111話 蜜月の関係
腹ごしらえも済ませたし、いよいよ【天空庭園ドラゴンズフルーレ】に出発だ。
ドラゴン牧場での放課後メシを堪能した俺と
もちろん、俺たちを空の旅へと誘うのは龍の血が流れているセイだ。
「クルゥゥゥオオオオン!」
俺と
セイは他の幼竜と比べて首が長く、身体の線も細い。
一見すると竜の下位種、
その証拠にセイの体皮は、
どれも透き通った青色で、もっと成長した際は一枚か二枚はもらってみたい。
そして龍最大の特徴は、翼で浮力を得ているわけではない点だ。
セイは他の竜と同じく翼をはためかせて風を生み、そして龍本来が持つ星の力……つまり重力を操って飛行している。
そのため、幼竜の中では群を抜いて飛行能力が高い。
「わああ……竜の背中に乗って空を飛ぶって聞いた時は不安だったけど、こんなに静かなんだ……」
「セイは、龍の特性を受け継いでるっぽいからな」
その貴重さを噛みしめているのか、
そんな空の旅も1時間を過ぎれば、すっかり上空は夜闇に
「ねえ、ナナ……もしかしてあれが……」
「そうだな。セイも【天空庭園ドラゴンズフルーレ】だって言ってる」
「すごい、大きい……まるで空に浮かぶ道、
「巨大な龍が何匹も重なって、中央は空中回廊みたいになってるな」
天空に浮かぶは龍の道。
【
遠目からでも龍の上には木々や植物が生い茂り、文明の灯もチラホラと輝いている。
龍の上に居を構えるのはもちろん【
彼ら彼女らの鹿角は、長大すぎる【
どうやら【
そして龍に住まう者たちだからこそ、龍の上に咲く生態系を守護する種族らしい。
「ねえ、ちょっと壮大すぎない……? 今からおれたちって、ほんとにあそこに行くんだよね?」
「ああ。ゲーム時代もワクワクしたけど、今はそれ以上だろ?」
「うん……ナナと来れてよかった」
空中に浮かぶ動く山脈を目の当たりにして、
それは俺も同じで、【
俺たちはセイと共に、村明かりが見える近場にうまく着地する。
【
いわばツリーハウスってやつだ。
【
「何者だ?」
「地球の、冒険者か?」
セイから降りると、まるでタイミングを
どうやら、しっかりとした監視網が張り巡らされているようだ。
「はい。冒険者証もこの通りございます」
俺と
「龍神様の眷属に乗ってきたから、どんな凄腕かと思えば……最低ランクの冒険者だと?」
「なぜ我らが【龍が咲く庭園】に?」
「観光みたいなものです。少しの間、滞在してもよろしいでしょうか?」
「っち……低レベル冒険者の物見遊山か……」
「面倒な……まあいい、龍神様の眷属に免じて許可しよう」
とても歓迎的なムードではないけれど、エルフたちは村への立ち入りを許可してくれるようだった。
一人はやけに急ぎ足で、俺たちを置き去りにして村へと先行した。そしてもう一人は、やけにゆっくりした足取りで村まで案内してくれる。
「なんだかおれたちをすごく警戒してない?」
「でもまあセイのおかげで入れたから万々歳かな?」
そのままエルフに案内されたのは冒険者用の宿屋だった。
ちなみにセイは、宿屋の裏にある龍舎へと丁重に案内されていった。さすがは龍を信奉するだけあって、セイが不機嫌になるような素振りを一切見せなかった。
「いいか。くれぐれも夜間は出歩くなよ。あと……」
案内してくれたエルフは説明を途中で区切ってしまう。
その原因は、彼の横に耳打ちをした別のエルフの存在だ。
「ごにょごにょごにょ……」
「っち。やはり面倒だな……だが、龍神様の眷属のお連れだ……くそっ」
「ごにょごにょ……」
「それしか、ないか……」
ひどく深刻そうな表情を浮かべるエルフ二人。
「冒険者よ。本来であれば君らの身体を縛り上げてでも、君らの行動を制限するのが我ら【
「それはまた穏やかではないですね」
「冒険者ならば知っているだろう? 我々【
「ですが【天空庭園ドラゴンズフルーレ】を黄金領域として復活できたのもまた、外部の……地球の冒険者の協力あってですよね?」
