第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 41

 「そんなに訝し気な目でわたくしをご覧にならないでくださいまし。

・・・『せっかくの休日に申し訳ございません!』

と思ってはいるんですヨ。

でも、雪美さんに無理を聞いていただいて。

こうしてまどか君のお出ましを願った次第なのですぅ」

シスターは唇を尖らせて上目使いを僕に向けた。

「シスター藤原ともあろうお方が折り入って僕に何の御用です?

もしや、ボランティアの依頼だったりします?」

シスターは縋るような目で三島さんを見る。

けれども三島さんはそれを無視して、お淑やかな仕草で黙々とケーキを口に運んでいる。

「・・・全てはわたくしが悪かったんですぅ。

一生懸命謝ったんですけれどぉ。

ルーシーさんは「もういいのよ」なんておっしゃりながら全然許してくださらないんですぅ~」

 シスターの少し青みがかった大きな目にたちまち涙が溢れかえる。

傍から見れば僕なんて、清らかな聖職者を苛めている、悪魔か背教者かなんかの様に見えるのだろうよ。

僕にとってはなんとも旗色の悪い景色になってきたのが痛い程肌に感じられた。

 今日は普段より水のお替りの回数がやけに多い。

ウエイトレスさんは自分の好奇心に対して素直な人なのだと思う。

僕はそれをどうこう言うつもりもない。

けれども、唇を震わせるシスターの涙目に気付くとどうだろう。

彼女は咎める様な目で僕を睨んだものさ。

正直、それに気付いた僕は動転したし声も上ずったよ?

こんなことなら三軒先の邪宗門に河岸を変えりゃよかった。

同じ喫茶店と言っても、背教者にもう少し優しいだろからね。


 「・・・先輩はもう怒っていないと思いますよ。

シスターについて特に悪い話題が上がることはありませんし。

この間だって二人で楽しそうにお話ししていたじゃないですか。

僕は和気あいあい『みんな仲良し』とお見受けしましたよ。

三島さんだってそう思うだろ?」

三島さんは見方によっては仏頂面とも思える表情をしているだけで何も言わない。

「そんなことないんですの。

わたくしはすっかりルーシーさんに嫌われてしまったに違いないんですぅ」

 シスターがことさら上品に。

そう演出しているとしか思えない。

極上とたとうべき清楚ななりふりで啜り泣きを始める。

僕は思わず周囲をきょろきょろしてしまう。

ドッと吹き上がる汗を拭いながら三島さんに助けを求めた。

「ミシマー!

どういうことだよ。

おまえ僕にどうしろってんだ」

「さあ?」

三島さんは我関せずを貫いている。

「・・・わたくし・・・わたくし。

女子会に誘われなくなっちゃったんですぅ!」

『そんなの僕が知ったことかよ!』

僕はお宮に蹴りを入れた貫一のプッツンを妄想する。

「だよねー。

その例えはどうかと思うけど。

・・・金色夜叉。

マドカ君ちゃんと読んでないでしょ?

お宮もろくでなしだけど、ある意味貫一はそれ以上のサイコで底意地が悪い根性曲がり」

「三島さん。

指摘すべきとこはそこ?」

「だけどシスター藤原の難局を打開できるとしたら。

それが可能なのはマドカ君だけかな?

カノウだけに。

なんちゃって。

てへ」

いつの間にか僕に触っていた文学少女三島さんが、表情を崩し愛らしく小首を傾げる。

寒いオヤジギャグをかましてナニが、てへ。

だよ!

『小悪魔ってのはこいつみたいなズべ公のことを言うのだろうさ』

僕は三島さんに分かり易いジト目を向けてやった。




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