第14話 堕天使は嘘をつく 7
雪美の肩を抱くルーシーはエントランスに向けて足早に歩を進める。
そこには難しい顔をした佐那子が立っていた。
「ルーシーさんが私に耳打ちされたように、何か変です。
皆さんが警察に連れていかれた後、速やかに高木先生に連絡を入れました。
電話して直ぐ現場にもどって、残っていた野次馬に色々と聞いて回ったんですよ。
そうしたらあそこに居た連中はどいつもこいつも一人の例外もなく。
まどかさんは『女の子を殺そうとしてビルから突き落とした犯人だ』と断言してくれやがりましたよ。
私が話を聞いた誰一人として自分自身で目撃した奴は居ないのにも関わらずですよ?
そこのところには少しのブレもなくて・・・。
あの状況でですよ?
人を突き落とそうとして誤って転落するならいざ知らず。
心中じゃあるまいし、一緒に飛び降りるなんて。
そんな馬鹿な真似どこの誰がするものですか。
私はおふたりみたいに飛び降りの瞬間に居合わせてはいませんでした。
だけどそんな私でさえどう考えてもまどかさんが少女を突き落としたなんて可能性は見えてきません。
まどかさんに対する私情恋情贔屓の引き倒しを勘定から省いたって、そんな戯言がまかり通る流れとは思えません。
それでも何がどうしたのか。
あの娘の恩知らずな証言だけが大手を振って独り歩きをしている。
そんな感じなのです」
佐那子の口調には苛立ちの成分が濃厚である。
「野次馬の誰かがマドカ達の落ちた様子を目撃した、と言う訳ではない。
その可能性が高いのですね?
・・・心配した通り」
「・・・またやらかしたんですね、マドカ君。
今度はどんな能力なんでしょ?」
俯いた雪美が、まるで浮気者の亭主をどうしても見限れない古女房よろしく嘆息する。
雪美はのろのろと顔を上げると疲れ切った様子でルーシーに問いかける。
「ばかマドカは力を使いながらクソ女を助けた。
ユキの想像通り。
そうしてばかマドカはクソ女に洗脳力みたいな能力を与えた。
そういうこと」
「ンマッ!
薄々そうじゃないかとは思っていましたけど・・・。
“ばか”とか“クソ”とかお姉さまらしくもないそのおっしゃりよう。
わたくし、何だか胸のつっかえが少し取れました」
険しかった雪美の表情が緩んだ。
「佐那子さんも宜しければこの後ご一緒して下さいますか?
今何が起きているのか三人の考えを持ち寄って、マドカを救出する作戦を立てたいと思います。
このままでは済みませんし、このままで済ますつもりも毛頭御座いません!」
ルーシーの顔色はいつもに増して白い。
加えて瞳の緑が深くなり、長く豊かな髪が逆巻き燃え立つ炎の様にも感じられる。
雪美は自分の怒りを脇に置いて、この赤毛の恋敵の内から漏れ出す憤りの熱に少しく恐れを覚えた。
「もちろんですとも。
ひとまず社まで戻りましょう。
今日は車で来ていますから、三鷹台までの道々、時間も有効に使えます」
いつになく大人の顔になった佐那子が「そうと決まれば急ぎましょう」とふたりを促す。
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