不可思議な百貨店
霞 芯
第1話 蛍光ペン
「あれっ?おっかしいな!」
高嶋紀文は、〝大越百貨店〟のバックヤードで自分のバックパックを弄っていた。
高嶋紀文 電気の施工管理を仕事としている。
普段は、新築の工事を担当しているのだが、〝大越百貨店〟の大規模な、照明交換工事にかりだされたのだ。
高嶋は、普段、上野にある事務所で着替え工具、
検査器などを持参し、上野から東京に9時に着くように移動するのである。
今日もいつもと同じように、忘れ物がないように、確認して上野を出た。
だが、「絶対入れたよな!〝蛍光ペン〟」そう言って荷物の中に〝蛍光ペン〟が入っていないのが、不服そうである。
高嶋の役目は、〝オープン待機〟と言い、昨夜、夜間工事で終えた照明に不具合があった場合に対応するため、バックヤードで待機するのである。
何があった場合は、電気工事士として対応しなければならないが、昨夜の内に確認されていて、
万が一はそうそう起きないのである。
平たく言えば〝ヒマ〟な仕事である。
生真面目な高嶋は、携帯を弄るわけでもなく、
ひたすら、11時がくるまで、待つのである。
〝蛍光ペン〟は昨夜工事された箇所の点灯チェックのために使うのである。
「俺!絶対入れた!指差し確認したからな!」
そう言って納得しなかったが、点灯チェックをしない訳にもいかず、渋々ボールペンで代用し、売り場に向かった。
その場所は、〝大越百貨店〟の9階で、貴金属や時計などを扱う売り場である。
高嶋が逆立ちしても、一生手の届かないであろう高額な商品が並んでいるのである。
高嶋は、売り場の店員さんに、昨夜照明を交換した旨を伝えチェックを始めた。
〝タグハレルヤ〟と言うブランドの売り場をチェックしている時に、一灯点灯してない照明を発見した。
〝厄介だな?〟高嶋は、iPadで図面を確認する。
その照明は、周りの照明と一緒の回路で、一灯だけついて、いないのに違和感を覚えた。
照明を外して接続を確認するには、〝ブレーカー〟を切って、また、天井のボードの〝粉〟が落ちるため、掃除がやり直しになり、出来ることなら、外したくはなかったのである。
高嶋は、ブレーカーを再確認する為に、EPSと呼ばれる電気シャフトに向かった。
「別におかしくないよな?」高嶋は電圧を確認し、
「職人の接続が甘いのか?」そうぶつくら言って、
盤を締めようとした時に、その該当ブレーカーの脇に〝紫〟のチェックが入っているのが、少し気になった。
高嶋が売り場に戻ると、さっきまで点灯していなかった照明が点いているのである。
売り場の女性店員に、「何かいじりました?」と聞くが「何もしてないわよ?それよりもう少し右を照らして欲しいのよね!」と言われて、釈然としないまま、照明の調整に入った。
高嶋は、いつもと同じ11時に大越百貨店を出て
山手線で上野に戻った。
不具合があったことは、夜間工事の責任者に伝達するつもりでいた。
タバコ屋でタバコを1本吸い、上野の事務所の自分の机についた。
机の上には、朝、絶対バックパックに入れたはずの
〝蛍光ペン〟の5本セットが置いてあった。
何故か〝紫色〟だけ無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます