男 再会②
「店員さん。何も泣く事は。……いや。女の涙には絶対に騙されちゃ駄目だ。俺は一度、この子に見捨てられたんだ。」
春人が困っていると、男の人が手を振りながら近づいて来る。
「レイア王女。やっと見つけましたよ。どうやって空を飛んでいたのですか?」
それはレイアと一緒にルルシア聖皇国にやって来たレイアの騎士だった。
「教えないの。ローガン。もう私は王宮に帰らないなの。お兄ちゃんとずっと一緒にいるの。」
春人がローガンを見ると分かりやすく顔が青ざめている。
「レイア王女。それは勘弁して下さいよ。国で妻が待ってるんですから。」
「ローガン一人で帰っていいの。許すの。」
「だから本当に勘弁して下さいよ。国から給金を頂いてますし、レイア王女を放置して、自分だけ帰国したなんて事になったら私は殺されますよ。」
「……むむむむ。」
春人はいろいろな可能性を考えるが、思い当たる事はひとつしかない。よく考えてみたら、うちの国が保護するとか、国に報告するとか簡単に言っていた事を頭の中で整理する。でも、やっぱり直接聞くまでは信じられなかった。日本で生きていた時には、どこかの国の王女なんて、出会えるものじゃなかった。
「え? レイア王女って何??」
レイアが惚けているので、代わりにローガンがそれに答えた。
「そのままの意味です。これは自己紹介が遅れました。私はレイア王女に功を認められお付きの騎士となったローガンと申します。はぐれてしまったレイア王女を保護して頂き誠にありがとうございます。」
だが、春人は本人の口から直接聞きたい。春人は初めて会う人の言葉を鵜呑みにはしない。
「え? レイアって本当に王女なのか?」
「ん。 ……言ってなかったなの。」
それでやっと、春人はその事実を呑み込んだ。今度はローガンに質問をする。
「それで、国に帰らないといけない、ローガンさんが殺されるかもしれないと?」
「ええ。この国に来た時、私が王女を連れ出したとされたらと考えると死ぬ思いでした。この状況で連れて帰れなかったら、私だけじゃなく家族まで殺される恐れがあります。どなたか知りませんが、レイア王女のお兄様。どうかレイア王女を説得して下さい。」
「あ。俺は春人と申します。レイア。ただちに家に帰ろうか。」
「それは絶対にいやなの。お兄ちゃんと離れたくないの。」
「こら。わがままを言うな。スマホを渡したんだからいつでも連絡が取れるんだぞ?」
「それなら、お兄ちゃんも一緒に来てなの。」
「悪いが行先は決まっているんだ。
たしかレイアは、天賦の才 便利 で模倣スキルを覚えたよな。
今のレベルで2つの模倣用スキルスロットが空いてる。これって、スキル保有者の承認がないと模倣出来ないよ。
ローガンさんを困らせない代わりに、トイレを作るスキルと調味料を作るスキルをコピーしてもいいぞ。レイアは調理のスキルを覚えているから、自分でいろいろな料理を試せると思うぞ。特別にスマホのチャットでレシピも教えてやる。でも、ローガンさんを困らせるなら、その話は無しで、ここでさよならだ。」
「おうちへ帰るなの。でもお兄ちゃんには絶対また会いに行くの。」
「ああ。良い子だ。さっそくスキルをセットしようか。」
レイアと一緒に模倣のスキルをセットする。どうやらレイアのスマホにも春人のマテリア化が効くらしく、スキルを使おうとすると画面にお金をマテリア化する部分が出現していた。
ローガンが春人に土下座して感謝の言葉を述べる。
「春人様。我が命助けて頂き、誠にありがとうございます。このご恩は一生忘れません。」
「お兄ちゃん。本当にありがとうなの。」
「おー。じゃあなレイア。ローガンさんも。」
レイア達がいなくなるまで手を振り続けていた春人だったが、一部始終を見ていたうららが、再び春人に声を掛ける。
「あのー。春人さん。……レイアちゃんいなくなりましたが、私を仲間にする気はありませんか? 私は必ず役に立ちます。」
今度は春人もちゃんと交渉の場に立っていた。自分でも情けないと思うが、異世界に一人きりという点でうららと同じ立場に戻ったのだ。
「うーん。行先を俺が決めても良いなら、考えても良いかな。俺弱いし。」
そっけない返事だったが、うららはそれでも喜んでいる。
「ありがとうございます。愛媛うららです。これから、よろしくお願いします。」
うららが名乗った時、やっと、春人もその事実に気が付いた。愛媛は八百屋の名前や店長の苗字などと同じである。
「ん? 愛媛うらら。 ……もしかして、店員さんは夏さんの娘さんなのか?」
「そうですが。」
「……いや。今、言う事じゃないな。……でも。」
「何ですか? 教えてください。」
「いや。異世界の生活が落ち着いたらだな。」
「お母さんがどうかしたんですか? まさか? 転移の時、お母さんもいた? 教えてください。何か知っているのですか?」
「こんな時に本当にごめん。夏さん転移の魔法陣が出た時、その中心にいたんだ。むしろ、あれは夏さんから魔法陣が発動したみたいになってた。それで何か倒れてた。」
「何ですかそれ。お母さんは無事なんですよね? この世界に転移しているって事?」
「分からない。でも、俺は夏さんを探そうと思ってた。ひょっとしたら、違う場所に転移したのかも知れないしな。」
「お母さんには、悪いけど、それが私の希望かもしれません。私は早く自立したい一心で生きていたけど、会えなくなるのは違います。少なくともこの世界に生きているなら、会いたい。」
「そうだな。俺も夏さんには会いたい。絶対に見つけたい。夏さんにはお世話になったから、君が夏さんの娘だというなら文句無しの保護対象だ。」
「嬉しい。さっそく共通の目的が出来ましたね。本当にありがとうございます。それと、春人さん。私は君じゃないです。うららって呼んでください。」
春人は喜んでいるうららには言えなかった。夏を探そうとしていた事に嘘はないが、夏が倒れた時に大量の血が吹き出していた。それに転移した時に春人も目が回っていたので、見間違いの可能性もある。だが、うららにとって夏は親。不確定であるのに真実を伝えられないが、本当の事を言わない後ろめたさも残った。
代わりに自分の情けない感情を白状した。
「わかったよ、うらら。それとごめんな。俺の鑑定結果を見て、みんなと一緒に落胆してたから、意地悪をした。店員と客だけど、それなりに信頼関係が出来ていたと思っていたから、何かあった時に裏切られそうだと判断したんだ。」
「何ですかそれ。私、人の鑑定結果なんて見てませんよ。混乱してて、それどころじゃなかったんですから。春人さん。……心狭いです。さっそく見損ないました。」
「え? そうなの? ……でも、冷静に考えたらそうだよな。俺はゲーマーだしラノベとか見てたから耐性があったけど。ごめん。それじゃ。完全に勘違いだわ。」
春人の顔が真っ赤に染まる。混乱していたとはいえ、完全に春人の勘違いで逆恨みだった。恥ずかしすぎて穴にでも入りたい気持ちになる。
「ふふふ。嘘です。こうして仲間になれたんだから、別に良いですよ。……でも、その代わり、私シャワー浴びても良いですか? ずっと戦ってたから気持ち悪くて。」
「おお。良いぞ。」
「やったー。ありがとうございます。」
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