいんだ。


「で、でも……」


「あー、ユーリル兄ここにいた。置いて行くなんてひどいよ!」


「あ、ごめん」


 テムスも来ちゃったし、朝ごはんの用意も手伝わないといけないし、二人だけで移動するのはちょっと難しそうだな。それにしても、ユーリルの取り乱しよう……ん? まさか、ユーリルが竹下と海渡のどちらかとか……いやいや、違うよね。……でも、ありえなくはないのかな。もしそうなら、どっちだろう……海渡っぽくないから竹下か。うん、そう思ったら竹下のような気がしてきたぞ。確認するなら……やっぱりあそこか。


「ユーリル、テムス、今日は工房を休みにしたでしょう。私は朝から薬草畑に行きたいんだけど、付き合ってもらえるかな」


 顔を洗うために井戸から水をくみ上げている二人に話しかける。

 あそこなら作業中にこっそりと話す機会もあるはずだ。


「僕は行けるよ」


「じ、じゃあ俺も」


 白黒つけないと気になって仕方がない。







 朝食をすませた後、早速三人で薬草畑に向かうことに……


「いくよ、兄ちゃんたち大丈夫?」


「いいぜ」

「はーい」


 ここのところ三人で馬に乗る時には、テムスに手綱を預けることにしている。ユーリルがテムスを見守ってくれていて万一の時も安心なので、私はただのんびりと座っているだけなんだ。

 というわけで、今日は竹下かもしれないユーリルを後ろからじっくりと眺めているんだけど……初めて会った時よりも体つきがしっかりしてきてない? どれどれ……うん、やっぱりそうだ。レンガ造りや水運びを頑張ってくれているからか、腕周りや太ももなんかも大きくなっているみたい。成長期だから筋肉もつきやすいのかな。ごはんもたくさん食べているしね。


「ねえ、ソル。まだ筋肉痛が残っているからさ、腕を揉まれたら痛いんだって」


「あ、ごめん」


 思わず触っていたよ。……やっぱり様子が違うな。昨日までのユーリルならたぶん照れていたはずだ。だけど、今日はそんな素振りさえ見せない。


 私はユーリルの背中に頭を付ける。


「どうしたの?」


「何でもない……竹下」


「え、あ……うん。樹」


 やっぱりユーリルは竹下だった。よーし、なら


「さっさと言えよな!」


 ユーリルの背中を頭でどつく。


て! だって、ソルの話し方がもっと男っぽいのかと思ってたら、まんま女の子だったじゃん。だからちゃんと確認しないといけないと思ったんだよ」


「そ、それは……」


 テラでは女の子のように話しているなんて言えないよ。恥ずかしいじゃん。


「後ろ、五月蠅うるさい!」


 テムスに怒られてしまった。でも、今日は許してほしいな。すごく……いや、ものすごーく嬉しいんだもん!

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