第19話 毒舌加速

「それでは第二試合を終えて途中結果が出ました。気になる順位はこの通りです!」


 司会の男性が声高々に告げる。


 順位は下からの発表。


 僕たち「みずユイスタンダード」は十九位。


 ヤバすぎて草も生えない。


「あちゃー下から二番目かー」


「まだ二試合消化ですから、ここから追い上げです!」


 なんとか雰囲気を保とうとする藤井さん。


 僕も乗っかって「オー!」とか言ってみたけど、本命のみずきさんはさっきから黙っている。


「それでは三試合目は十分後に始めます!」


「十分ですって。味変のつもりでカジュアル行きます?」


「みずきちゃん。どうする?」


 お願いだ。返事くらいしてほしい。


「うん。なんでもいい」


 いつも以上に声が低い。


 抑揚もない。


 なんだろう「勝手にやってれば?」って聞こえる。


 杞憂であってほしいけど。


「み、みずきちゃん! 配信中だし、もっと元気だそうよ」


「いつも通りだけど」


「じゃあ反省会やろうよ! さっきの試合は僕が悪かった! ごめんね」


「さっきの試合? 全部じゃなくて?」


 うーんこのド直球!


 ぐうの音も出ません!


「じゃあ反省会しよ。最初からムーブが適当すぎる。今までなんの練習してたの?」


「申し訳ございません」


「私がオーダーしたってその通りやってくれないとゲームにならない」


「みずきちゃん落ち着いて。怒ったって上手になるわじゃないんだし……」


「だから上手くいかないのはあなたたちのせいでしょ? 私はちゃんとタスクこなしてる。こんなんじゃ勝てるわけがない」


 予想はしてた。


 どこかで毒舌が発動するって。


 でもみずきさんの意見を全否定できない。


 確かに僕たちは甘い動きをしている。


 確認不足。


 理由もない憶測。


 たぶん、たぶんって何回も言った。


 司令塔からしたらクソの役に立たない情報を発信されても答えが出せない。


 でもこのチームは僕と藤井さんがコールして、みずきさんの判断をあおぎ動くと決めている。


 もちろんカジュアルマッチと大会ではムーブが異なる。


 みずきさんが曖昧な指示を飛ばすから……って少し思っちゃった。


 でもバーサクモードに入ったみずきさんをどう改心させる?


 心の奥で「全て上手く進めばみずきさんの毒舌が発動しなくて済む」って考えていた。


 まあ早速座礁に乗り上げたらしい。


「私たちがどうするべきか教えて欲しいな。個人の問題はチームの問題だよ」


「言ってもどうせ理解してくれない」


「でも言わないとわからないこともあるよ?」


「みんな同じ事を言う。経験上知ってるんだから」


 妙に藤井さんが突っ込むなあ……


「明らかにいつものみずきちゃんじゃない。落ち着きもないし。何か抱えているんでしょ?」


「そんなわけない。大丈夫だから」


 そう言うが、声は震えているように窺えた。


「ダメ。スッキリするまで話して?」


「ちょ、ちょっと二人とも。大会の配信中だからミュートにするなりしないと放送事故に――」


「ほんじょーさんは静かにしてて」


「……っはい」


 僕は黙るがみずきさんはそれ以上に黙り込んだ。


 少しの間が空くとみずきさんは静かに言葉を発した。


「私、最近ずっと上手くいかなくて。配信もゲームも日常生活も。Amaterasuメンバーはどんどんステージアップしていくのに、私だけ取り残されている気がして」


「そんなことない。みずきちゃんは何でもそつなくこなす才能に溢れたVTuberです。それにゲームが全てじゃないよ」


「でもメインチームの座はかんなに取られた。本来はかんながゲストチームになる予定だったけど、私が不甲斐ないからそうしたんだと思う。だから大会で結果残さないといけないのに……」


「だから余裕のない感じが続いてるんだ?」


「……うん」


「話してくれてありがとう。全力で応援するから、もっと指示を出してほしいな。ねえ、ほんじょーさん?」


「う、うんその通り! みずユイスタンダードに最後まで尽くすとお約束します!」


 急に振られたからついお馴染なじみのフレーズが出ちゃった。


「第三試合は生まれ変わったかのようにプレイするから、二人とも元気出してね!」


「オー!」


 藤井さん……まるで別人みたいだ。


 あの時は丸投げするからよろしくね! って感じを受けたけど、今は自分先行で導こうとしてる。


 余りにも考えが甘い。人任せ。


 その姿はとうに消えている。


 僕だって負けちゃいられない。





「さあ行きますよ藤井さんみずきさん!」





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