夏の終わり、春の始まり

雨後の筍

夏の終わり、春の始まり

『コオロギ』、『ボールペン』、『竹藪』 所要時間:3時間




 清虫が鳴いている。


 暮れなずむ茜空は夏の名残のようで、でも夏の空はこんなに高くない。


 抜けるような青空にぽっかりと入道雲が泳ぎ、蝉が俺たちの夏はここにあると全力で叫び続ける、あの終わりない暑さ。


 いつでもうだるように絡んでくるくせに、そろそろ過ぎ去るんで支度してくださいね、みたいな顔してまたどこかへ行ってしまうあの憎たらしさ。


 俺はあの夏を捕まえ切れたことがいまだに一度もない。


 いつも俺の手の中をすり抜けて、じゃあまた来年、なんて、なんでもない顔して。


 俺は、いつになったらあの夏を捕まえられるのだろうか。いつか捕まえることができるのだろうか。




 清虫が鳴き始めると、毎年遠くを想う。


 ここ数年は、こんな田舎でもインターネットの波のおかげで別段距離が離れたと感じることは少なくなった。


 メッセージは毎日欠かさず送ってくるし、声を聴きたきゃ電話すりゃいい。


 明日の予定も知ってるし、昨日食った昼飯もわかる。なんなら毎日顔を突き合わせている友達のことよりも詳しいかもしれない。


 それでも、だからこそ、まるで透明な壁がそこにあるみたいに、その心に触れることができない。


 俺の事、どう思っているのだろうか。


 手慰みにペン回しをしながら考える。目の前に広がる数学の宿題よりもよっぽどの難問だった。


 宇宙みたいに選択肢がたくさんあって、深海みたいに何も見通すことができない。もしかしたら、なんとも思ってないのかもしれないし、嫌ってすらいるのかもしれない。


 そんな相手とこれだけ密にやり取りするとは思えないから、それがどんなものにせよ好意を持たれていることは分かっている。


 分かってはいるが、不安になるのを止めることはできない。それは友愛なのか、親愛なのか、それとも……。


 いっそのこと、何も脈がないのなら楽だった。こんな俺に、笑いかけないでくれたなら。それだけで、俺は悟った顔して前を向いて歩いて行けたのに。




 でも、夏は毎年やってくる。


 昔はよかった。ただ遊んでいるだけで楽しかったから。


 川で水遊びして、かぶと虫を捕まえて、ひまわり畑を駆け抜けて。


 スイカを食っては顔を赤く汚して、花火を見ては満面の笑顔を浮かべて。


 そして、俺たちだけの秘密基地で、二人仲良く昼寝して。


 ただそれだけのことが、どれだけ幸せだったか。


 今だって、やることが変わったわけではない。


 こんな片田舎でやることがそうそう変わるわけもない。


 でも、川で釣りして、家で育てているカブトムシの幼虫を見て、向日葵畑の遊歩道を歩いて、スイカを食べては種を吐き出して、そんな日々は、あの懐かしき夏とはどこか違うそれなのだろう。


 花火大会も……数年前に開催しなくなってしまったから、あの大輪の光華は思い出の中でだけ咲き誇っている。


 


 あと残っているのは……秘密基地。


 残っていると言っていいのだろうか。


 近所の竹藪の中にあったそれは、もう子ども時代にだけ存在した俺たちの無茶の1つだった。


 小学生が二人でできる工作なんてたかが知れたもので、秘密基地と言ったって、精々が余った材木で小屋っぽいものをこしらえただけだ。中に毛羽だってもう使えなさそうなカーペットを敷いて、それで完成。


