第28話 弟との比較(あとがきがあります)

 カチッカチッと時計の秒針がハッキリと聞こえてくる。


 静寂に包まれた深夜のリビングに僕たち二人。


 向かい合うようテーブルに座った。


「なに話しって?」


 話そうと持ちかけたのは姉様。


 こんな時間になんの用だろう?


「新くんさ、もう一年になるじゃん」


「?」


「配信活動始めてから」


「うん。そうだけど」


「やる気も元気もない弟が急にその気になってちゃんと継続するなんて偉いなーって」


 そういえば姉様は否定派だったな。


 予備校行くとか真剣にバイトに励む方が人生のタメになるって言っていた。


「私はね、新くんのこと見直したんだよ? すぐ諦めると思ったのに頑張り続けてさ。まるで別人にでもなったのか、私の見る目がなかったのかなって。どうして配信は努力できたの?」


「あんまり考えたことないです。ただがむしゃらにここまで来たからってのもあるし、惰性でやってたのもあります。でも一番は僕のやることに納得してくれて、毎日顔を出してくれたリスナーの存在が大きいです」


「不特定多数だけど、新くんを気に入ってくれた人がいたからやってこれたの?」


「おそらく」


「ふーん」


 姉様と雑談とかしないから凄く不思議な感じがする。


 お前の考えなんて丸見えよ! って態度で接してくるのに、今はちゃんと話しを聞いてから発言している。


 まあ元々、か弱き僕をイジって楽しむ人であって僕を陥れたいわけじゃないから、普通に話そうと思えば話せる人なんだよな。


 面倒な性格が邪魔してるだけで、イケメン好きで高収入を目指してる女の子なんだし。


 姉様は僕について何でも知ってるって言うけど、僕も姉様のことは何でも知ってる。


「なんだか不思議。自己主張のない弟が、立派になっていく気がして私は寂しい。昔は私の近くにしかいれなくてあんなに可愛がってやったのに」


 姉様はため息をついて頬杖をついた。


「僕だって子供でいたくないです。今の僕は姉様が知る新ではないんですから」


「なにその言い方。生意気」


「姉様って呼ぶの嫌だから姉さんに戻します」


「大人びて見えるのは見た目だけじゃない……か。ねえ、もう少し聞いてくれる?」


「どうぞ」


「姉さんね、新には話してなかったんだけど三月中に引っ越すの。福岡まで」


「ええ福岡!? なんで?」


「私はね、インテリアコーディネーターを目指してて、大学でお世話になった先輩が福岡にある企業で働いてるからそこにお邪魔することにしたの」


 そういえばどこに就職したのかは聞いていなかった。


 まさか福岡だなんて。


「武者修行のつもりで行くから暫くは家に戻らない。だから今のうちしか顔を合わせられないから、いつも以上に新くんを可愛がろうと思ったけど君は夢中になっててつまんない」


「でも珍しいね。姉さんらしくないっていうか……」


「どういう意味?」


「その……姉さんって何でも出来ちゃうから、修行とか努力と無縁の人だと思ってるからさ」


「よく分かってるじゃない。でもね? 下等生物だと認識してた弟が随分努力してて、それに比べて何一つ成し遂げていない私はちっぽけな存在だと気づいてしまったの。これじゃあ立場が逆転する。私はいつまでも新くんの姉でいたいから、今回はそう決めた」


「僕だって小さな存在です」


 そう。とても小さな人間。


「弟には負けたくないから私は福岡で成功して東京に行く。そのあと新くんをたくさんなぶりに行くから覚悟しててね」


「負ける気はないからね」


「そう言っていられるのも今だけよ。ついでに言うけど藤井ユイちゃんからのメッセージ、新くんがトイレに行ってる間に勝手に返信したからあとで確認しておいてね☆」


「バ、バッキャロオオオオオオ!!!」




あとがき


28話をご覧いただきましてありがとうございます。

本来はこの話しをもう少しあとに持ってくるつもりでした。

奈月が一悶着起こして、ほんじょーが対策を練ったのちの一話にする予定でしたが、狂ってしまいましたね。

まあそういう時もあります。3章は三話分短くしたので薄っぺらくなってますが、今後もよろしくお願い致します。





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