61話 冒険者の巡礼地
「誠、誠、感謝でありんす」
「「「九尾様と、その御一同に深い感謝をいたしんす」」」
「きゅっ?」
【
尻尾の数を見ると五本が1人、四本が3人。
つまり五尾と四尾の妖狐である。
聞くところによれば彼女たちがこの地を取り仕切る者たちらしい。
「どうかどうか、【
【にじらいぶ】と紫音ウタの面々は、
彼女たちの説明によれば、ここの総人口は約500人弱だそうだ。
まずは外部からの人間が50人、冒険者も50人ほど。
一尾が300人で二尾が70人、そして三尾が30人と四尾が3人。
代表の五尾が1人で切り盛りをしているらしい。
「九尾様の旦那様。どうか遠慮なく遊んでくりゃしゃんせ?」
「わっちと火遊びしてくりゃれ?」
「いやいや、わっちと朝まで寝芸について語りんす?」
「旦那様にはずっとここにいてほしいでありんす」
そんな勧誘がチラホラと続き、きるるんやぎんにゅう、そらちーやヤミヤミは少しばかり
「ナナシ様は
おうっ?
なんか身体がポカポカするな……なんだ、この感覚は……。
これが魔法幼女特有の、いわゆる自動で声に魔法が乗るってやつか?
「はらはら、このような生娘にも慕われているなんて」
「誠、色男でありんすね」
「余計にお味を知ってみたくなったでござりんす」
「さすがは九尾様の旦那様でありんす」
クスクスと妖艶な笑みでかしましく俺たちを見つめる
うーん。
微妙に居心地が悪い。
とはいえ【極彩花殿ファーヴシア】観光はかなり楽しかった。
特に水晶芸などは目を惹くものがある。
水晶を炉で溶かし、そこから妖狐たちがガラス吹きのように『フゥー』っと空気を入れて形を整えてグラスにしてゆくのが非常に美しかった。
さらに紫魔法の風力か何かでグラスに繊細なカットを施してゆき、光を浴びれば奥ゆかしい煌めきを放つ江戸切子のような逸品に仕上がってゆくのだ。
「旦那様も体験してみてはいかがでありんすか?」
「旦那様たちには希少な『聖水晶』をお譲りするでありんす」
そんな提案を皮切りに、【にじらいぶ】や紫音ウタの水晶工芸体験が始まった。
俺は動画の素材にするチャンスだと思い、きるるんに記録魔法をかけてもらう。そして自分も水晶工芸に触れつつ、彼女たちを録画してゆく。
「水晶をこんな風に自由自在に切り刻めるなんて素敵ね」
きるるんは血のナイフで水晶を削り、精巧な血桜の
あと水晶を削る時は、恍惚かつ嗜虐的な笑みを浮かべているのは気のせいだろうか。
「なかなか難しいです……奥深い、です。音も、とても澄んでるです」
ぎんにゅうは水晶を吹いてゆく時点でなかなかうまい形にならず、結局は風鈴のようなものを完成させていた。なんだか無邪気にチリンチリンと風鈴を揺らす姿は愛らしいが、別のところもぶるんぶるん揺れておられる。
「へえ、けっこうすんなりと捻じ曲げれたり模様が作れるんだ」
そらちーは鉄腕で、熱した水晶を指でゴリゴリと形を整えてフラワーベースをいくつも作っている。見た目のアグレッシブさに反してとっても嬉しそうなので、おそらく後日可愛いもの配信で登場させる予定なのだろう。
「慎重に、慎重に、ゆーっくりといくばい。そこに
ヤミヤミは何だか黒い
彼女が編集や配信の合間にお茶を飲んでる姿を想像すると、クスリと微笑ましくなってしまう。
「————幸せの食卓♪ 王子様と囲みます♪ 愛する我が子は5人♪ きゃっ、私ったらはしたないですわ♪」
紫音ウタはこれまた不思議な感じで水晶を加工していた。
歌に乗る魔法? 五線譜や音符が具現化して水晶にぶち当たってゆき、一瞬でベコリと潰してゆくのだ。可愛らしい幼女が可愛らしい歌と共に、豪快すぎるクラフトを披露。
どうやら水晶でお皿を作っているようだ。
なにはともあれ、推したちが楽しそうに何かを作ってゆく姿は見ていてほっこりしてしまう。
「な、ナナシちゃん……記録魔法、切るわよ」
急にきるるんが言い辛そうに録画は終了だと言ってくる。
「ん、なぜ、でしょうか?」
「いいから切るの」
「承知いたしました」
それからきるるんはコホンとわざとらしく咳払いをして、何かを俺に手渡してきた。
「い、いつもお世話になっているから、これはその……ナナシにあげるわ」
きるるんが恥ずかしそうに渡してきたのは、先程きるるん自身が作った桜のペーパーウェイトだ。
え……やばい。
推しからの手作り一点ものをもらう世界線とか、俺はどんだけ幸せ者なんだ!?