 それでも、他の歳の近い子どもたちにも近づけさせなかった、二人だけの大事な場所だったのだ。


 もう行かなくなって久しいから、どんな有様になっているのか、見当もつかない。




 ……行ってみようか。


 夏が本当に終わる前に。


 彼女と一緒に。




 空を見上げる。


 すっかり秋めいてきた空は、それでもまだどこか踏みとどまるように、夜色のグラデーションを描いている。


 陽が沈む瞬間の、夕闇が夜に吞み込まれる空の色が好きだ。


 それは別れの色だけど、また明日も出会えるって約束の色でもあるから。


 夏の終わりに、彼女と一緒に見る色だから。




 夏休みの宿題なんて放り出して、蚊に食われるのだけは勘弁だから虫除けスプレーを取り出して、そして、俺は立ち上がる。


 彼女を探そう。


 今の時間なら、厨くりやで料理の手伝いをしているか、部屋でゲームをしているか……散歩に出ていることもあるか。その時はその時だな。今日は下見だけしよう。




 そして一歩を踏み出して、家中探し回った俺は、どこにも彼女の姿が見当たらなかったことにがっくりうなだれるのであった。







「ここに来るのも、久しぶりだな」




 空がいつまでも真っ赤に染まっていると、まだ夏なんだなと安心する。


 他の季節だったら、太陽はすぐに沈んでしまって、俺を照らすのに飽きてしまったのかと僻んでしまうから。


 そんな西日に照らされて、琥珀色に輝く竹藪はどこか幻想的だ。まるで王宮のように荘厳に、主である俺をその中へと誘おうとしている。


 どうやら昔使っていた細道はまだ残っていたようで、そこだけが人の歩ける広さを保っていた。子どもの頃はまったく気にしなかったが、この年になると流石に狭さを感じる。


 いや、当時から二人並んで歩くとギリギリだったような気も……その割には、縦に一列になるとかはなかったな。


 つないだ手も、離さなかった。どんなに暑くて汗ですべっても、どこでも一緒にいられるように。置いてかないように、置いてかれないように。


 やはり数年ぶりだからだろうか。歩いていると、昔のことが次々と思い出される。


 二人で昼寝したこと。気づいたら蛇が彼女の服の中に入っていて、大騒ぎしたこと。伯母さんに叱られて拗ねた彼女を慰めたこと。ガキ大将と喧嘩して怪我した俺を、彼女が手当てしてくれたこと。雨が全然防げなくて、合羽を着て二人で踊り狂うしかなかったこと。


 ……色んな、思い出がある。




 いつからだろうか。彼女があの透明な笑みを浮かべるようになったのは。


 在りし日の思い出の彼女のように、太陽みたいに笑わなくなったのは。


 それは、俺らが秘密基地に行かなくなったのと、同じ頃だった気がする。


 俺が中学に入って、いっちょ前に意地を張って、彼女を遠ざけてしまった頃だ。


 花火大会がなくなった、最初の夏だった。




 そう、今でも覚えている。思い出したくないだけだ。


 俺のちっぽけな自尊心が、彼女の心を傷つけた瞬間を。


 俺が、彼女の、笑顔を、奪ったのだ。




「優まさる?」




 だから、その姿をそこに認めた時、俺の思考は確かに停止していたのだと思う。


 もしかしたら、脳みそだけじゃなく、心臓まで止まっていたかもしれない。


 だって、今の今まで気にしていた当人が、さっきあんなに探して見つからなかった本人が、まさか目的の場所にいるなんて、そんなこと偶然だってあり得ない。


 そう、偶然であるわけがないのだ。




「美織……なんでここに?」




 それがどれだけ白々しい問いだったか。


 俺の心臓は止まったかと思えば、今はただただ鼓動を刻むので忙しいらしい。清虫の声がうるさいくらいなのに、耳に入ってくるのは、だむんだむんと重たいものが胸のうちで弾む音だけだ。