「ああ。だから急な来訪者である君たちにも、こちらは寛容な対応をしている。言いたいことはわかるな?」
夜間は外に出るなと。
無闇に俺たちにこの村を散策されたら困る何かがあるのだろう。
「ひとまずはご寛大な処置に感謝いたします。今夜は大人しく、この宿で旅の疲れを癒すとします」
「理解したなら何よりだ」
こうしてエルフたちが去った後は、宿屋のエルフに今晩の宿泊部屋を用意してもらう。もちろん、俺も
「【
「んん……それ以外にも何かありそうだけどな」
俺と彩は【
それから2階の宿泊部屋に引きこもるのではなく、せっかくだからと【
「はい、おまたせしました。『
ちょっと具合の悪そうな金髪のエルフが持ってきたのは、どれも山の幸を調理したものだった。
肉類は一切なく、とてもヘルシーなラインナップとなっている。
「さすがはエルフか……山菜一つにしてもこだわった味付けをしている」
「んー……ちょっとおれは物足りないかも」
『月見草と星キノコ炒め』は、せんべいみたいな食感の丸い葉っぱと、星型のキノコを炒めたものだ。
口に入れた瞬間から不思議な香りが鼻を突き抜け、味は醤油ベースに近くほんの少しだけ甘かった。
『夜の実の
漆黒の実というのはあまり食欲が沸きづらい。見た目の不利をカバーするために、葉包みといった調理法になったのだろうか?
そんな風に【
「はぁぁぁぁ……もう勘弁してくれえええ……気が狂いそうだああ」
これまたのっぴきならない台詞を吐きながらテーブルに突っ伏したのは、緑髪の男性エルフだった。
「わかる。昼だけって盟約だったのに、夜もとか……いつまで続ければいいのよ、こんな地獄をさあ……」
そして相棒と思しき緑髪の女性エルフが、これまた死んだ表情で大きなため息を吐き出した。
そんな悲壮感が漂うエルフ二人に、これまた物凄くつやつやな笑顔を浮かべる熊耳少女が二人付き添っている。
「もっといじめるくま! 練習するくま! 盟友のためにそれぐらいお安いくまね?」
「約束したくま! ムチ打つ加減が弱すぎるくまっ! うちらはもっと痛い方がきもちっ……痛い方が
なんとそこには、
というか妙な発言をしてないか?
「ほら! 今すぐ『
「あっ、ずるい! だったらうちはフォークでうちの手を突き刺すくま!」
「「いじめるくまくま!」」
「ふああああああああああああ! もう嫌だあああああ! どうして私たち【
男性エルフの方は発狂したかのように奇声を上げて、宿屋を飛び出していってしまう。
片や女性エルフの方は虚ろな目でぶつぶつ呟いている。
「もう無理……罪悪感で押し潰れそう……」
俺と
そして呆然と彼女らを見守っていると、唐突に宿屋のドアが激しく開かれる。
「おい! 新顔の冒険者がこの村に一泊するらしいぞ!」
息も切れ切れに入ってきたのは、また別のエルフだった。
そんな彼もこれまた悲壮感ただよう顔で、搾りだすように女性エルフに告げる。
「
「もうこんな
「仕方ないだろ……これも全て我らが盟友、【
「「そうだくま! いじめるくま!」」
え、【
そんな俺の思考を、見事に
「……やらせ?」
そしてようやく
よほどエルフたちは心労を抱え、余裕がなくなっていたのだろう。
なにせ、先ほどから背後で宿屋のエルフが口をパクパクしながら困った顔を浮かべているのにも気づけていないのだ。
「やらせ?」
「あっ……えー……え?」
そして再び
「えっと、あなたがたは?」
「おれたちは今夜ここにきたばかりの冒険者だ」
するとエルフたちは全てを悟ったのか白目をむいた。
それでも近くにいた【
「これ以上、冒険者にやらせだってバレるのはまずい……!」
「ここは穏便にどうか————」
そう言ってエルフたちは、まさかの金貨を握らせてきた。
「た、頼む。我々【
要はむちゃくちゃ仲良しだってことを秘密にしたいらしい。
一体どういうことだ?
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