「
次にぎんにゅうが風鈴をプレゼントしてくれる。
わかったよ。いつもおっぱいが先に脳裏をかすめるけど、これからはぎんにゅうの真心を真っ先に思い浮かべるようにするさ。
「しろくんもお花とか飾ってね? そしたら、あたしとおそろいー!」
そらちーはいくつか作ったフラワーベースの中で、特に大きいものをくれた。
おそろい、その響きに俺はすごく弱いぞおおぉおお!?
「しろ先輩はいつもお疲ればい、お茶飲んで元気だすっちゃ」
水晶の湯呑みは意外にも綺麗で、不思議な光の屈折で煌めいている。
くううううかわいい後輩に気遣われるとか最高かよおお。編集で死にそうな時はありがたく使わせてもらいます!
「先ほどは美味しいお料理をいただきましたので、
物凄い心遣いができる幼女に全俺が泣いた。
そうなんだよおおおお、料理を美しく盛れる食器とかほしかったんだよおおおお!
推したちの思い思いの手作り品は、俺にとって間違いなく家宝になる一品だ。
ああ、この録画シーンとかも俺の家宝として保存しておきたかったな。
「みんな……ありがとう!」
そんな幸せな気持ちにしてくれる彼女たちに感謝を込めて、俺も
「【
俺の想いが『聖水晶』に宿り、美しい五人の少女のレリーフが施されたゴブレットが完成する。どことなく【にじらいぶ】のメンバーを連想させるデザインなのは御愛嬌。
さて、どんな物ができたかな?
【五大女神の聖杯】
『【
「う、うわ……なんかとんでもない物ができた……?」
「か、感じるでありんす……それはまさしく聖杯でありんす」
「にわかに信じられないでありんす。このような奇跡にお目にかかれるなんて」
「旦那様は……いと尊き御方でござりんす」
「……この地に二つ目の聖杯が誕生したでありんす」
「どうかしたのかしら?」
「あ、いや……実は、今出来上がった物が、な……」
その効能をきるるんに説明すれば、彼女はにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「私に任せなさい。悪いようにはしないわ!」
そうしてなぜか
俺たちが見守る中、【
「承知したでありんす。では、【五大女神の聖杯】の使用料の70%を【にじらいぶ】にお納めするでありんす。さらにわちら
「それでいいわ。ナナシちゃんの取り分は50%でいいかしら? 収益の20%は事務所の回したいのだけれど」
「お、おう……俺は10%でもいいぐらいだけど」
「ありがとう。でも、これは貴方の功績よ。だから50%ぐらいもらってほしいわ」
きるるんの交渉術により、【にじらいぶ】は
「じゃあ、聖杯の使用料なのだけど、冒険者を対象とするなら価格設定は————広報に関しては————」
すっかり仕事モードのきるるんはキリリとしていてかっこいい。
それから聖杯の存在は【にじらいぶ】の宣伝動画もあって、冒険者たちの間でステータスが2もアップすると瞬く間に知れ渡ってゆく。同時に【
ついには『冒険者、一度は遊べ、推したちの、ケモ耳愛でよ、感謝せよ』といった短歌まで、冒険者界隈で浸透するほどになってしまう。
こうして【
遊郭でありながら聖地という謎のギャップがありすぎて話題になったのだ。
後日、俺は聖杯のロイヤリティを確認したら2億5000万円というとんでもない額が振り込まれていて仰天した。
◇
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【ぷりぷり竜肉アヒージョ】★★★
美味さ際立つ海の
竜肉と野菜の出汁がオリーブオイルでじっくりと煮立された絶品は、創作の神もお気に入り。
基本効果……
★……永久にステータス命値+2を得る
★★……永久にステータス敏捷+2を得る
★★★……永久に裏ステータスきようさ+20を得る
【必要な調理力:250以上】
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