第9話 頭に血がのぼった奴は大体負ける

 やっぱりそうか。今日は迷彩効果のあるマントを着てきて良かった。もちろんフレアからの借り物なので、決闘が終わったら返さねばならない。


 さっさと勝たないと厳しいな。正直グレシャムと長期戦をして勝てるとは思えない。彼の方が明らかに体力があるし、なにより――。


 今度は【探知眼】を使う。


 ―――――――――――――――――――――――

【グレシャム・ベル】魔力量1020

 ―――――――――――――――――――――――


 ゴブリンキングよりも彼は多くの魔力を持っている。僕の方が魔力量は上だけれど、今のような魔法を使った攻撃をされ続けたらひとたまりもない。


 再び彼はハンマーを振るってくる。僕はそれをやっとの思いでかわしていった。


「さっきから避けやがって。鉄級のお前に勝ち目はないんだからさっさとくらいやがれ」


「やだね。それより、グレシャムはどうして僕にそんなつっかかってくるんだ?」


「お前が気に入らねぇからに決まってるだろ」


「それだけじゃないよね」


「なにが言いたい」


 グレシャムは一度ハンマーを振るうのを止めた。


「グレシャムの親ってもともと騎士だったんだってな。だけど、仕えてた貴族ともめたせいでクビになったとか。順調に行けば騎士になれたはずなのに残念だったな。そんなだから元貴族といううわさのある僕に八つ当たりしてたんじゃないか?」


「……くせに」


 うん?


「偽物のくせに! こっちが黙って聞いていれば調子に乗りやがって! もう許さねぇ! 絶対に殺してやる!」


 ハンマーが上から振るわれてくる。しかし、怒りに身をまかせての一撃なため大振りだからかわしやすい。


 振り下ろされたハンマーは地面に大きく突き刺さった。魔法を駆使しての一撃だったため、当然深く地面に埋め込まれている。


 今だな。そう思った僕はとっておきのアイテムを使うことに決めた。僕は懐から円盤型の魔道具を取りだす。スリップマインと言われているものだ。


 中にはスリップという魔法が込められている。僕はグレシャムの足元に向けて円盤を投げた。


「うわっ!」


 グレシャムの足元にあった摩擦まさつがなくなり、彼は滑って転ぶ。僕はグレシャムに近づくとショートソードで彼を攻撃する。


 もちろん、刃がついてない方でだ。じゃなきゃ殺してしまうからな。手足の骨をみね打ちで折ると、気絶させるために足で頭を蹴りつけた。


 ふぅ。なんとか勝ったか。僕はギルド長の方を見る。彼が僕を勝者だと認めてくれるだろうと思ったからだ。


 しかし、彼はなにも言わない。その直後、僕は下腹部を蹴り上げられ、吹き飛ばされた。痛みに悶えながらなんとか起き上がる。


 なんとグレシャムは起き上がっていた。


「残念だったなぁ! 俺には【骨折自己治癒】のおかげで骨折は治せるし、【根性】【踏ん張り】のおかげで気絶してもすぐに動けるんだよ!」


 僕は彼の魔法を確認する。


 ―――――――――――――――――――――――

【骨折自己治癒】……自身の魔力を消費して骨折を自己治癒する。

 ―――――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――――

【根性】……気絶した時、意識をすぐさま覚醒させる。

 ―――――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――――

【踏ん張り】……肉体や精神がボロボロになっても、気力を呼び起こし活動できるようになる。

 ―――――――――――――――――――――――


 なるほど。どうりで動けるわけだな。


「ラース! お前の切り札はもうお見通しだぞ! 魔道具でだまし討ちして俺を戦闘不能にする気だな! だがもうそんなことはさせねぇ!」


 グレシャムはまた僕に駆け寄ってきた。僕は懐から魔道具を取りだすふりをした。


「なんども同じ手に乗るわけねぇだろ!」


 彼はさっきよりも慎重に僕のことを観察している。またトリップマインを使ったところで今度は避けられてしまうだろう。


 だからこそ。


 今度は魔道具に頼らず、僕自身の能力ちからを使うことにした。


「束縛眼!」


 僕は迫りくるグレシャムの動きを止めた。


「な、なんだ!?」


 時間がない。何しろ、止められるのはたったの3秒だからな。僕は慌ててショートソードで切りつける。みね打ちなんてしてる場合ではない。


 刃のある方でグレシャムの腹を切り裂く。鮮血が辺りに飛び散った。


「ぐぐぅっ!」


 束縛眼の効果が切れたグレシャムは倒れ伏した。そのまま動く気配はない。探知眼で彼の魔力を見る。


 ―――――――――――――――――――――――

【グレシャム・ベル】魔力量32

 ―――――――――――――――――――――――


 かなり魔力を消費しているな。これならもう起き上がってくることはないはずだ。


「勝者、ラース!」


 ギルド長が宣言する。意外な結果だったのか一瞬周りは静寂に包まれていたが、すぐに観客たちは騒ぎだすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る