59話 崩れかけの花街
『あっあっ……また
俺がとっさに首をふるふるしてしまうと、
『あぁ……だから王子様を避けておりました。本当はたくさんお話したく、お慕い申し上げております……あぁ、でもっ、なんてことを
あふれ出る
な、なるほど……おしゃべりしたいけど、本音が丸聞こえになってしまうジレンマで今まで避けていたと。
幼女姿であわあわしている先輩を見て、すごく可愛らしいけどすごく申し訳ない気持ちになってしまう。
そんな彼女を守るかのようにスッと俺たちを
どことなく紫鳳院先輩に似た顔立ちの少女が怪訝そうに、【にじらいぶ】の面々を眺める。
「あの、どちら様でしょうか?」
そんな問いに代表として答えたのは、もちろんきるるんだ。
「VTuber、YouTuber事務所の【にじらいぶ】よ。私は手首きるる。だけど、その正体は————」
そう言って突如、きるるんは変身を解除して
「
「あ、
「私たちは魔法少女だもの。魔法幼女の色だって少しは感じ取れるわ」
「あっ、あっ、さようですか!」
どうやら少女は
というか
それから
「それが……
『冒険者でもない
「どんな依頼内容なのかしら?」
「ただ、素晴らしい歌声の持主である姉様を……自分たちの里にご招待したいと……でも、姉様はもう……」
『声を失いましたが……その、【にじらいぶ】のライブを見て、私にも何かできることがあるならと……諦めたくなくて…………それに、声を奪われたのも
「なるほどね。だいたい私たちと同じような依頼ね」
「でも、じゃあ
「んんー……そこはかとなく怪しいよねえ」
「やっぱりこんボロボロん街並みも気になるよね」
きるるんを皮切りにぎんにゅうやそらちー、ヤミヤミの三人はそれぞれ
ちなみに俺の存在はこの服装から、執事か何かだと判断した
「少し老朽化? が進んでいるのも味のある風情よね」
「さびれた台湾? 京都? の街並みっぽいです。あっ、ここの裏道なんか異世界に繋がっていそうです!」
「でもさ、ここって黄金領域じゃないんだよね?」
「
噂をすればなんとやらだ。
俺たちが狭めの裏路地を歩いていると、直径1メートルはありそうな岩石が壁を伝ってコチコチと軽快な音を立てながら移動している。
「まるで鉱物の蜘蛛だな……」
どういう原理で壁を垂直移動してるのかは謎だが、そのモンスターは鈍い光沢を放つ岩に8本脚が生えた奇妙な生物だった。3匹ほどこちらへ近づいて来ており、青、黄、赤とそれぞれが異なる色をしている。
それらは唐突に毒々しい糸を吐いてきて、俺たちに襲いかかった。
「————【
しかしきるるんが瞬時に張り巡らせた血と
「————【演武:鉄の手刀】」
そんな身動きの取れないモンスターをあっさりと両断してゆくのがそらちーだ。後に残ったのは動かなくなった小岩たちだけだ。
俺はそれらを【審美眼】で見てみると、そのモンスターの正体が何なのかわかった。
「どうやらこれらのモンスターは【うごめく
「うっわ……あたし、手で触っちゃったよ!?」
俺の説明を受けて少しだけ嫌な顔をするそらちー。
そんな俺たちの騒動を耳にしたのか、数匹の
「旅のお客人方、無事でありんすか?」
「【聖杯祭り】が迫っているのに、魔物の侵入を許してしまい申し訳ないでありんす」
「【聖杯祭り】?」
「はい。ボスを倒してもなお、この地が【
「わっちらは定期的に聖杯へ『芸』を奉納し、その穢れを清めようとしてるでありんすよ」
「旅のお客人もわちらの『芸』を見て、どうすれば良いのか助言をくれるために来たのでありんしょう?」
「六華花魁の姉御たちに見初められた芸達者とお聞きしておりんす」
「どうか遠慮なく、わちらに物申してくりゃしゃんせ」
「どうかどうか」
なるほど……。
ここでは特に水晶工芸が盛んだと聞いていたけれど、様々な芸を『聖杯』の前で披露しあうのが『聖杯祭り』なわけか。
そして、聖杯の穢れを清められさえすれば、ここも黄金領域として復活するかもしれないと
「『聖杯祭り』……なんだか面白そうね?」
「ぼくたちも何かできるといいです」
「なるほどなあ。あたしたちにお祭りを見せて感想を聞きたいってことだったんだね!」
「警戒して損したばい」
『
ん?
呪い?
そういえばこの間作った【ローストドラゴン(竜呪)】って、全ての呪いを解呪できる効果があったよな?
「失礼、
『は、はいっ……私の声は【虹の奏竜メロディーン】討伐時に受けた呪いで……失いました。現状、どの医療機関も……
「どうやら
「それはそれは……」
きるるんは状況を把握すると満面の笑みを浮かべる。
「紫音さん? もし仮になのですが、今この場で声が取り戻せるとしたら【にじらいぶ】に所属していただくのは可能かしら?」
すぐに
『この声が……戻るのでしたら、もちろんです。
「……
「そう。なら決まりね。私もちょうど二回目の変身で
きるるんはコホンッと咳払いをしてから、キラキラの決め顔で俺に命じる。
「ローストドラゴンに合う、とっておきの料理をお願いできるかしら?」
「かしこまりました」
MPが回復できて、『聖杯祭り』を前に、精のつく美味しいご飯。
そんなメニューの食材として選ぶのはもちろん————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます