男 レムラーリア③

邪神レムレースは、起き上がると春人に笑顔で語り掛ける。そこには悠久の時の中で、はじめて見せる、低姿勢の邪神の姿があった。


「うむ。春人だったな。我と手を組んで、共に世界を征服しないか?」


その言葉を受けて春人は全力で拒絶した。

 

「断る。」


「では、この世界に破壊と恐怖を与え――」


「断る。」


「それならば、我と一緒に無龍と七賢聖サガだけで――」


「断る。」


「分かった。春人だけには危害は加えぬ。だから、この世界だけでも我が征――」


「断る。」


邪神レムレースは地面に転がって子供のように駄々をこねて、泣きじゃくっている。

 

 

「うわ~~ん。もう少しだったんだぞー。我は今回の転生で、確実に世界の守護者を殺せる予定だったのだ。絶対に嫌だー。世界征服したいよー。うわーん。」


「そればっかりは少女が泣い縋っても、駄々をこねても絶対に無理だ。」


「じゃあ。どうしろと? 我はそれだけを楽しみに、何万年も計画をしてきたんだぞ? 春人は不老不死じゃし、万が一死んだら我も終わりだし。」


「レム。お前に、楽しみとかはないのか?」


「そんなものはない。ひたすら修行をするストイックな毎日だ。」

 

「じゃあ。もう遊んで暮らせば良いんじゃないかな?」


「どうやって遊ぶのだ?」


「うーん。どうって。楽しい事を仲間と喋ったり、ゲームやスポーツをしたり。一緒に遊ぶ仲間とかはいないのか?」


「我は神だぞ。対等に接する者など敵しかおらんわ。」


「……好きな食べ物とかはないの?」

 

「食事は生きる為に食うだけだ。別に美味しくもないし、そこに楽しみなど見出せぬわ。」


「……じゃあ。もし、毎日楽しくて、たまには美味しい物が食べられたりしたら、ストイックに修行だけをして生きるよりも大分マシに過ごせると思わないか? 別に修行が好きだってわけじゃないんだろ?」


「修行が好きなわけ無いだろ。我の場合はひたすらに筋トレする事でレベルが上がる。修行をしなければ強くならんから仕方なくそれをやっているのだ。もし、毎日楽しく過ごせて、食べる事にも幸せを感じれたら、世界征服をして楽しもうなどとも思わなかったかもしれんな。」


「仕方ないな。それなら、お前にこのスマホをやる。これでゲームをして遊べ良い。」


「ゲーム?」 


「やれば分かると思うけど、スマホのゲームだ。そにと、たまに食事を食いに来ても良いぞ。試しに今から作ってやる。」

 

「なんだか分からんが凄い自信だな。もう強くなる必要もなくなったから、つきあってやるわ。」



 

 獣人の森ビーストウッズ冒険団の面々は恐怖に震えながら、正座をしてそのやり取りを聞いていた。衝撃の話の内容に驚きつつも言葉を発する事も出来ないで震えている。邪神レムレースや、もはやそれを上回る春人に比べたら、自分達は虫けらにも及ばないような小さな存在であると認識している。目の前に神のような存在が二人もいて、ご尊顔を直視するわけにもいかずにただただ顔を伏せて青ざめている。



 春人はそれを見て、 獣人の森ビーストウッズ冒険団に声を掛けた。


「お前等はもう帰って良いぞ。さすがにお前等にやる飯はないからな。もう悪さをするなよ。」

 

「「「はは~。神のお導きに感謝致します。」」」


「なんだよそれは。あ。レムの事か。」


 獣人の森ビーストウッズ冒険団は一目散に逃げ出していった。彼等はこの後の人生で、善行を積んでいく事になる。ギーオとコルネリアスは冒険者稼業から足を洗い、彼等が作り出した架空の神『春人神様』を称えながら、住込みで孤児院の手伝いを始める事になる。アンドレアは一人で冒険者稼業を続け、ギーオ達のいる孤児院に住みながら、その稼ぎの全てを孤児院に寄付するようになった。そうして孤児院と孤児院の子供達まで伝承を語り継ぐ事になる。邪神レムレースの悪を打ち払った春人神様と、それが人類に齎した大いなる救済を。



