2章 Amaterasuからの挑戦
第11話 小さな決意
一月某日。
冬の寒さが厳しさを増すなか、僕はいつもと変わらない日常を過ごしていた。
新年になったとはいえ特にアクションを起こしていないので、バイトと配信を繰り返している。
藤井ユイと関わったことで大反響を巻き起こしたけど、あれから変わったことはない。
どちらかと言えば消失感を覚えていた。
大勢に注目され評価もされてこれ以上ない快感を味わったことで「また同じ経験をしたい」「もっと凄いことを成し遂げたい」と思うようになった。
そこで生まれた疑問がある。
それはバイトと家の往復だけでいいのか? というもの。
このモヤモヤが日に日に大きくなっている気がする。
「みなさん今日も来てくれてありがとうございます」
『良いってことよ』
『同接増えてるね』
『春から働くのやだー』
『仕事しろ』
『お前もな』
「みなさんは将来の夢とかありますか? 今のところ僕はないです」
『社長』
『金持ち』
『キレイなお嫁さん』
『プロ野球選手』
『VTuber』
「あははVTuber良いですね」
『せやろ』
『ブサイクなんだからやめておけ』
『お前もやろ』
『顔真っ赤にして反論してるw』
「僕は家とバイトをシャトルランする毎日です。いつかは変わらなきゃって思うんですけど……」
『社畜するよりマシ』
『ほんじょーの年齢なら至って問題ない』
『バイトと配信で食っていけるのなら成功してる方だと思うよ』
『どうせおまいらは安月給でボロ雑巾になるまで働いてるんだろ?』
『このご時世、頑張ってもみんな一緒。ネットで食えるようにならないとキツイ』
「でもサラリーマンは安定するじゃないですか」
『そんなことない』
『サラリーマンエアプはそう言う』
『給料上がらないのに税金ばっか上がるから都心で働くなんて夢のまた夢。俺だって生まれる時代が違ければ、東京で仕事してたのに』
みんなそれぞれ複雑な思いがあるんだ。
やりたいことがあっても、環境が許してくれない人もいる。
じゃあ僕はどうだ?
衣食住は満たされている。
両親はフリーターと配信の道を許してくれた。
いや。僕の性格を知ってるから自由にさせてるのかもしれない。
いつまでこの生活が続く?
来年もモニターの前で喋ることが出来るのか?
藤井との件があったとはいえ、この同接が保たれる保証はない。
『ほんじょーの勢いなら配信一本でやっていける』
「そう……思いますか?」
『うん』
「どうしてですか?」
『だって名前売れたじゃん』
『売名だけでやれるのなら炎上商法でみんな幸せになってる』
『キッズの考えで草』
「まあまあそんな真っ向から否定しなくても」
『俺が思うにもっと太い配信者とコラボ出来ればいいと思う。大手の配信者って大手同士で案件やったり、企業のチャンネルに出たりしてるから、そういう繋がりを作れればきっと安定するはず』
『それだ』
『今の大手配信者ってまともに稼げない時代でも配信一本で成り上がってきたから、ほんじょーもバイト辞めて専念した方がいいんじゃない?』
バイト辞める……か。
バイトするから配信していいって許可されたようなもんだし……
『何かを得るには何かを捨てないといけないよ』
『いうてほんじょーは配信に広告つけてるし、バイト無しでも稼げるんちゃうんか?』
「贅沢は出来ないけど多少遊ぶくらい出来ますね。というか使い道がないですけど」
『ほんじょー自身はどうなりたいの?』
どうなりたい……か。
トラウマ
在学中、毎日進学なのか就職なのか聞かれていた。
将来どうしたいのか。どんな仕事したいのか。
考えがないのにどうって聞かれても答えられるわけない。
あの時ほど人を信用出来なくなったことはない。
でも藤井ユイとの一件で考えが大きく変わった。
今の僕なら「どうしたい?」が答えられる。
「配信で活躍したいです。お金とか人気とかじゃなくて、僕に出来るやり方で多くの人と関わり経験したいです」
『よく言った』
『なんだろう。ほんじょーが頑張るところを見ると自分まで頑張れるんだよな』
『じゃあ今年の目標を発表しようよ。新年の抱負は聞けなかったし』
「じゃあ今年は……数字で言うとチャンネル登録とSNSフォロワー一万到達。もっとコラボして、何かのゲーム大会とかも出たいです。そのために……」
「覚悟の証としてバイトを辞めます!」
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