最終話 気分は嬉しい距離感
ということがあったのは2020年の話で、2021年8月中旬の現在は僕も壬生川さんも無事にカラオケボックスに行けている……
訳でもなかった。
「あーもううんざり! 緊急事態宣言が出る度にカラオケ閉まっちゃうなんて理不尽よ! エビデンスはどこに行ったの!?」
「まあまあ、僕らももうすぐCBTだし勉強する時間だと思おうよ」
今年の夏休みも何だかんだで壬生川さんの実家に来ている僕に、壬生川さんは日頃の不満を口にしていた。
僕も壬生川さんもつい先月大学で新型コロナウイルスのワクチン接種を2回済ませた所で、壬生川さんのご両親は2回のワクチン接種を済ませたらヒトカラ限定でカラオケボックスに行ってもよいと娘に伝えていた。
しかし現在は大阪府内に緊急事態宣言が発出されており、京都府内に発出されるのも時間の問題となっていた。
カラオケボックスでは今に至ってもクラスターがほとんど報告されていないが、新型コロナウイルス流行の第5波の最中である今は緊急事態宣言の発出地域で酒類を提供する飲食店に加えてカラオケ店にも休業要請が出ていた。
酒類を提供する飲食店やカラオケ喫茶・カラオケバーはともかくカラオケボックスが新型コロナウイルス感染のリスクが高い場所であるという
ごく一部のカラオケボックスは自治体からの要請を突っぱねて営業を継続しているらしいが、そこを狙って行けるような社会情勢でもなかった。
「悔しいけどあたしは今日も歌うからね。あんたも何か新曲覚えてきた?」
「うん、今やってるドラマの主題歌とか覚えてきたよ。……それにしても、このマイク1年以上も使うことになるとはね」
壬生川さんは僕が昨年プレゼントしたワイヤレスマイクを今も愛用していて、使用後はアルコールで消毒して同じものを使い続けてくれていた。
「そうね。あんたがあの時これを買ってくれてなかったら今みたいに自宅カラオケ楽しめてなかったと思う。改めて、ありがとう」
「彼氏なんだしそれぐらい当然だよ。あと、カラオケを口実に堂々と壬生川さんの部屋に入れる」
「下心見え見えじゃない……。それならそれで、あたしもサービスしないとね」
壬生川さんはステイホーム生活でもカラオケを楽しんでいて、彼女の強気な姿勢はいつも僕に元気を与えてくれる。
2人でカラオケに行きにくくなった昨今だけど、お互いの距離はかえって縮まったような気もするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます