241 気分は……
2人でホテルの客室に戻ると、壬生川さんは入浴前に僕に厳命した。
「今からお風呂入るけど、その間洗面所入っちゃ駄目だからね。トイレは今のうちに済ませといて」
「いやまあ一緒に入ろうとは言わないけどさ、それぐらい気にしなくていいんじゃない?」
「いくら付き合ってるからって身体洗ってる所見られるなんて嫌! いいから言うこと聞いて!!」
「は、はい……」
彼氏としては非常に残念だが壬生川さんの意見はもっともだったので、僕は今のうちに洗面所から続くトイレに行っておくことにした。
壬生川さんが入浴している間に僕も風呂に入る準備をして、着替えなどを一通りまとめると僕はベッドに寝転がった。
ベッドは洗面所から反対側の壁際に2つ並んでいるが、ここからでもシャワーの音が聞こえてくる。
(よく考えると今、壬生川さんは裸なんだよな……)
当たり前のことを想像すると僕の脳内にひしひしと緊張が走ってきた。
今日は壬生川さんにそういうアプローチをしたいのに彼女の裸を想像して緊張しているようでは駄目だと考え、僕は雑念を脳から振り払った。
頭の中で彼女にかける言葉のシミュレーションをしていると、彼女はいつの間にか入浴を終えて出てきていた。
「お疲れー。私、そろそろ眠いからベッド入ってるね。シャワーの音とか全然気にしなくていいから」
「えっ? あ、うん。入ってきます……」
壬生川さんに先に寝ると言われてしまい僕は脳内シミュレーションの結果が意味をなさなくなり焦った。
とりあえず風呂に入ってから善後策を考えることにして、僕は脳内が混乱したままいそいそと入浴を済ませた。
「壬生川さーん、って寝てるか……」
風呂から上がって部屋着に着替えると、壬生川さんは部屋の明かりを消してベッドで寝ていた。
この状態の彼女を起こすのはどうかと考え、でもこのまま寝ては意味がないというジレンマに囚われながら僕は洗面所で脱いだ服をトランクに片づけた。
洗面所に歯を磨きに行くと戸棚の上には壬生川さんが使ったコップや歯ブラシが置かれていて、彼女はお風呂から上がった時に歯磨きを済ませていたのだと分かった。
ひとまずベッドに入ると、僕は脳内で戦略会議を始めた。
(……さあ、どうする? このまま寝ていい訳ないし、でも無理やりなんてのは絶対駄目だし……)
旅行の疲れから戦略会議をしている間にも
それから10分ほど思案していた時。
「……ねえ、起きてる?」
布団の上から誰かが僕をつつき、その相手は紛れもなく壬生川さんだった。
「……うん、まだ起きてるよ」
振り返りつつ言うと、壬生川さんは僕の
「しないの?」
ぽつりと言って、そのまま自分のベッドに腰かけた。
「……いいの?」
ベッドから身を起こしつつ尋ねると、壬生川さんはため息をついて、
「あんたね……私が、身体を許せない男とホテルに泊まるような女だとでも思ってるの?」
一息にそう言うと、そのままベッドに仰向けに寝転んだ。
その瞬間、僕の頭の中の制御装置が外れた。
ベッドから立ち上がった僕は、寝転んでいる彼女の身体を真っすぐに求めた。
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