「あー、なんでかって聞かれると私も困っちゃうんだけどね。そういう優は?」




 最初は呆けた顔をしていた彼女美織は、何か納得したように1つうなずくと、いつもの飄々として掴みどころのない笑顔を浮かべ、こちらに問い返す。




「いや、その、なんとなくで……」




 まただ。


 あの時から、彼女にあの笑顔を浮かべられると、なんだか言葉が詰まってしまう。咎められているような、赦されないような。そんな心持ちで、俺はどうにも縮こまってしまう。


 もっと自由に、心のうちを彼女に打ち明けることができたのなら、そうしたら。


 なんて。




「昔、二人でここで遊んでたろ。それが今どうなってるのかちょっと気になって……思い立ったから来ただけで、深い意味とかは、ねぇんだけど」




 急に出来たら何も苦労しないわけで。


 俺が不器用なだけなのか。クラスの陽キャ君なら、何事もないように器用にやってみせるのだろうか。


 なんだか、彼女の視線が心なしか甲斐性なしと罵っているように思えてきた。


 甲斐性なしにも、甲斐性なしなりの理屈があるんだよ! と反論したいが、いきなり何言ってんの? と冷たく言われたらもう立ち直れる気がしないので、ここは静かに受け止めよう。所詮は被害妄想の類だ。視線だけでなく思考までもが迷走している。




「で、美織はなんでだよ。もうすぐ飯の時間だぞ。陽だってもう落ちちまうし」




 何とか立て直して出た言葉がそれなのだから、素直さとはもう縁がないのかもしれない。


 ええい、何のためにここまで来たと思っているんだ。下見のつもりだったから、全然想定してなかったぞこんな状況。


 いや、むしろ、美織が家にいたら、この考えなしの状況でここに来ないかって誘うことになっていたのか……?




 ……まぁ結果的にオーライということにしよう! これが最善の状況だ!




「優はなんでだと思う?」


「さっきから聞いてばっかりじゃねーか。なぞなぞ博士にでもなっちまったのか?」




 だから、落ち着くまで、それとなく会話を続けるんだ。


 そして、こう、いい感じの雰囲気に、どうにかして高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応していこう。




「なぞなぞ博士って……ふふ、何それ、優って時々変なこと言うよね」




 ほら来た!


 美織が、くすくすと笑っている。


 なんだか、家で笑っている時よりも自然な感じがする。年相応に笑う美織は、久しぶりに見たかもしれない。


 なんだか、顔が熱くなってきたな。夕日の角度が変わったかな?




「はいはい、俺はしょっちゅう変なこと言うやつですよ。で、こんなとこで何してたんだ? 中に入ってなかったってことは、どうせ、もう腐っちまって使えなくなってんだろ、秘密基地」




 別に照れ隠しでも何でもないのだが、早口でまくし立ててしまう。


 憎まれ口みたいになってしまったが、そこまでおかしなことは言っていないだろう。


 どっからどう見ても、その木材のかたまりは、もう小屋の体を成していないのだから。それは、美織にとっても自明のことだろう。




「秘密基地って呼び方、懐かしいね」




 さっきまでの笑いを引っ込めた美織は、後ろで手を組んでまたあの笑顔を浮かべる。


 どこか遠くからこちらを見る、遠く……から?




「優がどう思ってたかは知らないけどね。私は、二人でここで遊ぶのが大好きだった」




 本当にあの視線は、遠くからのものなのだろうか?




「一緒にお昼寝したり、特に意味もなく走り回ったり、ただお話してるだけでも楽しかった。チャンバラごっこしたことなんかもあったっけ」




 あの視線の距離が遠いのはその通りかもしれない。


 でも、それは。




「怪我してギャン泣きする優に手当てしてあげた時もあったよね。男の子なんだから泣かないのって言ったら、強がって口結んで耐えようとしてさ。でも、消毒液が滲みるとやっぱり泣き言をこぼすんだよね。あの時の優には可愛げがあったのになー」




