108話 お互いに成長しました
クラスメイトたちが俺と
それから『何があったのか報告なさい』と、
すると紅にしては珍しく、『私たちしばらく様子見でいくわ。上手くやりなさい』と簡潔な返事がきた。
てっきり紅のことだから、『新しい黄金領域の配信をするわよ!』とか『奴隷問題を解決して好感度アップよ!』なんて休みを返上してくるかと思った。
そんな疑問をぶつけてみると、至極簡単なリスクマネジメントのお話になった。
とのことだった。
改めてうちの社長は度量が広いと痛感しつつも、【にじらいぶ】の迷惑にならないように立ち回ろうと思う。
そんなわけで放課後になって、
すると彩は数人の男女に囲まれながら、借りてきた猫のように自分の机に座っていた。
「最初、
「体調不良で学校に来れてなかった分、俺らが勉強の課題とかサポートするから」
「あっ、よかったら俺のノート貸すよ?」
「お前より俺の方が成績いいし、ノートも綺麗だし、何なら参考書だって貸すぜ」
なんだか人気者になっていた。
まあそうか。
見た目はいいもんな、あいつ。
なんて思いながらしばらく様子を見ていると、
自分から何かを喋る気配はないけれど、当たり障りのない対応に少なからず俺はビビった。
それから
その表情は少しばかり困っているような色に染まっていた。
「お、遅い……」
「はいはい、わるか————」
俺が全てを言い切る前に、
◇
「はあー……久しぶりの学校、ほんっと疲れたー……」
人気のいない外階段までくると、
ぬるい風が少しばかりの涼を運んでくれるので、俺は傍の段差に腰を落ち着けてリラックスする。
「刺激に満ち溢れてたろ?」
「引きこもりには刺激が強すぎて死にそうでしたー」
「そこは悪かったって。でも保健室に行ったり、途中で帰ったりしなかったんだな」
えらいな、と褒めてみると
うーん、お互い久しぶりだからちょっと会話に詰まりやすい?
「ま、まあ、がんばった甲斐はあった!」
ちょっと気まずい空気を壊すように、ニヘっと笑う
それは教室で見せていた作られた笑い方ではなくて、本音からの緩い笑顔だった。
「そういや、クラスの連中とはうまくやれてるんだな」
「そ、そこも、おれの努力ってやつ。笑顔と肯定、二大コミュニケーションの予習はバッチリしておいた」
「ニコニコして頷くか」
「そう」
「……」
「……」
幼馴染とのコミュニケーション予習はしてなかったんかーい! とかツッコめる立場ではないので、さてどうしよう。
あっ、気になってたところを突っ込むべきか。
「その熊耳はどうしたんだ?」
「ナナさあ……普通はこっちから聞くんじゃないの?」
そう言って
「ああ、悪い。で、その左腕はどうしたんだ?」
「ははっ……だんだん思い出してきた。あんたがナナシって呼ばれてた理由」
過去のあだ名をいじりつつ、『そういうナナも嫌いじゃなかったけど……』なんてサラッと嬉しいことを言ってくれる幼馴染。
「
「おおう……あんま無理するなよ」
「うん。だから何週間も前からずっとナナに連絡してた」
「あー……なるほどな……それはごめん」
「いい。おれだってやっちゃいけないことをした自覚はあるから、ごめん」
「おう」
おそらく
彼女だって【転生オンライン:パンドラ】のプレイヤーだったから、ステータスには目覚めていたわけで、無茶な話ではない。
それが最新の【黄金領域】を目指す、なんて高い目標でなければの話だが。
「全治何カ月なんだ?」
「二カ月だってさ。骨までボロボロに砕かれちゃって……ポーション類じゃすぐに回復しないとかで、じっくり再生させる治療を受けてるところ」
こんな腕じゃ、一人で
だから俺を頼ったってわけだ。
「それで、その頭にくっつけた熊耳はなんだ? まさか【
「そんなわけないって。これはほら……【異世界アップデート】が来て、しばらくして生えたんだ」
「あー……意味不明だな?」
「でしょ」
「まあ俺のステータスや
そんな風に軽く片付けようとした俺だけど、
「まあ、この耳が学校に行けなくなったきっかけでもあるかな」
「……」
俺と
でもだからといって、不躾に彼女の繊細な部分に触れていいわけでもない。
俺が黙っていると、彩はなぜか嬉しそうにニヘっと笑う。
「なんだ。ナナも成長したんだ?」
「
「えー? 例えばこことか?」
彩はそう言ってブレザー越しでもわかるほどに盛り上がった豊満なバストを、自身の右手でもみしだき始めた。
「おーおー立派に成長したなー、頭に行くはずの栄養は全部そっちに奪われたかー」
「い、偉大なグレイトのGに成長したおれを崇めろ! そしておれを悪く言うナナは……ゴミのGだ!」
推しの胸ならそれはもう大興奮案件だったけど、彩のはなんていうかうーん。
例えば妹とかの胸を凝視するような気まずさみたいなのがあって、ほとんど見ずにサラッと受け流す。
「ゴミのGか。つい最近までゴキブリ呼ばわりされてたから余裕だな」
「ゴキブリ!? ナナってメンタル強すぎない? じゃ、じゃあ、強がりなナナを、ゴッドなGカップで癒してやらなくもないぞ?」
「
「ナナもおれをエロい目で見ないっていうか、変な勘違いしないところは変わってないな」
お互いがお互いを昔のように笑い合う。
でも昔と違ったのは、
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