201 気分は罪な男

 それからすぐにお互いが注文した料理が届き、黒根さんはたこ焼き(塩味9個入り・450円)を、僕はオムそば(並盛り・550円)をそれぞれ食べた。


 メガドンのたこ焼きにはソース味、醤油味、ポン酢味、塩味の4種類があるが黒根さんはタレがかかっておらず綺麗に食べられる醤油味と塩味を好んでいるとのことだった。


 粉もん料理をあっさりと食べ終えると僕は再び黒根さんに話しかけた。



「研究医生っていうと、僕は今日から生化学教室の生島化奈さんと一緒に研修を受けるんだよ。2回生から研究医養成コースに転入したからまだ各教室を回ってる所」

「そういえば白神先輩は私とかチャラミツ君、ドウさんとは微妙に違うんでしたよね。生島先輩とは知り合いですけど、白神先輩に振られて落ち込んでるとか」

「ええっ、その話知ってるの!?」

「1回生の間でも結構有名ですよ。お2人というより壬生川先輩に憧れてる男子が多くて、その関係で白神先輩周りの恋愛事情も話題になってるみたいです」

「はあ……」


 壬生川さんは医学部にあるまじき美女なので後輩男子から人気なのも分かるが、まさか僕やカナやんの話題まで知られているとは思わなかった。


 僕自身今日からカナやんと一緒に生化学教室の発展コース研修を受けるのは若干気が重く、研修初日に不安になる話を聞かされてしまった。



「生島先輩と言えば、実は従弟いとこさんの答案の添削を頼まれてるんです。個人的な依頼なので普通はお断りするんですけど、研究医生の先輩ですし通常の2割増しの料金を下さるということで引き受けました。科目は数学と物理です」

「そうなの? 僕もその子のことは知ってるけど、黒根さんも協力してたんだね」


 カナやんの従弟である大阪月光学院高校3年生の生島珠樹たまき君は医学部医学科を目指しており、11月というと彼にとっては正念場のはずだ。


 カナやんは珠樹君の医学部受験には内心反対しつつも協力しているらしく黒根さんに答案添削を頼んだのもその一環なのだろう。



「私から言うのもあれですけど、生島先輩は従弟さんの受験のことを結構心配されてるみたいなので今月は優しくしてあげてくださいね。あ、でも惚れ直させるようなことになると困りますね。白神先輩は罪な男です」

「うーん……」


 思考回路が高度だからか覚醒している時の黒根さんは若干早口だが、このコメントについては何を言い返すこともできなかった。



 それからは2人で席を立って料金を支払い、お互い午後の講義に出るために講堂前まで話しながら歩いた。


 今日からはカナやんと2人で生化学教室の発展コース研修を受けることになるが、なるべくお互い気まずい思いはしなくて済むようにしたいと思った。

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