 遠くからじゃないんだ。


 そう、それは。




「……お母さんに怒られて、泣いてた私を慰めてくれたよね。後から思い返すとほんっとうに恥ずかしいけど、すっごい嬉しかったのを覚えてるよ」




 俺と一緒だ。


 美織の目は、遠くから俺を見ているんじゃなくて、遠くの俺たちを見ていたんだ。




「ここは、私にとっての宝物なんだ」




 今の美織は笑えてないんだ。


 昔を思い出して、あの頃の俺らを見て笑みを浮かべているんだ。


 今の俺は、美織を笑わせることが、できていない。


 美織が太陽みたいに笑ってくれないのは、俺が不甲斐ないから。


 それって、それって、なんて。




「毎年、少しの間だけ触れられる、本当に大切な一番の宝物」




 甲斐性なしの意気地なしなんだ?




「優はもう忘れちゃってたかもしれないけど、私は毎年、ここに通ってたよ。あの頃は楽しかったなー、毎日馬鹿みたいに笑って、アホみたいに遊び惚けて。そんな風に、昔を思い出すのが好きだった」




 本当に好きだって言うのなら、そんな表情浮かべるなよ。


 それは、悔やんでいる奴の顔じゃねえかよ。


 鏡を見りゃわかるよ。


 毎朝見てる顔と全く同じ表情してやがる。


 透明な笑顔を浮かべていたのは、俺もだったんだ。




「だけど、それも今日で終わりにしようかなって」


「え?」


「昔はよかったなんて、いつまでも懐古厨してたって、どこにも行けやしないし。この小屋も、去年はまだ中で座ることもできたけど、今年はもう座面の底が抜けちゃっててね、中に入っても立ちっぱなしの待ちぼうけ」




 「ただ辛いだけだって気づいたの」そこまで言って、美織はくるりと後ろを向いた。


 俺から顔を背けるみたいに、空を見上げて。


 陽はもう傾ききって、竹藪の中にいることも相まって、あたりを暗闇が包もうとしている。




「だから、もう今年で、今日で終わりにしちゃおうって。明後日には東京に帰るし。そうしたら、来年は大学だし、家出て一人暮らしするつもりだし、もうここにも来ることはないかなって」




 「こんな田舎、花の女子高生が来てる方がおかしいって。カフェどころか、喫茶店ですら山降りないとないって相当だからね? 我慢できなくたって仕方ないよ」そう言う美織の声は、どこか震えていた。


 その声の震えが、記憶のどこかのそれと重なる。


 最後まで聞けば思い出せるだろうか。


 俺はあの時、どうしたんだっけ。




「そう、思ってたんだけどなぁ」




 ハッとした。


 振り返った美織の頬には、涙が流れていた。


 美織が、泣いてる。


 それ以上に今大切なことがあるだろうか?


 昔とか今とかどうでもよくないか。


 ただ、俺は美織には笑っていてほしくて……。




「なのに、やっと気持ちの整理がついたと思ったら、なんか優来るし。今まで、そんな素振り全然見せなかったくせに、いかにも大切な思い出ですみたいな顔してさ。いつもみたいにすかした態度とってればいいのに! 大切なら! 大事だったなら! なんでそれを……!?」


「俺は!」




 ああ、ただ、俺が怯えていただけなんだ。


 一度でも美織を傷つけてしまったから、今度こそ取り返しがつかないことをしてしまったらって、そう思ってたつもりだった。


 違うんだ。


 美織を傷つけたくなかったんじゃない。


 俺が、美織に嫌われて、傷つきたくなかっただけなんだ。


 だって、現に美織は傷ついてる。


 俺が、ずっと美織のことを蔑ろにしてきたからだ。


 距離の近い従妹以上の扱いをしてこなかったからだ。


 俺は。俺は!




