238 気分は男の義務
楽しく話していると時計はいつの間にか14時を指していて、そろそろホテルのチェックインがあるので僕と壬生川さんはおいとますることにした。
「それじゃあ、ぜひまた来てちょうだいね。これ、少ないけどお小遣い」
「ありがとうおばあちゃん。大切に使うから」
今朝の僕と同様に壬生川さんもおばあさんからポチ袋を貰っていて、これは帰省した大学生には付き物のイベントであるようだった。
「改めて、今日は来てくれてありがとう。……塔也君、ちょっと来なさい」
「あ、はい。どうかされました?」
玄関口で僕はおじいさんに呼び止められ、壬生川さんを玄関先に置いて再びリビングへと戻った。
「君たち、今日はホテルで一泊するということだが……」
「は、はい」
「男の義務はちゃんと果たすように。授かり婚などと言ってもわしは絶対に許さないからな」
「もちろんです、それはもう……」
大変もっともな注意事項を聞かされ、僕は恐縮して頭を下げた。
最後に別れの挨拶をすると、僕と壬生川さんはトランクを引きずりながら彼女の祖父母の実家を後にした。
ここから今日宿泊するホテルまでは歩いて10分ほどで着くので旅費の節約のため2人で歩いて向かうことにした。
「塔也、さっきはおじいちゃんに根掘り葉掘り聞かれて大変だったわね。お疲れ様」
「いやいや、おじいさんが本当に壬生川さんのことを大事に思ってるってよく分かったよ。色々お話できて楽しかったし」
「それは良かったわね。……私も杏子さんと仲良くなれて嬉しかった」
静かに答えた彼女を見て、今回の里帰りはお互いにとって大変充実していたと思った。
しかし、里帰りは彼女との旅行の一部に過ぎない。
僕にとってもおそらく彼女にとっても、メインイベントはここから始まる。
「壬生川さん、あの……」
「何?」
「手、つないでもいい?」
コンクリートで舗装された道を歩いている彼女に僕は声をかけた。
「駄目駄目。お互いトランク引いてるんだからそんなことしたら危ないでしょ。また今度ね」
「あ、ごめん……」
出だしからつまづきつつも、僕は彼女と今日1日を満足に過ごしたいと思った。
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