48話 竜の卵? 食べる? 育てる?
「すごかったわね……【百騎夜行】。特にタロさんを中心にした連携が凄まじかったわ」
「ユウさんは僕より鉄壁です。周りもよく見えてるです……」
「コウさんもあたしより拳が硬いし、動きに無駄がないし、判断力がすごかったよ」
「途中から参戦してきたジョージってオネェも、突破力とか相手を乱すのがすごか上手やったよね」
レイドクエストをどうにか乗り越えた俺たちは、【百騎夜行】に対する称賛と分析から始まった。また、【
彼女たちはレイド終了後には怖いぐらい低姿勢で、執拗に俺をパーティーに勧誘してきたのもちょっと気になる。
あとなぜか【にじらいぶ】全員に『わちらの里の工芸品でありんす』と、物凄くお高そうな江戸切子っぽいグラスをプレゼントしてくれたのも謎だ。
あとやたら尻尾を丸めて、きゅーに土下座していた。
とにかく俺たち【にじらいぶ】は冒険者の高みを間近で見て、まだまだ課題が多いと思い知った。
「おーい、【にじらいぶ】のみんなー! 【竜喰いの騎士】たちが竜たちの素材を分けてくれるってー!」
銀色の長髪をなびかせ、ぶんぶんと両腕を振って呼びかけてくれたのは【百騎夜行】のタロさんだ。
彼女に案内されると、竜たちの死体が山のように転がっている。
すでに【竜喰いの騎士】たちを主導に、
ん……!?
卵!?
「ちょ、ちょっと待ってください!」
俺は急いで【竜喰いの騎士】たちの下へ駆け寄る。
「む? おお、そなたか。そのように血相を変えてどうした?」
「その卵たち! なぜ潰しちゃうのですか!?」
「決まっている。竜が
「いやいやいや、卵も立派な素材ですよ!?」
「なに……?」
「え、えーっと……食べれます! あ、あと、きゅーが喜びます!」
【竜喰いの騎士】たちが放つオーラが尋常じゃない。
こいつは竜に味方する者なのか? といった疑念をぶつけられているのだ。
うーん……正直、卵を食べるためだけにもらいたい、と思ったわけでもないんだよなあ。
今回のレイドクエストは次から次へと竜たちが迫ってきて、対話する余裕がなかったけど、【万物の語り部】による【竜語り】で意思疎通を図ってみたいと思っていたのだ。
「竜の卵を食べたいというのも本当ですが……その、幼竜と話してみたいなーなんて」
「そなた、竜に与する気か?」
「いえいえ! ですが、もしかしたら竜と対話をして、信頼関係を築ければ……大いなる発見があるかもしれません!」
「竜を我らにけしかけるつもりはないと?」
えっと、こういう時は確か……。
「我らが竜鳴に賭けて!」
絶対にそのようなことはしないと固く誓う。
【竜食いの騎士】たちの風習にならった受け答えをすると、彼らは静かに頷いた。
「そなたが【竜宮使い】となる誓い、この『凍てつく槍のゼノ』が認める! 我らが竜鳴に賭けて!」
「同じく、『大穴穿つ槍のホル』が認める! 我らが竜鳴に賭けて!」
「同様に、『風切り槍のフワ』が認める! 我らが竜鳴に賭けて!」
おおおおお。
やった!
なんか認められたぞ。
「そなたの名を問おう」
「あ、えっと……ナナシロ……いえ、ナナシです!」
「そうかナナシか。ではナナシ。全ての竜の卵をもってゆくがよい」
「全て?」
「うむ。不思議と此度の竜たちは妊娠している個体が多くてな。もちろん竜肉も、持って行ってよいぞ。ただし、分け前は全体の2割までだぞ?」
竜肉をたくさんもらえるのは嬉しい。
だが、ちょっと気になる点があった。
「ん……? 妊娠してた竜がわざわざ【竜骨の城ホワイトライン】に仕掛けてきたのですか……?」
「いかにも。不思議なものだ。こちらを見よ、今回の首級である【
普通、妊娠中ってなるべく安全な場所にいるんじゃないのか?
んんん?
もしかして何かから逃げてきたとか……?
せっせこ卵や竜素材を回収してゆくが、俺はとある予感が脳裏をよぎっていた。
————また、新たなる危険な冒険が始まるかもしれないと。
◇
「くきゅー? きゅっ?」
「うんうん、いいぞー、きゅー。その調子だ」
俺は今、自宅できゅーと一緒に竜の卵を一つだけ温めている。
全部で12個いただいた竜の卵。
うち4つは戦闘中にきゅーが回収した卵で、8個は報酬としてもらった卵だ。とりあえず11個は【宝物殿の守護者】で大切に保管してある。あそこに置いておけば時間が進まないので安全だ。
ちなみにきゅーの存在は義妹たちや母さんにはバレていない。
普段は胸ポケットに隠れているきゅーだが、今は
【
とはいえ、いつも食べているニワトリの卵と比べたら10倍ぐらいの巨大さだ。
「きゅっ、きゅっ」
首をキョロキョロと傾げるきゅーを俺は優しくなでる。
どうやらきゅーはこの卵が非常に気に入ってるらしい。
キツネが竜の卵を温めるとか滑稽でしかないけれど、俺は存外この絵面に癒されている。
うん。
今日はきゅーのふかふかに寄り添って一緒に寝るとするか。
そんな風に睡魔に負けた俺だったが————
目が覚めると驚愕が待っていた。
「きゅっきゅー? きゅぅぅーん、くきゅっ」
「ぴっ、ぴぴぴぴ、っぴっ!」
「ん……な、なんだよきゅー。まだ朝早いんじゃ…………ん……ぴっ!?」
俺が急いで起きるとそこには————
まるっとふわっと白いひよこがいらっしゃった。
まんまるのつぶらな瞳で俺を見上げ、ぴっぴっぴっと白マリモがちょこちょこ移動するように動いている。
「ぴよっ」
「ぴよ!? え、ぴよなの!? ガオーとかじゃなくて!?」
「ぴっ、ぴっ、ぴよよよ?」
う、ん?
なんとなくだが腹が減っていると言われたような気がしたので、【宝物殿の守護者】に保管しておいた【雪羊のチーズ牛丼】を試しに出してみる。
「ぴっぴっ……ぴぽ!? ぴっぴぴいぴぴっぴ!!」
最初は様子を見ていたひよこだけど、一口つまむとすぐさま平らげてしまった。
わあ、雑食だ。
「ぴっ、ぴっ、ぴっ、ぷっ、ぴっ、ぴよよ?」
「え、オナラしたけど可愛い!?」
「ぴっ、ぴっ、ぴっ、けぷっ、ぴぴぴぴっぴよっ?」
「げっぷすらかわいいぞおおおおおお!? 本当にドラゴンなの!?」
ひよこ竜。
爆誕。
ちなみに食べたら美味しそ————
「お
隣の部屋から壁ドンくらったおかげで、俺の邪念は霧散しました。
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