第4話 別に絡まれるのは良いんだけど、カツアゲはされたくない

 もくもくと煙が辺り一帯に漂う。


「やったか?」


「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」


 うなり声とともに黒い影が移動してくる。現れたのは頭から血を流しているゴブリンキングだ。


 ゴブリンキングは手に持った石斧を振りかぶってくる。僕はそれをショートソードでいなした。


 身体のところどころは焦げてしまっており、満身創痍まんしんそういといった見た目だが、まだ動けるのか。


 しぶといな。だが――。


「束縛眼!」


 再び石斧で殴りかかられる前に、ゴブリンキングの動きを止めてしまう。


「グギャ、ギャ!」


 その間にショートソードでゴブリンキングの頭を刈り取ってやった。


《レベルアップしました》


 ファッ!?


 噓だろ。さっきレベルアップしたばかりなのにまた上がったのか!? まぁ、格上の相手を倒すと一定の確率で大量の経験値が手に入ることもあるらしいし、そういうことなのだろうか。


《称号 【キングスレイヤー】を入手しました》


 流石にスキルの入手はないだろうと思っていたけど、なんか代わりに手に入ったぞ。


 ―――――――――――――――――――――――

 ラース・ヴィクトル 16歳 男 人間

 Lv12

 攻撃223

 物理防御120

 魔法防御145



 保有スキル【魔眼Lv2】

 保有魔法【探知眼】【鑑定眼】【映像眼】【束縛眼Lv1】

 称号【キングスレイヤー】

 ―――――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――――

【キングスレイヤー】……王を倒した証。攻撃力が100上昇する。

 ―――――――――――――――――――――――


 称号って手に入れるとステータスが上がるものなのか。正直これはかなりありがたいぞ。これなら《時雨の森》より2ランクくらい上のダンジョンにも挑戦できそうだ。


 僕は笑みを浮かべながらゴブリンたちの魔石を回収するのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


「ふぅ。ようやく着いたぞ」


 僕は木製のドアを開いて冒険者ギルドの中に入って行く。もう夕方なだけあって、すでに多くの冒険者たちが依頼を終え帰って来ていた。


 中にはギルド内にある酒場で飲んでる者も多い。


「お? これはこれは偽物・・のラースじゃねぇか」


 そのうちの一人、筋骨隆々の大男であるグレシャムに声をかけられる。彼は金級冒険者パーティー、《肉戦隊》のリーダーだ。


「未だにゴブリンを狩ってる偽物のおでましだーい」


「ははは。それ以上は言ってやるなよ」


 彼のパーティーメンバーたちが挑発してくる。偽物というのは僕のあだ名だ。


 風のうわさで僕が元貴族の息子だったことは知られている。しかし、元貴族で魔力量はあるくせにまともに魔法が使えないどころか、攻撃手段もろくにない僕は本当は貴族なんかじゃないのではということで、偽物の貴族という意味でそう呼ばれるようになった。


「グレシャムさん、ご無沙汰しております。それじゃあ僕はこれで」


 いつも通りに彼をはぐらかし、そのまま真っ直ぐ受付に向かおうとするも、僕はグレシャムに脚をひっかけられる。


 かわしてしまってもよいが、その後グレシャムになにされるかわかったものじゃないな。


 転んだだけで彼の鬱憤うっぷんが軽減されるというなら、ここは大人しく転んでおくべきだろう。もちろん、いずれ強くなったらお礼はたっぷりする必要があるけど。


「ラースよぉ。こんなのも避けられないとか、お前冒険者に向いてないんじゃねぇの?」


 グレシャムは薄ら笑いをしながら馬鹿にしてくる。周りの取り巻きたちもにやにやしながら僕のことを見ていた。


「いやぁ。グレシャムさんの身のこなしが上手いだけですよ」


 顔に無理やり笑みを浮かべて対応する。


「ははは。気をつけろよな!」


「ご注文をお届けにまいりました」


「おう! 待ってたぜ」


 ちょうど良いタイミングで酒と料理が運ばれてきたため、その後は特になにもしてこなかった。今日は運が良いぞ。


 僕はそのまま受付に行く。夕方なだけあって、少し混んでいたものの、やがて僕の番がやってきた。


「魔物素材の精算でしょうか」


「はい。お願いします」


 僕は背嚢からゴブリンやスライムたちの魔石を取りだす。


「以上でよろしいですね」


 さすがに一年以上冒険者をやっているだけあって、受付嬢とは顔なじみだ。なので彼女は僕がゴブリンとスライム以外の魔物を狩ったとは考えてはいないのだろう。


「いや、待ってください。これの精算もして欲しいです」


 今度は大きめの魔石を取りだす。ゴブリンキングの魔石だ。上位種なだけあって、赤い魔石はまるで宝石のように透き通っている。


「これはゴブリンキングの魔石!?」


 思わずといった様子で受付嬢は大声で驚く。


「ちょっと、大きな声を上げないでくださいよ」


「も、申し訳ございません」


「なんだよこれ! どうして偽物がゴブリンキングの魔石なんて持ってやがるんだ!」


 あーあ。間に合わなかったか。


「おいラース、どういうことだ! お前がゴブリンキングを倒せるはずがないだろ」


「それが、倒せたんですよ」


「嘘をつくな!」


「グレシャムの言う通りだ! まともに魔法も使えない、筋力もないやつがどうやってゴブリンキングを倒したって言うんだ」


 周りの取り巻きたちがはやし立てる。


「ちょっと待ってくれ、僕はレベルアップしてまともな魔法がつかえるようになったんだ」


 僕は強めの口調で反論する。しかし――。


「きっと盗んだに違いない」


 ぽつりと、呟くようにグレシャムは言った。


「そうだ! こいつはきっとゴブリンキングの魔石をどっかから盗んできたんだ! それ以外に考えられない!」


「違う! 僕は――」


「いったいなんの騒ぎかね?」


 言い争っていると、渋みのある声が聞こえてきた。声のする方向にいたのは、白髪をオールバックに整えた壮年の男性だった。


「あなたはギルド長!?」


 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。


「ユリア君、説明しなさい」


「はい」


 声をかけられた受付嬢がこれまでの経緯を話す。


 ギルド長は魔石を手にとってじろじろと眺めた。


「中々質の高い魔石であるな。これをラース君が倒したのか」


「そんな馬鹿な。どうせ噓に決まっている」


「ふむ。ではこういうことはどうかね? ラース君が本当にゴブリンキングを倒せるだけの強さがあるのか、グレシャム君と決闘をするというのは」


 まじかよ。グレシャムは金級冒険者だからなぁ。


「上等だ! ラース、逃げるんじゃねぇぞ!」


「グレシャム君はやる気のようだが、ラース君はどうかね?」


 二人の目線が僕を射抜く。拒否したらまた僕が魔石を盗んだといわれそうだ。ここは覚悟を決めるしかないな。


「分かりましたよ。決闘を受けます」

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