第7話 事実はどうあれ
2021年9月下旬の土曜日、
「失礼します。先生、オレに何かご用でしょうか」
「ああ、呉君。ちょっと君に伝えたいことがあるからそこに座ってくれ」
自由民生党所属の大阪市議会議員であり学生部に出入りしている公祐の身近な世話役でもある彼は公祐を今日この事務所に呼び出し、ある
事務所の低いテーブルの片側にあるソファに座った公祐に、向かい側のソファに腰かけた議員は数枚の写真とA4サイズの文書を差し出した。
「これは……」
「君がプライベートで女性とデートしている現場の写真だよ。場所は京都市内。この近くのLGBT団体の構成員が偶然目撃して、撮影した写真をあろうことかこの事務所に送りつけてきた。これがどういうことだか分かるか?」
相手の素性は当然知っている公祐に、そうでない議員は事の重大さを告げた。
「君自身よく分かっている通りわが党は実情はどうあれ保守政党だからLGBTをはじめとする性的少数者からは人気がない。彼らの権利について真剣に考えているかも疑わしい野党から票を奪うべく、我々は君のようなLGBTの当事者を出馬させたいと考えている訳だ。なのに君が自称同性愛者、俗に言うファッションゲイだという噂が広まったらどうなる。当然野党やそのシンパは政治家になろうとする君を攻撃するだろう」
「仰る通りです。実を言いますとこの女性はオレの恋人である男性が女装した姿でして……」
「そうなのか? まあこの政党にとっては君が純粋なゲイかどうかはさして重要ではないし、もしこの写真に写っているのが女性だとしてもそれは君の勝手だと判断するがともかく足をすくわれないように気を付けてくれ。政治家としての経験を積ませる意味も兼ねてこの問題の解決は君に任せるぞ。分かったな」
事実はどうあれ妙な噂は立てられるなと言い含めた議員に、公祐は彼なりの思いやりを感じつつ承知致しましたと答えた。
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