第2話 藍

  高嶋紀文は、変わらず大越百貨店のオープン待機に次の日も来た。

 前日、無くなった〝紫〟の蛍光ペンの事は、〝物〟に拘るというより、自分の記憶が正当でない事が許せなかった。

朝9時前にいつものように入場し、鍵をかり、エレベーターで9階へ向かおうとしていた。

エレベーターに向かって歩いていると前方に、赤いパーカーのフードを頭に被った〝小さな〟女の子が居た。

女の子は、エレベーターに並んでいる母親らしき女性に「ママ!行ってくるね!」と大きな声を出し、

後ろ向きのまま走り出し、高嶋にぶつかった。

女の子は、勢いよくぶつかったのでその場に倒れて泣き出してしまった。

高嶋は、慌てて女の子を起こし「頭ぶつけてないかい⁉︎大丈夫⁈」と話しかけた。

女の子の母親らしき人は、エレベーターに乗ってしまったのか?いなかった。

女の子は、泣き声ながら「だ、大丈夫!痛くないもん!」と強がっている。

高嶋は、女の子の衣服を叩いてやり、「どこへ行くの?名前は?」と聞いた。

女の子は「あおい」と言い、続けて「保育室」と言った。

高嶋は、「保育室か!一流百貨店は違うな!大丈夫かい?痛くない?」と聞いた。

藍は首を横に振り、半べそで通路の角に向かってはしりだした。 

高嶋は、まあ問題ないだろうと目的の9階へ向かった。


 売り場で高嶋は、いつもと同じように、〝点灯チェック〟を行なった。

今日は、昨日のような事もなく、順調であった。

只、蛍光ペンの5本セットは、1本欠け4本になっていた。


 11時を迎えたので、大越百貨店を後にした。

東京駅の地下をあるき、改札で入ろうとした時に、

定期がない事に気づいた!

何処のポケットを探しても見つからず、きっと百貨店内で落としたのだろう?とUターンした。

入場の手続きを再度して、バックヤードを探した。

が、見つからずEPSに向かった。

今日の担当箇所の電灯盤の前に定期の入ったカードケースは落ちていた!

「良かった!女房にキレられるところだよ!」と独り言を言い、カードケースを拾い上げた。

「なんじゃこりゃ!」とカードケースに目をやるなり驚いた。

ブラウンのカードケースには、赤のペンで書かれたであろう〝線〟が何本も書かれていた。

高嶋は、暫く理由を考えたが、思い当たらなかった。

「なんだろうな?昨日から不可思議な事がつずくな!」と独り言を言い放った瞬間、「まさか!」と

バックパックの蛍光ペンを探した。

〝赤〟の蛍光ペンは消えていて、

〝青〟〝緑〟〝黄〟の3本だけが、残っていた。

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