第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 46
人格ロンダリングを施された新生夏目を“あきれたがーるず”に引き合わせる。
そんな大失態を演じたシスター藤原が、まだ自由に毛利邸へと出入りしていた頃のことだ。
是非にとお願いされて一緒に飛んだことがあった。
シスターは華奢な身体をしていたが、それなりの質量はある。
犬で例えればゴールデンレトリバーってとこ?
シスターの体積は秋吉と余り変わらないから横断面の面積もたかが知れている。
だけどシスターの身体は慣性の法則に従い速度に応じた空気抵抗も発生した。
秋吉とほぼ同じ形と重さなのに、シスターはとんでもなく厄介な重量物だってこった。
てっきり“あきれたがーるず”のみんなと飛ぶ時みたいに、軽々と飛行できる。
そう思っていたので先輩も僕もびっくりだった。
アルミのパイプで格子状のプラットホームを作り先輩と二人並んで腹這いになって身体を固定する。
ナビゲートが必要な時には二人の上に三島さんに乗ってもらうことにする。
そんなプラットホーム零号機が出来上がったのが、その頃のことだ。
飛行時に荷物を運ぶ手段を色々模索していて、橘さんが形にしてくれたのだった。
最初の荷物がシスター藤原になるとは思ってもみなかったよ。
先輩は反対したけれどね。
「重量物を運ぶ前にですよ。
メンバー以外の人間を運搬する実験というのも面白そうですよ。
零号機の試験運用を終えて実戦投入を検討する段階まで来たら、是非試してみましょう。
人間というブツは結構重いのです。
ペイロードを見極めるのには最適なカーゴだと思いますよ?」
何か悪巧みでもあるのか。
艶やかで形のよい唇をニヤリと歪める橘さんの意見が結局は通った。
普通に微笑み浮かべるだけなら見惚れて仕舞う橘さんの唇だけに、何やら胸騒ぎがしたものだよ?
プラットフォーム零号機の初回運用実験は波乱含みで始まった。
ドナムを使って離陸するまでは地球の重力が働いている。
だから僕らの上に乗る三島さんのフニャリとした感じが背中に感じられるのは当然のことだよね。
柔らかな感触と甘い体臭に顔がにやけたものさ。
それに気付いたお見送りの橘さんや秋吉が悪鬼の形相になって、先輩も急に不機嫌になったのはお約束。
三島さんはと言えば、キャアキャアと嬉しそうにはしゃぎながらぐりぐり体重を乗せてくる。
彼女が際どいからかいの種をみつけたことで大喜びなのは見え見えだったよ?
三島さんのふにゃりを『楽しんじゃだめだ』と何度唱えた所で無駄だった。
僕の内なる声は三島さんを通して隣の先輩に常時筒抜けだからね。
『挑発に乗っちゃ駄目だ』と分かってはいても、もやっと浮かぶ邪な考えが脳裏をよぎる。
その瞬間に頭をはたかれた。
男の子としてはこんな美味しい状況なんだよ。
しょうがなくね?
僕だって青春のパトスが煮えたぎる一介の男子高校生に過ぎないんだぜ。
美少女のふにゃりに平常心を保てって言われてもそりゃ無理ってもんだ。
何かと問題ありのプラットフォーム零号機だけどね。
先輩と僕にとっては楽な体勢であることは確かだ。
僕はそのままで良いと強く思ったんだよ。
だけど問題点の抜本的解決と称してだな。
橘さんがプラットフォームの設計を変更したことは言うまでもない。
三島さんはちょっと不服そうだったけどね。
先輩と秋吉の圧倒的支持を受けた橘さんにもちろん躊躇いはない。
僕的には素のままで先輩と飛ぶのも。
三島さんのフニャリも。
それはそれで全く不満はなかったのだけどさ。あえて口に出さずへらへらしていた。
プラットフォームの仕様は、腹這い姿勢から一転した。
残念な事に、プラットホーム初号機はリュージュみたいに足を延ばして座る座席へと変更になった。
それからプラットホーム初号機の腹面には、重量物を吊るすハードポイントが追加された。
座席は取り外しができる。
先輩と二人で飛ぶときには複座。
三島さんを乗せるときには横並びで三座に変更が可能だった。
三座の時はドナムを共役する都合上、僕が真ん中で三人はサイドで密着姿勢になる形だ。
プラットホーム初号機の新仕様には、やっぱり三島さんだけが不満そうだった。
どうせフニャリが僕を苛める格好の口実になるのに、それを取り上げられて残念なんだろうさ。
橘さんにしろ三島さんにしろ先輩にしろ。
女心の機微を察しろなんて、よく僕に説教するけどね。
僕を苛め楽しむ方便の機微なんぞ知りたくもない。
そんなもん何が何でも察したくない今日この頃だよ?
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