164 気分は夜ふかしボーイズ

「次はお待ちかね、OVAの『ふたりでとれーにんぐ』。これはもう中々だぞ」


 僕と並んで客室のベッドに横たわっているマレー先輩はそう言うとベッドのそばのテーブルに置かれている自分のノートパソコンを操作した。


 ノートパソコンはホテルの無料Wi-Fiに接続されており、先輩はブラウザから自身が契約しているアニメの定額配信サイトを開いていた。


「なるほど、これは……おおっ!?」


 このサイトは日本を代表する通信会社が月額400円(税抜)で運営している健全な動画配信サービスだが、配信されているアニメには健全でないものも多い。


 先輩のお気に入りらしいOVA「ふたりでとれーにんぐ」が再生されると、画面上には非常に豊かなバストの美少女が汗を流しながらストレッチをする映像が扇情せんじょう的なアングルで流れ始めた。



「白神君はこういうの好きか? 俺はもちろん大好きだ!」

「いやー、こういうのが好きじゃない男はもう男じゃないですよ。たまりませんね」


 男子大学生2名がベッドに並んで寝転びながらセクシーなアニメを見ている光景は客観的には非常に気持ち悪いが、こういう体験こそが合宿の醍醐味だいごみでもある。


 夕食を終えて先に客室に帰ってきた僕は先輩2名の帰還を待っていたが、結局帰ってきたのはマレー先輩だけでヤッ君先輩は夕食会場からそのまま呉さんと外に出かけるとのことだった。


 高校までの合宿と異なり大学生の合宿には門限や消灯時間という概念がないので、ヤッ君先輩と呉さんが2人で夜に出かけても特にとがめられることはない。



 客室に2人だけで残された僕とマレー先輩はとりあえず温泉に入りに行き、さっさと上がるとホテルに併設されたコンビニで缶チューハイやペットボトルのお茶、スナック菓子やおつまみを買い込んだ。例によって先輩が全額払ってくれて頼りがいのある先輩には感謝が尽きない。


 当初は簡素な宴会を楽しみつつ部活の話や身の上話で盛り上がっていたが、しばらくするとせっかくの合宿だからとアニメの鑑賞会を開くことになった。


 このホテルには宿泊者用の無料Wi-Fiがあるので先輩のノートパソコンをインターネットにつなげば2人で定額配信サイトのアニメを鑑賞するのは容易だった。



 それについても当初はSFアニメの金字塔と称される大長編OVAや近年放映されたテレビアニメの隠れた名作など真面目な作品を紹介しつつ第1話を見せてくれていたのだが、時刻が24時を回る頃には深夜のテンションもありセクシーなアニメを見て興奮するイベントと化していた。


 ヤッ君先輩は性的指向の関係上こういう作品には何の興味もなさそうなので、ある意味ではヤッ君先輩がいないからできることでもある。


「放映版だから修正入りまくりだが、この『はいぱーせんとー』も結構な楽しさだ。ほら」


 「ふたりでとれーにんぐ」の第1話が終わり先輩は新たなアニメを再生した。


 広々とした銭湯で男女2人がもつれ合う映像が流れ、大量に修正が入っているといってもこれが地上波で流れていたという事実に僕は驚愕した。


「本当に楽しいですね。先輩も美波さんとこういうことしたいんですか?」

「そりゃもう男の夢だからな。あ、でも美波にはこういうアニメ見てることは絶対秘密だぞ。彼女は二次元にも容赦ないからな」

「なるほど……」


 一般にこういうセクシーなアニメは彼女がいない男性が好みそうなものだが、先輩にとっては三次元と二次元は別の楽しみなのだろう。


 彼氏がアダルトな作品を視聴していて怒るか怒らないかは女性によって異なるらしいが、壬生川さんは後者であって欲しいと思うのは男のエゴなのかも知れない。


 それはそれとして。



「ちょっと小休止にSFアニメでも見るか。この『バンガード・レッド』はロボットアニメと生殖行為を融合させたとんでもない名作で……」

「面白そうですね。どれどれ……」


 そのまま深夜3時頃までアニメ鑑賞会をやっていた僕らは、翌日の朝に寝不足で苦しむことになるのだった。

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