 ――獣人の森ビーストウッズ冒険団が去っていくと、コユキは同じように自分も行かなければと立ち上がっていた。そして、最後に騙してしまった春人達に言葉を残そうと頭を下げる。世界の風習は知っているが、この街に来たばかりのコユキにとっては、目の前のレムレースと邪神が一致していない。それよりも春人達を騙してしまった事の方がコユキにとっては大きな事だった。


「春人、うららちゃん。騙してしまって、本当にごめんなさいなんだよ。」


だが、春人はそんな事はまったく気にしていない。春人には獣人の森ビーストウッズ冒険団が、仲間であるコユキにした悪事が許せなかっただけなのだ。

 

「別に良いぞ。それはあいつ等が悪いんだ。」


コユキは、その答えに少しだけ心が軽くなった。だからこそ、春人やうららとの別れが辛くなる。

 

「最後まで優しくしてくれてありがとう。うちも、もう行くね。」


「おう。今から飯を作るから、冷めないうちには帰って来いよ。だいたい30分くらいで出来上がるぞ。」


コユキは春人の言葉に耳を疑っていた。そんな事があるはずがないのだ。

 

「え?」


「いや。だから、早く帰って来いよって。」


「うち、春人達を騙したんだよ? 裏切ったんだよ? もう戻れるわけないじゃない。」


「は? 何を言ってるんだ。それはさっきも伝えただろ。コユキに裏切られたら、裏切られるような事をした俺が悪いって。今回のはちゃんと事情を聞いてあげられなかった俺が悪いんだ。辛い思いをさせてごめんな。」 


うららがコユキの肩を叩いて、にっこりと笑ってる。うららはレムレースの強さを理解はしているが、レムレースに比べてもそこそこ強いので、コユキと同じくレムレースを邪神として見ていない。だから、現状の優先順位は悲しんでいるコユキへの対応だった。

 

「そうそう。みんな春人のせいなんだから、コユキちゃんはまったく気にする事ないって。私なんて、春人が暴走したせいでファーストキスを奪われたんだぞ。」


「だから、それは悪かったよ。……奪われたのはこっちだけど。」


 コユキは二人の答えに胸がざわついていた。二人のどうしようもないくらいの優しさに、この世界でやっていけるのかと心配になったのだ。

 

「二人共お人よし過ぎなんだよっ。そんなんじゃ、また、誰かに騙されちゃうんだよ。」


「そうだ。俺達はこの世界を知らない。だから簡単に騙される。コユキが俺達の事を守ってくれないか? その部分でもコユキに期待をして良いかな?」


「……ぅ。……仕方が無いから、私が守ってやるんだよ。」

 

「小娘……いっしっしっし。小娘は春人を騙しおったのか。とても胸がすく思いじゃ。だが春人が我にした酷い事に比べれば、全てが小さき事だ。これからも春人をたくさん騙す事を我が許可してやる! いたっ~。春人何をする!」


 春人がレムレースに拳骨を落とす。

 

「飯を作ってやるんだから、うちのコユキに偉そうにすんな。」

 

「ふん。それは飯が美味かったら従ってやる。」 

  

コユキは思う。春人は死んだ母親やあの時の精霊様のように、コユキの事を本当に大切に想っている。コユキは、溢れ出した涙を拭う。だがそれは悲しみからではない。今度は本当に嬉しくて、拭いても拭いても涙が止まらなかった。

 

「……ありがとう……なんだよ。」



 


 

 春人の冒険者パーティーメンバー

 和泉春人 『生活担当』

 愛媛うらら『戦闘担当』

 コユキ  『素材担当』


 春人の臨時パーティーメンバー

 レイア アレオパゴス『妹(王女)担当』

 レムレース(デモゴルゴン)『従魔(邪神)担当』

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