2021年10月 大人のカンケイ
第1話 甲子園球場
久々に訪れた甲子園球場の熱気は、10月の空気の
そういう文学的な表現は得意やないし、今はそないなことを冷静に考えている場合でもない。
「行けー、そこで一発決めたってー!!」
グラウンドでは阪神タイガースの遊撃手が中日ドラゴンズのピッチャーの投球を待っていて、うちは前列の客席から声援を送っている。
その名の通り真っすぐに投げられたストレートを遊撃手は的確なタイミングで打ち返し、ツーベースヒットを見届けたうちは拳を握ってよっしゃ、と呟いた。
「カナちゃん、今日の阪神めっちゃええ感じちゃう? これやったらクライマックスも期待できるかも」
「まだまだ油断でけへんけどうちもそう思うで。明日からも一緒に応援しよな」
右隣に座る
2021年10月3日、日曜日。うちはコロナ禍が始まってから初めて球場を訪れていた。
新型コロナウイルスの感染拡大が日常になってからもうすぐ2年が経つし、大学では今月末にCBTがある。
本当やったら野球を観戦しに行ってる場合やないけど、幼い頃から応援してきた阪神の試合はそろそろ久々に見に行きたかったし勉強はコツコツやってきたからそんなに心配はしてない。
何より、こんなご時世やからこそ珠樹と2人きりで遠出できる機会は大事にしたい。
隣にいる珠樹が応援の声を張り上げる姿に目をやりつつ、うちは今この時間を大事にしようと思った。
その日の試合は阪神が1対0で中日に勝利し、うちと珠樹はホクホク笑顔で帰り道を歩いていた。
長袖のジャンパーを着ている珠樹に身体をぶつけると、うちはそのまま珠樹と腕を組んだ。
「今日はカナちゃんと甲子園来れて嬉しかったわ。本当は遠出したら怒られるねんけどワクチンも打てたし大丈夫やろ」
「確かに珠樹は仕事があるもんな。うちより抗体価は高い思うし大丈夫ちゃう?」
新型コロナワクチンについてそれらしいコメントをしてあげると珠樹は笑顔で頷いた。
うちは今年の6月、珠樹は9月にどちらも大学で2回目のワクチン接種を済ませている。
コロナ禍も2年目を迎えてうちが現在医学部4回生をやっている畿内医科薬科大学では実習は対面式に戻ってきてるけど、珠樹が経営学部2回生をやっている立志社大学はまだまだオンライン授業が主体となっている。
文系学部なので手を動かす実験や施設での実習がある訳やないし図書館の資料も今時は学生の自宅のパソコンから電子版を見れるらしいけど、サークル活動もなく同級生の顔と名前すら覚えられない大学生活はかわいそうやと思った。
「にしても今日はちょっと眠いわ。明日も4時間シフト入れてるし帰ったら晩ご飯食べて風呂入って寝よかな」
「大変やね。今日はうち泊まってく?」
「そうしてもええ? 朝早起きして帰れば授業には間に合うし」
オンライン授業が続く大学生活で珠樹はアルバイトに精を出している。
といっても飲食店や遊興施設のアルバイトはこのご時世では安定せえへんし珠樹は曲がりなりにも株式会社ホリデーパッチンの次期社長なので、お金のためにアルバイトをする必要はない。
珠樹が務めているのはこのご時世でもあんまり影響がなく、珠樹がわざわざ働くだけの理由がある所で……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます