第38話 昔の約束などすっかり忘れていたよ(涙目)


「儂は操られていたのか!? 素材の癖にそんなことをするとは」


 グリマスが不機嫌になる。


『すまぬな。しかし、お主がショートソードとして魔剣にしてくれたおかげで、我はこうして念話などの魔法が再び使えるようになったのだ。感謝する』


「魔剣になるまで、一部の魔法が使えなかったのか?」


『さよう』


「ふん。そういうことなら、許してやらんでもないわ」


 エラムとグリマスの和解がすんだところで、僕は改めてショートソードを振るう。


 エラムに言われて分かったことだが、このショートソードには竜玉に魔力を蓄積させることによって剣先や刀身から魔法を飛ばせる。


 これからの冒険者稼業をするにあたって役に立ちそうだ。


「これからはこのショートソードを魔剣エラムと呼びたいんだが、それでも良いか?」


『我はお主の所有物だ。好きにするが良い』


「良いなぁ。私も魔剣が欲しい」


 ナタリアがうらやましげな視線を送ってくる。


「そう言えば、魔道具の素材として扱いたい部分の目星は付いているので、それ以外のエラムの素材はあなたにお売りしますよ。それで武器を作っても魔剣にはならないと思いますけど。実は今日売る分の素材をマジックバッグに入れてきたのです」


「本当に!? やったぁ!!!」


 ナタリアが飛び上がって喜んだあと、フレアに抱きつく。


「暑苦しいのでやめて欲しいのですが」


「ナタリア様の作る装備はどんなのが良いんだ?」


 グリマスがナタリアに尋ねる。


「防具はバトルドレスで、武器はレイピアが良いなぁ」


「承知したわい」


「装備のことなのですが、私もグリマスに依頼をしたいです」


「えっ? フレアも? 急にどうして」


 確かに、冒険者でもないのにフレアが武器防具の依頼をグリマスにするなんて奇妙だ。


「魔導書ニブルヘイムを使って色々と魔法を試してみたいのです。軽く読み込んでみたところ、攻撃魔法が多そうなので、魔物と戦いたいなと」


「魔導書ニブルヘイム!? そんなもの私の家にもないのに、いつの間にか手に入れてたの!?」


「少し前に知り合いから貰ったのですよ」


「気前よく魔導書をくれる知り合い……」


「魔導書がどれだけ凄いものかは分からんが、フレアの嬢ちゃんになら装備を作ってやっても良い」


「ありがとうございます。それでは私は軽装のローブと杖を作って欲しいです。杖の形状はスタッフ型で。素材はこの辺りでどうでしょうか」


 フレアがマジックバッグから素材を取りだしていく。


「こっちがナタリアの分です」


「わー助かる! ありがとう」


「ふむ。これだけ上質な黒竜族の素材があるのなら、なんとかなるじゃろ。任せておけ」



 ◆❖◇◇❖◆



「フレアは魔物と戦うようなことを言っていたけど、冒険者ギルドには所属しているのか?」


 帰宅した僕らは、居間でくつろいでいる。


「一応、冒険者登録はしていますよ。お店を開いた当初は資金がなかったこともあって、自分で魔道具の素材を取りに行くこともありましたから。ただ、最近は基本的に購入することが多いですね。冒険者のランクも銀級で止まっています」


 あんまし冒険者として活動していないのにも関わらず、銀級なのは凄いな。ん?


「銀級ということなら、僕と同じランクじゃないか」


「そうなりますね」


「なら、一緒にギルドで依頼を受けないか? 僕は前衛でフレアは後衛職だし、上手く連携すれば効率良く依頼をこなせると思うんだ」


「もとよりそのつもりです」


「そうか。じゃあよろしく」


 フレアと依頼をこなすのはかなり楽しみだな。魔導書ニブルヘイムを手にした彼女なら、本当に強力な魔物の蔓延はびこるダンジョンにも挑戦できるかもしれない。


「まだ夕飯まで時間がありますね」


「確かに、太陽は沈んでいないものな」


「ではこちらに来てください」


 フレアに呼ばれた僕は作業場へと入っていく。


「ここに座ってほしいのです」


 作業場には、くすんだ黄色っぽい色合いの椅子が置かれていた。僕はフレアに言われた通りにそこへ座る。


 ガチャリ。


 手錠がかけられ、僕の両腕が椅子と繋げられる。


「あの、フレアさん?」


「ラースは言ってましたよね。私の実験に付き合ってくれると」


 僕は身体中から冷や汗をかく。


「そう言えば、ラマテール公爵家から効率的な拷問器具の開発を行うように依頼されていたんだっけか……」


 フレアは微笑む。


「思いだしてくれたようで何よりです」


 フレアが導線のあるスイッチを押そうとする。導線は僕の座っている椅子に繋がっている。


「ちょっと待ってくれ――うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 全身に電気が流れ、身体中が痛みだす。痛みはフレアが再びスイッチを押すまで続いた。


「その様子ですと、しっかりライトニングチェアは稼働しているようですね」


「全身に雷が通ったみたいで、凄く痛いんだが」


「ならば拷問器具としては合格ですね。今度は出力を上げてみましょう。その後は腕や脚など、一部分だけに雷を流すことによって痛覚はどのように反応するかを調べていくつもりです」


「噓だろ……。まだ続けるのか」


「続けるもなにも、まだ始まったばかりではないですか。安心してください。ちゃんと回復ポーションは用意しています」


「そういう問題じゃ――」


 カチリ。


「痛ああああぁぁぁぁ!!!!」

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