94話 影の友


 顔見知りとの挨拶を終えると他の面々も席を立ち、俺たちに挨拶をしてくれた。


「わいらは【影の友】や。主に索敵や隠密が得意やな」

「僕らは【果てなき財宝】。トラップの解除とか、魔法鍵とかの開錠が好きだよ」

「我々は【豪傑ごうけつ】。強者と戦いたい。それだけだ」


 全員が全員、上位パーティーなだけあって覇気に満ち満ちている。

 初顔合わせだけれど頼もしい。

 しかも今回のレイドクエストにおいての役割も、はっきりしていてわかりやすい。


「うぉっほん。わしらは【夕闇鉄鎖てっさ団】。知っての通り、防御に徹すればわしらを貫ける者などおらぬ」


【夕闇鉄鎖てっさ団】に続き、皇城すめらぎさんと鈴木さんも自分たちの役割を口にする。


「私は……遊撃ね」

「どうもどうもー私も遊撃ですねー」


「にじらいぶのナナシとウタ様でございます。担当は支援バフおよび遊撃です」

「…………」


 ウタは俺にならってぺこりとお辞儀をする。


 さて挨拶も一通り終えたことだし、まずは指摘するべき事実がある。



「これからレイドクエストを共にするわけですし、信頼関係を構築するのは重要かと存じます。そちらもふまえてまず一点、確認させていただきたいことがございます」


「なんじゃ?」


「先ほど一般の学生さんが、この地で極秘のレイドクエストが行われると知っておりました。ウタ様のファンのようでした。情報漏洩に心当たりのある方はいらっしゃいますか?」


「あーすまんねんな。わいの従弟いとこに話してもうたわ。高校生の男ん子やろ?」


 あっさりと挙手してくれたのは【影の友】のリーダーだ。

 というか悪びれもせず、謝罪の口調も非常に軽い印象を受ける。


「どうもどうも、それは困りますねーお口がゆるすぎるのは問題ですよー」


 鈴木さんが嗜めるも、【影の友】は飄々ひょうひょうとしている。


「いや、ほんとにすまんて。ほな、わいらは責任取ってこのレイドクエストは辞退した方がええんか?」


 索敵や隠密を得意とする上位パーティーが抜けるとなると、非常に厳しい斥候になってしまう。何せ【鈴木さんちのダンジョン】では通信器具は一切使えないし、『転移水晶』も使用不可の領域だ。

 索敵役がいるといないとでは安全度が違う。


 これには周囲の空気も多少悪くなる。

【影の友】は自分たちを抜かすのは痛手とわかっているからこそ、空謝からあやまりなのだろう。そんな態度を取られれば、多少なりともこれから命を預けるメンバーとして信頼に欠ける。

 かといって抜けてもらっては困る、というのが現状なのだろう。


 なので俺は一つ提案してみる。


「あの、索敵も隠密も一応、私もできます」


「おー、ナナシのあんちゃんは面白いこというやん」

「ド素人が何いうてんねん」

「わいらが抜けた出た損失は、ナナシのせいになるで?」

「誰か死んでも知らんで?」


「あ、いえ……もちろん私個人としては、【影の友】の皆様にはレイドクエストは参加していただきたく存じます」


「なら何が言いたいねん?」


「他の方々からしたら、簡単に極秘クエストを漏らしてしまうような人に索敵を全面的に任せるのは、心情的に厳しいのかなと存じまして」


「うぉっほん。確かにわしらは【影の友】に多少なりとも不信感を抱いたのう」


【夕闇鉄鎖団】も加勢してくれる。

 というかこの場のみんなの気持ちを代弁してくれているようだ。


「ああん? やからって素人に索敵を任せるん?」

「まさか自分らと一緒に隠密先行するつもりかいな。わいらの邪魔でしかあらへんで」

「わらける話やんけ」

「ほな、わいも今日からバッファーやりますわあ」


 ケラケラと笑う【影の友】に対し、俺は彼らの勘違いを訂正する。


「あっ、いえ。貴方がたと隠密先行するのは……索敵と隠密のプロフェッショナルである【影の友】でも、お気づきにならない子たちです」


「何言っとんねん、われ。どこにそんなんがおるん?」

「あんま調子にのっとるといてこますぞ?」

「いつもウタちゃんのそばにおるからって……」

「なんが【にじらいぶ】の裏方や。どうせなら姉貴のナナシちゃんがよかったわ。ナナシくんはお呼びじゃないねんな」


 あっ、なるほど。

【影の友】は【にじらいぶ】のファンなのかもしれない。

 最初からアタリが強いなーと思っていたけど、その原因が納得できた。

 そうだよなあ……推しの傍にいる男とか、やっぱり気に食わないよなあ……。


 つ、つらい。

 ファンである以上、俺だって彼らの気持ちを尊重したいし、彼らを大事にしたい。でも命のかかった仕事だから、そこはどうにか切り替えてゆく。



「きゅー、フェンさん。出てきていいよ」


 俺が合図を送れば、【影の友】たちの背後から————

 というか彼らの影の中からぬっと巨大な獣たちが姿を現す。

 事前にきゅーの魔法で、フェンさんときゅー自身をすごい小さいサイズに変化させ、加えて【影の友】の影に潜んでもらっていたのだ。


 リビングいっぱいに広がるふさふさ、そして鋭い牙が彼らの顔の前にずいっと出現する。いずれも【影の友】を完全に包囲し、かつ少しでも動けば噛み砕ける牙の間合いだ。


『フシャァァァァアア………』

『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……』


 きゅーもフェンさんも室内だからフルサイズの三分の一にすら満たない。それでも人間一人は簡単に丸呑みできる迫力だ。

 これには【影の友】もたまらなかったのか、今度こそ軽口を叩ける状況ではないと悟る。

 中には顔面蒼白になり、今にも倒れてしまいそうな人もいた。

 さすがにやりすぎてしまっただろうか?



「みなさん、どうですかね? この子たちが私にとっての、影の友・・・ってやつです」


 なんとなく場が凍り付きすぎたので、俺なりのジョークみたいな事実をかましてゆく。


「ふぉっふぉっふぉっ……これは一本取られたわい。随分に信用できる影の友じゃな。どれ、これなら【影の友】の索敵も信頼に値するじゃろうて」


【夕闇鉄鎖てっさ団】の笑い声と共に、今回のレイドクエストの方針はどうにかまとまった。

 しかし、このまま高圧的に終わってしまうのも問題だ。


 過度に委縮されてしまったり、角が立ってしまったら今後のお付き合いも含めてマズイだろう。

 仮にも相手は偵察能力に長けた上位パーティーだし。

 これを機に【にじらいぶ】含め、俺の覚えをよくしたいので……すかさず貢物みつぎものだ!


「これから一緒に危険を共にする仲間ですから、こちらは私と【にじらいぶ】からの少しばかりの心づくしでございます」


 幸いにもテーブルには鈴木さんが出してくださった緑茶がある。

 俺がお茶請けとして選んだ食材は————



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