87話 究極のごちそう猫まんま


 白いご飯に何かを乗せて食べる文化は、戦国時代からすでに存在していた。

 どんなに簡素な調理法であっても、そこには侮れない美味しさがある。同時にバリエーションの宝庫でもあった。

 なぜならあらゆる余り物をご飯にぶっかけるからだ。いやいや、旨い汁をぶっかける『汁かけごはん』も捨てがたい。


 この二つの特性を受け継いだのが、いわゆる『ねこまんま』と呼ばれるものだった。

 そして【手首きるる】の配信にも、このような『ねこまんま』を調理する強者がいた。


:ナナシちゃんは一体何を作っているんだ?

:あつあつのごはんの上に、かつお節と醤油……?

:ほわほわとかつお節が踊っているな

:いや、他にも何かの肉を……?

:ネギ、ネギも乗せ始めたぞ!?

:何かの熱い汁もかけてる……?

:おい、あれって確実に何かの肉汁じゃないか? 豚汁とか

:雑多な見た目だが……かなり美味しそうだぞ……

:野菜もお肉もたっぷり盛ってる……

:栄養満点、食物繊維もしっかりとれるな

:待て待て。なぜ粉チーズみたいなものをふるんだ!?

:くっそ、これ絶対うまいやつだぞ!

:ちっきしょおおおおとろけていやがるううううう

:これはもしや……

:かつおだし香るねこまんま!?


『【パンドラ香るねこまんま】でございます。使った食材はあり合わせですが、手早く口に運べる料理がよいかと存じましたので』


『このご飯は何を使ったものにゃのかしら?』


『はい。白飯に【ミノタウロスキングの小間切れ】を乗せて【ハイオークの肉汁】をかけたものでございます。さらに【宝石魚節じゅえりーぶし】と【植物お化けネギ・ヘッドのみじん切り】をたっぷりと乗せ、最後に少々のお醤油と【雪羊のチーズ】でございます』


『……あ、ありがとう。いただくわ』


 ほかほかめしを目の前にしてもう我慢ならない。

 そう言った気持ちがきるるんの表情に出ていた。

 無論、配信を見ているリスナーたちもだ。


 いざ、きるるんがはしを手に、猫まんまを食べようと動き出し————

 その動作は途中で止まってしまった。


『にゃご~ん、にゃご~ん、にゃご~ん、にゃご~ん、にゃご~ん』


時守りの猫キャット・アラート】の17時のアラームにより、新たな猫たちが登場したからだ。

 しかし、きるるんは可愛い猫に目を奪われて動きが止まったわけではない。



『ぐるるるるううう、名無しが来てるって聞いたから急いで来てみたら、またまた美味しそうな物を作ってるがうね』


 突如としてナナシちゃんの画角に現れたのは白髪ボブの【猫耳の娘ミコリス】だった。長い後ろ髪を一本に縛っているのも特徴的で、非常に可愛らしい美貌を誇っている。特に愛嬌のある猫目がなんとも保護欲をそそられる。

 そして女子中学生ぐらいの相貌でありながら、身に着けている物が非常に立派だ。白黒を貴重にし、どこかシスター服を彷彿とさせる雰囲気を醸し出す。それでいながら、その口調は粗野そやであるためひどくギャップがあった。



『どなた、でしょうか?』


『くるるるるぅぅぅ……数日経っただけで友の顔を忘れたがうか?』


『その話し方は……まさか……白虎びゃっこさん、でしょうか?』


『いかにもがう』


 うるわしき【猫耳の娘ミコリス】とナナシちゃんの会話が続く中、きるるんだけは微動だにしていない。いや、できなかったのだ。


『白虎さんのそのお姿は初見でしたので、非礼をお詫びします』


『くるるるぅーだいじょぶがう。ちょっと名無しを驚かせたかったっていうのも本音がう。どうがう? 猫人ねこびと姿の白虎は』


『非常に気高いかと』


『そうがうそうがうよ』


『ところで白虎さま。17時の猫鳴きによって現れた【影遊びの猫キャット・シャドー

が、きるる様の影を踏まれているのですが……』


 どうやら影を踏まれると、身動きが取れなくなる特殊な猫もいるようだ。



『当然がう』


『なぜでしょうか?』


『白虎が食べたいご飯を食べようとしていたがう。人間も警察? という職業があると聞いたがう。【影遊びの猫キャット・シャドー】も闇が深まれば、治安維持のために誰かを拘束する時もあるがうね』


『なるほど……確かに闇が濃くなれば、怪しい輩が出るかもしれません。しかし、きるる様は違いますので、どうか解放してはいただけませんか?』


『ここは白虎の領域がうよ? 好きにして何が悪いがう?』


『……ご飯、抜きにしますよ?』


『ぐるるるるるうぅぅー……じゃあ、ごはん、くれるがうか?』


 白虎はすぐ近くで伸びをしていた【夕闇を吹く猫キャット・ダークネス】の首元を軽くかいている。すると、【夕闇を吹く猫キャット・ダークネス】は気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしながら、文字通り闇を吐き出し始めた。