「俺は! 馬鹿だ!」




 そう俺は馬鹿だ。馬鹿だから間違えるし、馬鹿だから美織を傷つける。


 でも、俺は馬鹿だから、言葉を選ぶ余裕もない。


 だから、馬鹿正直に全部伝えよう。


 馬鹿が馬鹿なりに、一生懸命伝えよう。




「馬鹿だから、自分のことで精いっぱいで! 馬鹿だから、美織が悩んでることとか全然気づけなかった! 馬鹿だから、意地張って美織のこと遠ざけるし! そのくせ馬鹿だから、それで美織が心から笑ってくれなくなったとか被害者ぶる!」




 そうだ睨みつけろ、恨め、怒れ。


 もうそんなものに怯える俺じゃないぞ。


 今の俺は馬鹿だから無敵なんだ。




「俺はただ! 昔みたいに、美織に笑っててほしかった! 太陽みたいに笑う美織が好きだったから! 俺がそれを曇らせちゃいけないって、ずっと遠慮してたんだ! 美織は、俺がいなくなってきっとずっと笑っていられるって、馬鹿だからそう思ってたんだ!」




 もうこうなったら止まれない。


 全然そんなつもりじゃなかったのに、一世一代の告白タイム開幕だ。


 もっとオシャレなレストランとか、なんかよくわからん埠頭かなんかでする予定だったけど、取らぬ狸のなんとやら。


 そもそもなにも掴めていない、掴もうとしていなかった俺にできることは、ただ手を伸ばすことだけだ。




「違ったんだよな! 俺がいないと笑えないんだよな! だってここ最近ずっと笑い方おかしかったもんな! いいな、自惚れちまうぞ!? 美織には俺が必要だって、隣近所全部にふれ回ってやる! 文句あるか!?」




 もう男らしさも世間体もなんもかんもいらねぇ。


 ただ、言いたいことだけ全部言おう。


 しっちゃかめっちゃかな言葉で、でも、全部本心だ




「俺が、もう一度、隣でお前を笑わせてやる。文句があるなら、こっち来て言え」




 俺に遮られた言葉を吞み込んでいるのだろうか。


 美織は、ただ、涙目でこちらを睨めつけるばかりだ。


 正直、勢い任せにしゃべったから、自分でも何を言ったかよく覚えていない。


 けど、嘘は一つだってついちゃいない。はずだ。


 心から出る言葉だけで喋ってるんだから、そのはず。


 事ここに至って、気取った言葉とかは使ってない……よな。


 あまりにも美織の反応がなさ過ぎて不安になってきた。


 え、何か気に障ること言ってないよな? 言ってたとしてももう後の祭りなんだけど。あああああああ、よくわからんけど、なんか上手くいってくれ~~~。




 あれだけ威勢がよかったのは過去のもの。


 今の俺はしょぼくれたきくらげみたいになっている気がする。


 もうこの際上手くいくとかいかないとかそういうのどうでもいいから、この気まずさから解放してくれ美織大明神様!


 そう考えていたのが伝わったのだろうか。


 美織はため息を一つつくと、その整った形の眉を落とした。




「優……マサ君ってさ、なんて言うか、馬鹿だよね」




 罵倒だ。


 でも、心のこもった罵倒だ。


 美織はまだ泣いている。


 泣いているけど、もうその涙を拭う必要はないのかもしれない。




「でもって、私も馬鹿」


「美織……」


「昔みたいにみーちゃんって呼んでよ」




 そう言って、美織――みーちゃんは、笑った。


 それは、涙の雨が降り注ぐ中にふと現れた、太陽だった。


 花火のように大輪とはいかず、雲の隙間から覗くような微かなものではあるけれど、俺にとっては十分すぎるほどの眩しさがあった。


 だって心配する必要はない。


 太陽はまた昇るし、止まない雨はないのだから。


 




 その後のことを話す必要はないだろう。


 家に戻ったら、晩飯が何故か赤飯だったとか、通う大学がたまたま一緒で、住む家もたまたま一緒だったとか。




 もう二度と言葉を違えないようにと、引き出物はボールペンだったとか。


 その程度の話しか残っていないのだから。

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