170 気分は突然の電話
マレー先輩からメッセージアプリを通じて電話がかかってきたのはちょうど土曜日の帰宅時だった。
9月14日と15日の土日で開催された研究医養成コース合宿から帰ってきて1週間が経ち、平日はいつも通り大学の授業に出て放課後にはマレー先輩の研究を手伝う形で微生物学教室の発展コース研修を受けていた。
先週は楽しいイベントとはいえ9月16日の敬老の日しか休めず連休が2日分なくなっていたので、今日と明日はゆっくり休もうと思っていた。
土曜日といっても午前中は発展コース研修があって、その後は自分へのご褒美も兼ねてやや高級なラーメン屋で昼食を済ませた。
壬生川さんとメッセージアプリで他愛もない話をして10月に予定されている免疫学・微生物学・感染症学の試験に向けて講義資料を見直しているとあっという間に夕食の時刻になっており、僕はいつも利用しているスーパーに夕食の買い出しに行った。
帰宅して割引弁当をレジ袋から取り出していたタイミングで僕はマレー先輩からの着信に気づいたのだった。
マナーモードのままのスマホをポケットから取り出し、応答の操作をして耳に当てる。
「はい、白神です」
『こんばんは、宇都宮美波です』
「へっ!?」
スマホから聞こえてきたのはマレー先輩の野太い声ではなく美しい女性の声でなどと形容するまでもなく、相手はマレー先輩の婚約者である宇都宮美波さんだった。
「みっ、美波さん、なぜ電話を!?」
驚愕のあまり乱れた文法で尋ねてしまう。
『そんなに驚かなくても大丈夫。ちょっと白神君に直接お願いしたいことがあって、まれ君にお願いしてスマホを貸して貰ったの』
「は、はあ……」
美波さんの
『実は来週の土日に畿内歯科大の大学祭があるんだけど、私は軽音部のライブコンサートでギターボーカルをするの。白神君には私もマレー君もお世話になったからもし予定が空いてたら見に来てくれない? もちろん無料だけど白神君は前の方で見られるようにするから』
「来週土日っていうと28日と29日ですよね。どちらも空いてますけど美波さんはいつ出られるんですか?」
それからしばらくやり取りをして、美波さんは9月28日と29日のどちらも昼13時からの軽音部ライブにギターボーカルとして参加してマレー先輩も両日とも見に来るので、僕はどちらの日程で来てもよいとのことだった。
「では28日の土曜日に参加させて頂いてもいいでしょうか? 美波さんの活躍を早く見てみたいですし」
『ありがとう。じゃあまれ君にも28日に白神君が来てくれるって言っとくね。当日の集合時間とかはまれ君に聞いてみて』
「分かりました!」
そう答えると美波さんは丁寧に電話を切り、軽音部のライブを見に来て欲しいという言葉は本心からのものであるようだった。
7月に何度もお会いした時の印象では色んな意味で危ない美女にしか見えず僕としても彼女には恐怖心の方が強かったが、マレー先輩の話からしても美波さんは本当に精神的に落ち着いてくれたらしい。
元々軽音部での美波さんの姿には興味もあったので、僕は畿内歯科大の大学祭を楽しみにしながらそれからの1週間を過ごした。
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