 ナナシちゃんときるるんの周囲には、夕闇が一層深まってゆく。

 それは同時に【影遊びの猫キャット・シャドー】の有効領域が広がるといった意味合いを持つ。



『もちろんでございます。これから白虎さんの分もお作りいたします』


『だめがう。白虎が先がう』


 白虎はナナシちゃんにすりすりとし始め、途中から誰がどう見ても甘えた声を出している。リスナーたちはこの謎の美少女に困惑するも、猫耳の少女が甘えてくる画角はそこそこに需要があった。


『しょ、承知いたしました』



:きるるんに忠実なナナシちゃんが、まさかのぽっと出を優先!?

:なんか少しだけ緊張感がただよっていたような?

:そんなに気を使わないといけない相手なのか?


:おおう……美味しい美味しい猫まんまのお預けか

:きるるんがぷるぷる震えておられるwww

:【猫耳の娘ミコリス】にすら、いじられてしまうきるるんw

:まあ仲良くやれてるってことだよな?

:よかったなきるるん。猫たちと仲良くやれてさ


:それにしたって、ご飯のお預けくらってるのはww

:しつけられる立場だったんだなwwww

:きるるんをしつける……いいぞ!?

:猫耳きるるん……全力でしつけたい!


 リスナーたちは盛り上がっているものの、きるるんとナナシちゃんの間には多少の緊張が流れていた。不覚を取られたのも一因ではあるが、目の前の猫耳少女が強力な存在であるからだ。


『くるるるーやっぱり名無しの作るごはんは美味しいがうなー』


『白虎さんのお気に召して何よりです』


『な、ナナシちゃんとも私とも仲良くしてくださると嬉しいわ』


『名無しの主かーお前もなかなか見所あるがうなーいいがうよー』


 こうしてきるるんは夕焼けが滲む街角で、猫たちに囲まれながら美味しいご飯を堪能してゆく。そんな姿が複数の【猫耳の娘ミコリス】の眼にとまると、誰もが唖然として深く深く一礼をしたりしてくる。



:なあ、さっきから街の【猫耳の娘ミコリス】たちの対応がいかついよな

:めっちゃ服従のポーズをとってる子もいたぞ

:え、きるるんいつの間にか猫の街を支配下に治めちゃった?

:さっきの様子じゃありえにゃいだろwww

:え、じゃあナナシちゃん?

:それも違う気がする

:ってなると、もしかしてぽっと出の猫耳少女が……?


 そんなリスナーの予想は見事に的中することになる。

 食後の休憩として、ナナシがかいたあぐらの上にすっぽりと身体をまるめて収まった猫耳少女が寝転んでいると……如何いかにも立場のありそうなカッチリとした服装の【猫耳の娘ミコリス】が通りかがったのだ。

 そして彼女たちは仰天してしまう。



『え……びゃ、びゃ、白虎様……? 何をにゃされているので……?』


『くるるるー何って、友に甘えてるがう』


『あまっ!? にゃ、にゃんですとおおおおおおおおおおおおおっ!?』



:あーなんとなく把握だわ

:ナナシちゃんまたやってんなww

:この領域の神とよろしくやってたってわけだ

:そりゃ神が相手なら気を遣うわな

:いやいやいやさすがにこの状況は【にじらいぶ】でも前代未聞だろ

:人間の禁足地も神と顔パスだからーとかやばすぎw

:いつも通りさすななやな


 こうしてつぶやいったーのトレンドには


#きるるん猫耳しっぽ

#きるるんねこめし

#ナナシちゃん神を餌付えづ


 と上位3冠を達成してしまった。




——————————————————

異世界パンドラかおる猫まんま】★★★

様々な異世界パンドラ食材をぶっかけたダシ汁めし。

うまうまのうまで、一気に口へとかっこみたくなる美味さ。食後は急激に襲ってくる大満足な気分にひたってしまい、食べた者を一時的にダメにすることもしばしば。特に猫属性には効果抜群であり、その美味さには思わず喉をゴロゴロならす逸品である。


基本効果……30分の間、ステータス俊敏-1する。

★……30分の間、ステータス俊敏―1する。

★★……30分の間、ステータス俊敏―1する。

★★★……永久に全ステータス+1を得る。


【必要な調理力:300以上】

——————————————————



◇◇◇◇

あとがき


きるるんのイラストを近況ノートに載せました!

よかったら覗いてみてください。

高画質&ロゴ入り版は作者のTwitterにアップしております。

@hoshikuzuponpon

#もふテロ

◇◇◇◇

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る