キネマ森〜映画の記憶が眠る場所〜

涼森巳王(東堂薫)

第2話 お父さんは革命家



 これもヨーロッパの映画だった。フランス映画だったのか、スペインとか、そのへんのほかの国だったのか。


 これも映画1と同じで近親相姦の話でした。タイトルなどはおぼえてません。


 とあるところに上流階級の青年がいます。お父さんが革命家として成功し、国の要職についている。道を歩けば、父の自伝が本屋で平積みにされるほどの有名人。父は国の英雄。ただし、家庭的ではなく、あまり家にはいない?


 青年(黒髪でちょい長めの髪。長身だった)は大学生で成績も優秀。父を尊敬し、自分も一流の人になりたいと願っている。映画冒頭では自分の才能を信じ、ようようたる未来に満ちあふれている。自信家。


 在学中に小説(純文学)を書き、すでに大手出版社から出版が決まっていた。その発売を記念してテレビ出演し、評論家とトークバトルショー。負かしていっきょに人気者になろう。これさえ成功すれば、君の将来の成功が約束される!


 父の自伝にならんで自作品がならぶ。人生でもっとも輝かしい日。


 ところが、この本を見かけた一人の女。じつはこの女性、映画冒頭からチョコ、チョコっと顔を出していた。恵まれない生活をする難民として。


 つまり、この映画では勝ち組として主役が、負け組として難民女性が描かれていた。貧しい暮らし。白人系の主役とは裏腹に褐色の肌の女性。美人だが、主役の国から見たら異邦人。


 ある日、主役の邸宅にこの女性がたずねてくる。戸惑う主役に対し、「わたしはあなたの姉です。あなたの父が革命前に、わたしの国で母と婚姻していたのです。あなたの本を読んで、あなたの存在を知りました。迷惑になるとはわかっていたけど、どうしても弟に会ってみたくて」


 最初は半信半疑だった主役だが、姉だという女性と話すうち、その高い知性と教養に魅了される。また、自分の知らない父の話をしてもらえることが嬉しかった。父を尊敬はしているが、遠い人でもあったので。


 姉は母と二人で自国から避難してきていたが、その母は他界していた。異国でたった一人になった姉。生きていくために金で体を売ったことも……。


 孤独な二人。

 たがいのなかにある虚無を埋めあうように、急速に親密になっていく。

 主役は経済的に困窮している姉を自宅にひきとり、いっしょに暮らす。

 姉にのめりこんでいく主役のようすを心配し、親友が彼女から離れるよう忠告する。


「あの人は君のためにならない。君は今、大事な時期じゃないか。テレビ討論会が成功するかどうかに君の未来がかかってるんだぞ。こんなときにあんな安っぽい女に夢中になってるだなんて。そもそも、あの女、ほんとに君の姉だって証拠があるのか? 金めあてで近づいてきた娼婦だ」


 しかし、彼女を悪く言われた主役は逆に激昂し、親友にも会わなくなる。


 そんなころ、テレビ討論会があった。が、なんの準備もしていなかった主役はろくなトークもできず、質問にも答えられず、黙りこんで立ちつくす大失態。出版社からも評論家からもテレビスタッフからも見限られてしまう。


 すべてのイヤなことから逃避するように、ますます姉を求める主役。ついに一線をこえる関係に……。


 序盤、あれほど輝いていた将来の展望が、姉の住む暗い世界に完全にひきこまれてしまった。破滅しか待っていない。


 暗闇の底でただ身をよせあう獣のような二人。

 だが、そんなある日、ふとした機会に、父の自伝(表紙は父本人の顔写真)を見かけた姉。


「これは誰?」という彼女に愕然とする主役。


「何を言ってるんだ? 僕らの父だろう?」

「えっ? でも、この人は父じゃないわ」

「そんな……君は父の名は〇〇〇〇(フルネーム)だと言ったじゃないか」

「父は〇〇〇〇よ。でも、この人は父じゃない」


「君は嘘をついたのか? 僕をだましてたのか?」

「違うわ。だましてなんていない。わたしはほんとに、あなたの姉よ。母は死ぬ前にそう言ったのよ。お願い。信じて」


 思わず、姉の手をふりはらってしまう主役。屋敷をとびだし、街をさまよう。

 いくらか落ちついて家に帰ると、姉は絶望して自殺していた。


 その後、たしか、画面がひいていって、邸宅の外に銃声が聞こえてくる……みたいなラストだったように思う。


 とにかく、救いようがないほど暗く重い話だった。ヨーロッパの映画にはこんなのが多い。アンハッピーエンドこそ至高と思われているのか。


 じつは途中まではよくおぼえてるんだけど、たしかラストは二人とも死んだよなぁ? という、ふわっとした記憶しかない。

 自殺した姉を抱きしめて号泣するシーンがあったような?


 愛に翻弄された青年が未来をふった話。深い深い孤独。


 なんだけど、ずっと忘れられない話ではある。


 画面も最初は明るく陽光にあふれていた。じょじょに影が多くなり、最後のほうは画面全体が暗かった。


 監督の伝えたいことはなんだったんだろう?

 ただ単にヨーロッパでは悲恋が好まれるから?

 それだけでもないような?


 こういう消化しきれない感情の残るのが、フランス(ヨーロッパ)映画の醍醐味。


 たった一度見ただけなのに、たまに気づくと、あの仄暗い画面に、心が吸いよせられているときがある。

 消せない何かを僕のなかに残してくれた。

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